back 幼稚園児 2倍について考えた。 「ポケットを叩けばビスケットが2枚♪」 「も ひとつ叩けばビスケットが4枚♪」 俺が園児だった頃のお気に入りソングbest10の第1位は いつもこの曲だった(笑) 今 考えれば 何という夢のある歌。 幼少の頃の まだイタイケだった俺は そのまま素直にその歌を歌い そして信じた。 茶道を習っていた。 といっても近所の上品なお婆さんが その辺の子供たちを自宅に集めて趣味で教えていた茶道である。 今 目を閉じ 記憶を辿ってみる・・。 公園で体を思いきり動かして遊びたい年頃。  何故 僕らがそのお婆さんのところへ 飽きもせず足を運んだかというと・・ 目的は帰り際に和紙にくるんでくれるお菓子。 毎回 お菓子の内容は変わるが 大体の主流は ビスケット1枚。それと肌色で丸くて小さいボーロというお菓子5〜6粒。 それと銀紙に包まれたスティック状のチョコ1本か2本。 銀紙に包まれたチョコを食べる事は 母からきつく禁じられていたので いつも泣く泣く友達にあげた。 その友達も俺が母からそう言われている事を知っていて 毎回当たり前のようにチョコを要求した。 幼心にもその態度が許せなかった事を覚えている(笑) 公園で俺は試した。例によって実験だ。 今 ここにビスケットが1枚ある。園児から見れば巨大なビスケットだ。1枚食べればもうお腹いっぱいって感じ。 でも いやしかった園児スズオは 食べてなくなってしまうビスケットが悲しかった。 家へ持ち帰って もう1回食べたい。 アレを試す時。ソレは今! 園児スズオは 緊張の面持ちでゆっくりとビスケットを半ズボンのポケットへ入れる。 「歌いながらじゃないと効果ないかな?」 そう思ったかどうかは 今となっては不明だが 俺は思いを込めて一生懸命 大きな声で歌った。 「ポケットを叩けばビスケットが2枚ぃ〜♪」 姿勢を正し キチンと揃えた両足のかかとでリズムをとった事は言うまでもない(笑) 紅葉のようなイタイケな手で激しくポケットを叩く。パシッ パシッ! ポケット内に漂うボロボロ感に不安になりつつも叩き続ける園児スズオ。 バシッ バシバシッ(ぼろぼろ・・) バシバシバシッ!(ぼろっ ぼろぼろぼろ・・) やがて不安は恐怖へと変わり 取り乱す。 鼻水が垂れ 涙がチョチョ切れる。嗚咽がこみ上げ呼吸が乱れる。 ピヨピヨピヨピヨピヨ・・ 走るとピヨピヨいう靴を鳴らしながら全速力で家へと走る。 涙で頬を濡らしつつ玄関のドアを開ける。 「ママァーーーー!(ノ_・。)」 母がズボンを脱がしポケットをひっくり返す。そしてバラバラになったビスケットを怪訝そうに見る。 「叱られるかも!」 と一瞬 身を固くする園児スズオ。 しかしやはり母は母 すべてお見通しのようだった。 優しく微笑み俺を見て歌った。 「ポケットを叩けばビスケットが2枚〜♪」 って ホントはこんなノスタルジックな話を書こうと思ったわけではない。 ”2倍について考える”の2倍とは 競馬の倍率の事。 レースまで後10分。オッズを見ると馬連1番人気で2.0倍。 ガチガチの鉄板レースである。 本命&対抗のワンツーフィニッシュは誰にでも予想できる。 出走頭数も少ない。馬主や厩舎の人たちも あの本命と対抗の2頭の馬にはかなわないな と読んでの出走回避だろう。  そんな時 ほとんどの人は「チェッ 2倍しかつかないか・・」と言って穴馬券を買う。もしくはそのレースを見送る。 だが俺は違う そうゆうレースだからこそ燃える。 