『黒猫館』『黒猫館の殺人』について
『黒猫館の殺人』文庫版あとがきを読みますと、この作品はポーの『黒猫』をスパイスにして作った某作品へのオマージュである、とあります。
某作品とはエラリー・クイーンの『神の灯』のこと。
ある朝起きるとベッドにさす光の位置が変わっていたというお話。実は、寝てる間に別のそっくりな建物に運び込まれていたというのがトリックです。
『黒猫館の殺人』はオーストラリアで起きた殺人事件を北海道で起きた殺人事件と勘違いしてしまうというお話。赤道に置いた鏡にうつる鏡像のように建つ、ふたつの館がトリックとして使われるのです。
この館のモチーフは不思議の国のアリスなんですが、これもまたクイーン的ですね。
つまり、クイーン的に作るというのがこの作品の隠れたテーマなのです。
クイーンの得意技というと字置き換え(アナグラム)。
『黒猫館の殺人』でもトリックに使われています。
管理人である鮎田の正体は実は元の持ち主である天羽なのですが、単純なアナグラムによる偽名なのです。
私はこれを、アナグラムが使われているぞ、という作者からのメッセージと見ます。『黒猫館』のキャラをもじったような名前が出てくるぞというメッセージなのです。
『黒猫館』 → 『黒猫館の殺人』
ムラカミマサキ カザマユウキ (共通点:東京の大学生)
鮎川冴子+有紗 鮎田理沙子 (共通点:黒猫館に住み、近親相姦にふける)
他に『黒猫館』の自体の共通点。
・人里離れたところにある
・クスリを使い、多人数でセックスにふける
などなど。
奇妙な偶然の一致? そうでしょうか。4人持碁よりあり得ない話なのでは。
また。
『黒猫館の殺人』は『十角館の殺人』の鏡像にもなっています。
『黒猫館の殺人』は館シリーズ第一期の最終巻。
『十角館の殺人』は館シリーズの最初の巻。
『十角館』では名前が叙述トリックに使われています。あるルールでキャラの名前が決まっている・・・・と見えるのが罠です。そう考えると謎が解けなくなります。
『黒猫館の殺人』は逆。『黒猫館』を元ネタにしてキャラの名前が決まっている・・・・というルールに気が付くと謎が解けてしまいます。
『黒猫館の殺人』が『十角館の殺人』の逆の考え方で解けるようになっているというのは、黒猫館元ネタ説の根拠としてはいまいち弱いのですが、理論補強には役立っているはずです。
・・・・状況証拠ばかりで、いまいち決め手に欠けますね。