アンブレイカブル解説
まずは時間を追って、シーンごとの簡単な説明から。
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配給はワーナーブラザーズではない。
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1961年。舞台は『シックス・センス』などと同じフィラデルフィア。
医師は黒人である。
赤ん坊の名はイライジャ。
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乗っている列車はイースト・レイル177号。フィラデルフィア行きである。
隙間から無言で見つめる少女は『シックス・センス』を彷彿とさせる。
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主人公は左利きである。
雑誌の名は不明。
代わりにスポーツ紙を手に取った彼女に「水が怖い」と告白。
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フットボール嫌いであることがあかされる。
男はデイヴィッド・ダン。
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少年が見ているのは『パワーパフ・ガールズ』。DCからコミックが出ている。
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3:40の列車。
医師は白人。
病歴がないことが明らかになる。
「NO」が繰り返される。
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ダンに付いてきたカメラはポスターを見た瞬間から離れ、見回した後、ポスターで止まり、視線を落とす。
ポスターの内容は不明。
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水とダンが映る。
大都会に出る主人公といえばスーパーマンのことである。
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左手で手に取る。リミテッド・エディションとは限定版のこと。
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SECURITYだがかすれて見えない。
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後の姿を彷彿とさせる後ろ姿。影。
ヒーローの誕生に雷が鳴っているのは不吉である。
アメリカン・フットボール。
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子供はジョセフ。
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妻はオードリー。
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1974年。西フィラデルフィア。
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鏡を覗く少年は『ミスター・ガラス』と呼ばれていることを告白。
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青い箱の中身は『ACTIVE COMICS』。スーパーマンが連載されていた世界初のスーパーヒーローコミック、『ACTION COMICS』(DC発行)を指す。マントをつけたヒーローはもちろんスーパーマンであるがマークが見えない。DCはワーナーブラザーズの子会社。
少年には逆さまである。
左下に『リミテッド・コミックス』とある。
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「このお話、ラストで驚くそうよ」
「”善と悪の戦い”を描く典型的な絵柄です
四角い顎はヒーローの象徴です」
頭が大きいのは悪の描き方の特徴で・・・・リアルな描写である、とも。
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再び、NOが繰り返される。
「あまりに無知な思い違いで」
リミテッド・エディションの看板。
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黒い影となるイライジャ。
少年は右手に水を持つ。
スーパーマンもフットボールチームの英雄だった。
エジプトの絵文字は漫画の起源を示す。歴史がキーワードであることが分かる。
フルネームはイライジャ・プライス。
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「この街にはいくつか大惨事が」
「見つめ」「待ち続け」
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「54回の骨折」
「その対局の人間も」
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ジョセフは水を飲むのをやめさせられる。
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「ウォリアーズ優勝戦へ」
6番。
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ひっくり返ったクラシックな車。
その下に超人がいる絵はス−パーマンのもっとも有名なイラストである。
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涙の妻。『シックスセンス』とは逆に彼女からデートに誘う。逆転の強調。
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SECURITYの文字がはっきりする。Sの文字が背にくっきり書いてあることからスーパーマンを思い出させる。
17−C。
高い天井の下に人々。
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スーパーマンは透視能力を有する。
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逆光が繰り返される。
