−−【「群」ではそうだろう】
おそらく儂が最後の一人だ−−影踏丸と名乗った黒い猫は、そう言おうとしてやめた。
−−【私を喰いたいのなら好きにするがいい・・・・】
−−【猫は喰わん。「不落の域」からここまできたのか? 「四ノ政」を治めるのは今も明堂長清か?】
白い猶は側頭部の体毛をカ無く、微かに黄色く発光させる。
肯定。標準カラード言語。
−−【・・・・たのみがある・・・・】
白い猫からの出カ(アウトプット)がおちはじめ、影踏丸は受信素子の感度を上げる。
−−【私にはできなかったが・・・・たのむ、】
死ぬほど弱々しい白い猫の視線をうけとめることが、影踏丸にはできなかった。
−−【長清以外の猫にはどんな気閘をも開けることはできん。脳が閉じている。猫はそう創られた。この障壁を開ける事ができるのは「片輪の主」だけだ。この障壁の向こうで死ぬ事ができたのは「片輪の主」だけだった】
脆い感情がケーブルに流れ込む。微かな笑み、に似たもの。
−−【 「単」も僧院の方のようなことを言うものだな】
−−【(開ける事が叶うなら儂はとうの昔に地球儀に逝っている。壁の向こうには「片輪の主」が封じた病毒に満ちている。】