2000年12月30日,ソウル・ヒルトンホテル

これまで私が観に行った公演は、YMCAにしてもクモ美術館にしても、小さな舞台であった。バンドにサックスがいなかったり、バックダンサーがいなかったりで、ステージとして、いわゆるエンターテインメントとしては不完全なものだった。ここヒルトンホテルで私は初めて、何もかも揃った環境のスンチョル公演を観る。

ステージ中央にUFOを立てたようなものがある。私はポータブルMDプレイヤーの操作部みたいだと思ったが、どう表現すればわかりやすいのだろうか?昔「帰ってきたウルトラマン」に出てきたベムスターという怪獣のお腹の部分というか・・・よけいにわかりにくい・・・とにかく装飾つき円盤状のものが、ステージ中央にデン!とある。座席につく前から気になっていたが、それが何なのかがわからぬまま、場内が暗くなって前座の演奏が始まる。

前座は向かって左側のステージ(始まるまでそこにステージがあるとは知らなかった)で演奏し、そこそこの拍手をもらって退く。続いていよいよ本ステージに照明が当たる。先ほどまで気になっていた謎の円盤の真中から、腰をかがめて7〜8人のダンサーが出て来る。曲はえらくベースを効かせており、下から突き上げて来るような感じである。踊りは目下(その当時)韓国を席巻している「テクノ」である。私はダンスはハッキリ言ってどうでもいいので、その中の紅一点のダンサーばかり見ていた(笑)

スモークに包まれ、UFOだかMDだかベムスターだかの中からスンチョルが現れる。場内は歓声嬌声の渦となる。スンチョルが唄い始めてようやく、私はそれまでの演奏がパンファンのテクノバージョンだと気づく。オープニングはしばらくイ スンガヌル オンジェッカジナで、それ以前はコムン コヤンイで、たぶんその前がこのパンファンだったと思うが、それをテクノバージョンにして復活させたのである。

そのまま、やはりこれもテクノバージョンのオヌルド ナンに続く。初っ端からこんな曲が出て来るか、とやや驚く。サビの部分のあの振り付けは健在で、私も手を動かしかけたが、誰もやらないのでやめた。オヌルド ナンのあとは、5集の曲順に従って(か、どうかは知らない)ピエ。私も(大声ではないが)ここまで自然といっしょに口ずさんでいる。記憶が正しければ計22曲、ほとんどの曲をいっしょに唄っていた。

今年スンチョルの父上が亡くなったのだが、そんな話をちょっとしたあとで、ットナヤ ハル ッテ。スローで悲しい、初期の曲である。昔からのファンにとってはたまらなく懐かしく、私にとっては生では初めて聴く新鮮な曲である。私は最初、単調で物悲しくてなんだか憂鬱な気分になるので、CDをかけるとこの曲を飛ばして聴いていた。しかしファンの中で意外にこの曲の人気が高いのを知って、何度も聴くうちになんとか耳慣れた。・・・とまぁ、いずれにしてもあまり好きではない曲だった。しかしこの日、スンチョルがそのまま泣き出すのではないかという調子で唄うのを聴いて、急に好きになってしまった。こういうスローな曲でこそ、歌手の実力が試されるような気がする。

曲順を憶えているのはここまでである。あとは順序がむちゃくちゃで、翌日思い出してメモをとったのだが、演奏曲は思い出せても、順序は、最後の曲が何だったかすらも思い出せない。1部、2部とも観たくせにこれであるから、まったく興奮状態にあったのだろう。以下、曲名を列挙しつつ個人的な思い入れを書いて行きたい。

アンニョンイラゴ マルハジマ
定番中の定番。と言ってもステージでは、以前からアレンジを変えて(ジャズバージョンだったかな?)唄っているので、原曲しか知らない人(日本から今後観に行こうと思っている人)には新鮮だと思う。

マジマク ノエ モスプ
「ある人」(誰だ?)のリクエストで、昔の曲を久しぶりにレパートリーに入れたそうな。関係ないが、この曲のカラオケは必ず歌詞が間違っている。最後の♪ふうぅぅぅふぅぅぅをマスターするには修行が要る。