スーパーマンのデビューは現在の妻の出会いと重なる(特に映画版)。
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道を渡る。
光の中から再び逆光。
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逆さの構図の中に銃。
杖が無くなったため、自然と右手が空くようになる(握手の伏線)。
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フットボールをやる少年。少年と男の取り合わせは『シックスセンス』『バットマン』を彷彿とさせる。
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もちろん、怪力もスーパーマンの特徴のひとつである。
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スーパーマンの妻、ロイス・レーンは仕事でレックス・ルーサーと関わりを持っている。
車椅子に乗る男といえば、X−MENのエグゼビア教授だが・・・・。
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白黒の世界に原色。
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家族の病気や怪我をきっかけとして誕生するヒーローもスーパーマンである。
またもや水。
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「ヒーローのルールでしょ」
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『シックス・センス』に続き、再び、台所に子供と親。恐怖と証明。
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映画版スーパーマンUでロイスのためにスーパーマンはヒーローをやめる。
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日本漫画の内、卑わいなものが翻訳され、販売されている。
『AKIRA』の大友はバットマンを描いている。日本漫画の手段を取り入れた人物としてはベン・ダン等があげられ、DCなどにも描いている。
マーヴルのスパイダーマンが見えるが・・・・。
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再び、逆転の構図。
『SENTRYMAN(見張る者)』は『ウォッチメン』を指す。DC刊行。
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プリンスと言えばバットマンである。バットマンはDC刊行。曲名は陰陽を表す。
「ルールはないわ」
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夢。サンドマンの棲む世界である。
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雨。
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同じ一本の曲線の両端。
スーパーマンにも弱点がある。もっとも有名な弱点はクリプトン隕石である。
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「暗闇の倉庫で自分の起源を探す主人公」。これもスーパーマンだ。
怪力で扉を破るのもまたスーパーマンによく見られるシーンのひとつ。
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教会を彷彿とさせる光の中に立つ男の姿は、一瞬『キングダムカム』のスペクターを思い出させる。DC刊行。
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雨が続く。
アメコミのヒーローは超人を相手にするタイプと、犯罪者を追うクライムハンターとに大別される。クライムハンターは自身は常人である場合が多く、ここでも逆さまの構図になっている。
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雨がやむ。
夢が強調される。
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飲み物が水ではなくなる。そして色が付く。
新聞の絵の構図でスペクターであることを確信させる。
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ようやく展覧会。序盤のパターンの繰り返しで、再び逆さまを象徴させるシーンがあると予感できる。
「悪者の目が大きい」
「世の中に対するゆがんだ見方を」
「恐ろしい顔じゃない」
「悪者には2種類」
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モノクロにどぎつい赤のポスター。
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「全て意味がある」
「コミックではどんな奴が最大の悪になる?」
「悪者にはあだ名がある」
重度精神障害者施設に入れられた点、あだ名、ヒーロー誕生の原因などはバットマンのジョーカーを彷彿とさせる。
総括 アンブレイカブルのトリック
本論にはいる前に、まず、最初にアメコミの基礎的知識を抑えておいて下さい。
アメコミ界では基本的にキャラの権利を全て、出版社が持っています。
代表的な出版社は2大アメコミ出版社のDCとマーヴル。
DCは、スーパーマン、バットマンなどを出している出版社です。マーヴルは、X−MEN、ハルク、スパイダーマン、BLADEを出しています。
では。
『アンブレイカブル』の特徴は2点。
1 叙述トリックを使ったミステリになっている
2 叙述トリックと分かった時点で、DCの歴史を追った作品と分かるようになっている
2の補足 物語そのものはスーパーマンの焼き直しだが、バックにDCの歴史の全てが盛り込まれている
初見でも途中でスーパーマンをモチーフにしていることが、すぐに分かります。しかし、終盤、車椅子に座った男が悪人ということが判明した時点で物語の意味が全く違うものになります。一見、単なるスーパーマンの焼き直しに見えるこの話が実は、ミス・リーディングを多用した叙述トリック・ミステリであると分かる仕掛けになっているのです。
