ネズミ側

 本能的に理解した。間違いない、こいつだ。信じがたいことだが、今目の前にいるこのデカブツは、プレイファングの作り出す合脳のネットワークに、それと知られることなくもぐり込む能力がある。「集合(バンド)」して排水溝に突入した瞬間から、プレイファング達は的の術中にあったのだ。位置を読みとり、偽の情報を巧みにすり込ませて、同士討ちを演出し、プレイファングが助けを求めたときはそれを妨害し、そして−−
 こともあろうにこのクソ野郎は、死にかけているスネークテイルの思考を見せつけやがったのだ。
 キレた。恐怖が臨界点を(以下略)


 ゴキブリ側

 (略)その臭いにはあからさまなとげがあった。
「貴僧が追いし曲者取り逃し事、申し開きの術ありや」 
 そう言って、朝嗣は顎を鳴らし、気門をひくつかせる。あきらかな侮蔑を込めて、繊毛が静かな怒りに波打ち、承弘は短く応える。
「尊師より賜った命に従ったまで」
「笑止。曲者を取り逃せば同じ事。(略)」