マジマク コンソトゥ
これがなくてはコンサートに来た意味がない。♪パックロォ ナガボリゴォ以下約30秒・・・やはりすごい。

ヒヤ
♪ヒヤの部分を知り合いの女の子の名前に替えて唄うといいかも。♪ヨニヤ〜とか、♪ソニヤ〜とか。(関係なかったか)

イルム モルル ソニョ
バラードの多くがそうであるように、聴けば聴くほど味が出る。故・キムジョンホの曲のリメイクだが、もはやスンチョルのものになったと言ってもいいのではないだろうか?以前「イソラのプロポーズ」出演時に、‘リメイクはしてみたけれど、やはり元の歌手ほどには唄えない’と控えめな発言をしていたが、ファンの贔屓目を差し引いても、充分に自分のものとして歌いこなしていると思う・・・素人意見ではあるが。

チャムド オジ アンヌン パメ
スンチョル自身、この曲が好きだと前回の公演で言っていた。よほどの思い入れがあるのか、アンニョンイラゴ・・・ほどの知名度も人気もないにも関わらず、初期からずっと唄い続けている。精神的に疲れ気味のとき、心地よく響く曲。前にも書いたが、この曲はキム・ゴンモがリメイクしてヒットさせている。今回そんな話はしなかった。

チャグン ピョンファ
私はこの1曲だけでも、このコンサートの価値があると思う。私の一番好きな曲で、しかし生唄は聴くことが出来ないだろうと諦めていた曲なのだ。‘皆さんいい人をみつけて幸せに’みたいなトークのあと、イントロでビクッとして、♪ヌン ガム〜ンと始まったときには、涙が出そうになった。どんな内容の歌詞なのかは、いずれちゃんと翻訳するとして、まぁ「お前といっしょのこんな日々が、オレには小さな平和なんだ」と語りかける内容である。1部で聴いて、また2部で聴いてもジーンとしてしまった。ヘタでもいいから、私も世界でたった一人だけを相手に、真剣に唄ってみたい。ははは(赤面)。

チュオク ガットゥン イビョル
こういうミディアムテンポの曲もスンチョルの魅力の1つ。CDで聴くとそれほど迫力を感じないが、生で聴くとこれがとんでもなくパワフルで、プロの歌手ってすごいなぁとしみじみ分からせてくれる。この曲に限らず全部そうだと言えばその通りだが、初めてスンチョルの公演(東京YMCA)を聴いたとき、私にとってもっとも強烈だったのがこの曲だったので、特にここで書いておきたい。CDに合わせて自分で唄ってみるとハッキリするが、とてつもなく難しい(マイク持って舞台に立ったらもっとハッキリするんだろうけど)。私はまったくの素人だからうまく説明できないが、たとえば高音の苦しいところでの圧倒的な声量、それも苦しそうにせずにスコーン!と抜けるところ・・・もちろんそれだけじゃない。音域の広さ、音程とリズムの確かさ、圧倒的声量なんてことはむしろ当然で、そこまで備えた歌手ならたくさんいるだろうし、1、2曲で済むなら素人の中にもいるかも知れない。そんなものはしっかりと備えた上で、さらに表現力とか舞台で映えるとか、鼻歌だけでも聴き手を魅了できる何かがある、スンチョルはそんな歌手なんだと思って、いや無意識にそう感じて、背筋がゾクゾクしてくる。

ノル ポネン イユ
以前この曲が是非聴きたいと、人を介してスンチョルに伝えてもらおうとしたことがある。伝わったのかどうかわからないが(たぶん違うと思う)、イントロが始まったときに私は、自分のために唄ってくれるのだと思った。あとで冷静に考えるとそんなわけはないのだが、なぜかそう思った。この曲はサビの後半からファルセットになって、最後は澄んだ高音が延々と続いて終わるという、「泣かせ」系とでも名づけたいようなバラードである。