このトリックによって、観客は『アンブレイカブル』をアメコミの物語と考えてしまいます。しかし、実際にはDCが出したアメコミに限っての、DCアメコミ総決算的な内容・物語になっています。
ミス・リーディングのためのトリックの部分とはこのような点。
・アメコミの統計が表示される(DCだけでなく、アメコミ全体の話と思わせる)。
・車椅子に乗った人物が現れる(マーヴル社のX−MENも入っていると思わせる)。
・スパイダーマンの人形が画面に映る(マーヴル社のキャラクターも入っていると思わせる)。
・ワーナブラザーズ配給ではない(ワーナー配給の場合は、DCがワーナーの子会社であるため、DCの話であろうと想像が付く。しかし、全く別の会社が制作した映画であるため、DCに話を絞るはずがないと思わせる)。
このトリックに引っかかった観客は、『アンブレイカブル』をアメコミの物語であると考えてしまいます。
アメコミの物語だとするなら、当然、イライジャはX−MENのエグゼビア教授を意味していることになります。エグゼビア教授であるなら、当然、味方でなければなりません。しかし、実際には味方ではない。ですから、この見方は間違っていることになります。
間違って、この物語をアメコミの話として見てきた人にはあのラストは唐突なものとして映ります。
しかし、そうではありません。あれは、けして、唐突なラストではない。
あのラストは 「1. きちんと伏線をはった結果の」、ラストであり、物語の要求に応じて「2.必然的に出てきた」ラストなのです。
1については簡単に説明できます。
イライジャ自身が、冒頭で、ヒーローと悪者の闘う絵柄をさして「”善と悪の戦い”を描く典型的な絵柄です。」の後に続けて「頭が大きいのは悪の描き方の特徴で」「リアルな描写である」といっています。その前にイライジャの母も「このお話、ラストで驚くそうよ」と、いっています。
伏線はここにはっきりと張ってあります。
他にも作中では陰陽、逆さ構図の多用で、主人公とイライジャが反対に位置する者であることを強調しています。
2の説明が難しい。
いくつもの要素が絡み合っているためです。
まず、「アメコミの物語でなく」、「これがDCの物語である」ことを証明しないと先へ進めませんので、この点について。
「アメコミの物語でなく」は既に証明済みですので、今回は後者「DCの物語である」についての説明です。
いろいろ考えましたが、やはり、これはもう、どういった作品が出ているかいった方が早いでしょう。『アンブレイカブル』がもう一人のスーパーマン(DC刊行)の話であること。同じくDC刊行の『バットマン』『パワーパフガールズ』『ウォッチメン』『キングダムカム』が見られること(上記、タイムスケジュールを参照)。
これらが、監督からのメッセージとして全編にちりばめられています。
特に実際に出てくるコミックが全てDC刊行である点が象徴的です。
これをアメコミの話とするなら、1冊くらいマーヴルものがあってもいいんですが、全然ないとなると、これはやはり、意識的にやっていると見るのがふつうでしょう。
よって、これはDCの物語である、と判断いたします。
すると、ラストですが、「ミスターガラスの異名を持ち」「クライム・ハンター ヒーローの誕生に影響を与え」「頭が大きい」人物は「ジョーカーの異名を持ち」「少年期のブルース・ウェインの両親を殺し(映画版)たことから、バットマンを誕生させ」「奇妙な髪型をしている」人物と同じ運命をたどるしかないでしょう。
物語の構造が、彼を悪人に仕立て上げているのです。
そして、もうひとつあります。
こちらの方が重要。
物語の全編を通して、雨と雷鳴が何度も出てきますね。わたしはこれを主人公の弱点を強調し、『キングダムカム』のスペクターの格好をさせるためだと思っていました。しかし、これがDCの歴史をたどる話だとしたら、もうひとつ理由があることになります。
よろしいですか。
雨と雷鳴の中でのヒーローの目覚めと自覚、決意、誕生。そして、それが決意した途端に消えるさま。
これが何を指すか。
意味するところはただ一つ、ワイリーの『闘士』。これしかないじゃないですか。
あのスーパーマンの元ネタとなった『闘士』のあらすじそのままのラストです。
そうです。
DCの歴史をたどったこの物語。
陰陽、逆転を強調したこの物語。
この物語はラストに始まりに戻り、『闘士』のラストで終わらざるを得なかったのです。
だから、ラストでイライジャが悪人と分かるのです。そこで、ヒーローの決意と誕生が瞬間、全て消えてしまうのです。
完璧な叙述トリック。
話はこび。エンターテイメント性。
そして、アメコミの、DCの歴史をその作品の中に全て盛り込んでみせる手腕。
あの『新世紀エヴァンゲリオン』と『ハイペリオン』がやろうとしてなせなかった全てがここに凝縮されています。
補足1
シーゲル達は『闘士』の作者、ワイリーに手紙を送っています。その内容はワイリーの『闘士』をモチーフに、ひとりのスーパーヒーローが誕生したことを告げるものでした。
そのヒーローこそ『スーパーマン』。
誌名を『ACTION COMICS』といいます。
続けて、黒きコウモリの姿をした人間が犯罪者を追う物語が現れました。その為に創刊されたのが『DETECTIVE COMICS』。これを縮めて、DC。やがて同名の会社が現れることとなります。
補足2
不明な点。
数字が何度も強調されるが、私には分かりませんでした。
おそらく、アメコミの号数を指していると思われます。
補足3
『ウォッチメン』『キングダムカム』『サンドマン』はそれぞれ『ニューロマンサー』『ハイペリオン』クラスのアメコミの傑作です。あなたがSF者を名乗るなら読んでないことは罪といってもいいでしょう。
また、『シックス・センス』がモチーフ、アンチテーゼとして多用されている点にも注目して欲しいので、これも見て置いて下さい。
これら全てを見ることで、物語の意味がまるで違ってくるはず。
他にSF−onlineの解説も。SF好きな人からは、不満の声が多かったようですが、アメコミファンと見に行って感想を聞いたところ、そのような感想は聞かれなませんでした。自覚的に見た方が楽しめたようです。
アメコミファンの間で聞かれた共通の見解は『スーパーマン』『パワーパフガールズ』『キングダムカム』『ウォッチメン』が見られるとするもの。中にはマーヴルの要素をあげる人もいたので、上はあくまで私の意見と割り切って読んでください。