ピワ タンシネ イヤギ
これまた是非是非聴きたかったので、♪ア〜イガ〜と始まったときには我知らず「うぉー」だか「わぁー」だか、とにかく叫んでしまった。どうやら周りのファンも同じ気持ちだったようで、自分の声はとくに目立たなかった。この曲はスンチョルがソロデビューする前(プファルというバンド時代:プファルは今でも現役)から唄っている曲の1つで、最後に♪サランヘ サランヘ サランヘ〜と絶叫に近い調子で何度も繰り返すところが気に入っている。カラオケで唄うと途中で「もうわかったよ!」なんて言われてしまうのだ(--#

オジク ノップニン ナルル
去年のヒット曲で、韓国歌謡を最近聴き始めた人でも耳にしたことがあるかも知れない。同じキーで唄おうとすると洒落にならない曲で、ヤマ場はやはり後半の♪サーラーンヘーーーの部分だろう。残念ながらその部分は1部でも2部でも、なぜか客席にマイクを向けてしまった。さすがに苦しかったのだろうか?この部分はあとからファンクラブのカフェでも物議を醸し、なぜか紛れ込んで来たイ・スンファン(彼も近年「ライブの皇帝」と呼ばれているそうな)のファンから攻撃されたり、身内からもちょっと失望の声が上がったりした。でも私は問題の部分を、過去の公演でしっかりと唄い切るのを聴いているから構わない。それよりもこの曲が外国の作曲家(名前失念)から「無断使用」だとして訴えられ、公の場では唄えないことになったと聞いていたので、今回の公演で唄うことが意外だった。あとでファンクラブの1人が言うには、スンチョルの公演では大丈夫で、なんやら歌謡祭みたいな舞台ではダメらしい。真偽はよくわからない。

カッカイ ワボァ
私にとって可もなく不可もない曲。客がスンチョルといっしょに、頭の上で腕をグルグル回さなければいけない、という暗黙のルールがある曲。カラオケで唄ったことがあるが、私以外は誰も知らなくて困った(笑)

ソニョシデ
テクノバージョンである。この曲も私にはいまひとつ。昔からのファンにはウケがいいみたいだが・・・

クデガ ナエゲ
この曲はライブで聴かないと魅力がわからないと思う。CDではなんだか重苦しくてやぼったい感じがするのだが、幸いにも私はライブバージョンを先に聴いたので、好きな曲の1つになっている。ライブではずっと以前からアレンジを変えていて、ギターのギュイーンギュイーン(意味不明?)で始まり、それに合わせてスンチョルが体をのけぞらせたりして、客席は大いに盛り上がる。

ナ イジェヌン
オヌルド ナンと同じアルバムに収録されているアップテンポな曲で、ちょっと体を動かしたくなる曲調。だから、わざわざアレンジを変えてテクノにしなくてもいいと思うのだが・・・

チングエ チングルル サランヘンネ
この曲のテクノ化は、やめたほうがよかったのではないか?・・・この曲に限らず、なんでも流行り風にアレンジしてほしくないのだ。こう思うのは自分だけではない。何人かのファンクラブ会員も同じことを言っていた。

イ スンガヌル オンジェッカジナ
またテクノだよ(苦笑)少し前までオープニング曲だったのに、テクノ化されてチョイ役になってしまった。聴いたことがなくて聴いてみたい人には、原曲のほうがお勧め。

マルリッコッ
映画「ピチョンム」の主題歌(挿入歌かも)。聴けば聴くほど味が出るタイプの曲で、是非ナマ歌を聴きたかった。コンサートでもっとも感動した曲が先に書いたチャグン ピョンファなら、2番目はこのマルリッコッだった。歌詞がまたいい!翻訳してしまうと意味はわかっても雰囲気が伝わらないのだが、「こうして僕は倒れたまま、終わってしまうんだろうか?」「でも僕が行く先にはキミがいる」・・・そんな歌詞に私は揺さぶられるのであった。ホント、いい曲である。

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