「夢が無いなぁー」とか「競馬はロマンじゃん」とかよく言われてしまうが気にしない。 そんな時こそ思い出して欲しい あの歌を。 そしてあの歌に夢を感じ 瞳をキラキラと輝かせたあの幼少時代を(笑) 「ポケットを叩けばビスケットが2枚〜♪」 大人になり 汚れっちまったオレにとっちゃー ビスケットは馬券に変わってしまったけど 瞳の輝きはあの頃と同じ! ポケットを叩けばお財布の中身が2倍になると思ってみて欲しい。 (☆o☆)キラキラ っていうか ハズレ馬券が2倍に増えるだけかも知れないけどね・・(苦笑) それもまたロマン! そして今週もまたやってきた週末。 固そうなレースを探す俺を笑わないでくれ。 汚れっちまった俺を笑わないでくれ。 中学時代 『豚まんセット』が届いた。関東では「肉まん」関西では「豚まん」と言うらしい。 最近なんとなく肉まんづいている。昼食も肉まんで済ませる事が多い。 肉まん あんまん ピザまん カレーまん でもって キャラメルまんや プリンまん なんていうものまである。 昼休みが毎日楽しみだ。 最近 ネットでの会話も肉まん関係の話題が多い。肉まんを語る時のみんなは饒舌(饒タイピング?)だ。 それぞれにお気に入りのメーカー及び店舗があり それを激しく薦め合う。 勢いづいて「中華まん」でネット検索してみた。大阪に美味しそうな豚まんをみつけた。 「大阪なんば蓬莱本館」ネットでの通販は なんとなくコワイので今まで敬遠してきたが 料金着き払いなら カードを使わない分 安心なのですかさず申し込んだ。 『豚まんセット』豚まん6個入りx3 と ジャンボ焼売6個入りx2 のセットだ。 賞味期限を見ると残りわずかだった。まあ心配ない。それまでにペロリと食べてやろう。 冷凍すれば もっと持つらしいが そんなんじゃ風味を損ない兼ねない。 これでしばらくは豚まんにまみれた生活になりそうだ。 ラップしてレンジでチンするか ちゃんと蒸かし器で蒸かすか迷ったが とりあえず手早くレンジでチンして食べてみた。美味しい! d=(^o^)=b だがしかし まんじゅうの部分がブリブリしてて 一個一個に重量感があるので  そうそう沢山食べれるようなモノではない。甘く見ていた。 2個、いや 3個が限界かもしれない。 美味しく感じられてる範囲で食したいので 今日のところは3つでフィニッシュ! (●^。^●)うぃっぷ♪ 口の中に広がる肉まんの風味とともに蘇ってくる思い出がある。 中学の頃よく 神楽坂の五十番という中華料理屋の肉まんを食べた。有名な店なので知ってる人も多いと思う。 でもそのころの僕らは肉まんを食べに神楽坂まで出掛けてたのではない。飯田橋駅前にある  ちょっと怪しげな映画館で3本だての映画を見るのが目当てだった。 多くは語りたくないが その頃のまだイタイケな僕らには とても刺激的な映画の3本だてだった。 3本見終わり ほぼ放心状態(笑)の僕たちは坂を登り 五十番まで行き そこで肉まんを買った。 そして再び坂を下り 肉まんをむさぼりつつ飯田橋からお堀沿いを赤坂へ向かって歩いた。 そうだよー あの頃は飯田橋⇔我が家間を平気で歩いて行き来してたもんなぁー。 今じゃ考えられない。 ある日の夕暮れ時 そのお堀沿いを 放心状態で(笑)ぶらぶら歩いてると  ガフッガフッ という物音がお堀から聞えてきた。 同時にバシャバシャという水の音も聞こえたので「でけえ魚がいるぞー!」とばかりに  突然の凄いスピードでみんなして土手を駆け下りた。 でもそこで僕らが見たのは でかい魚ではなくて 溺れている犬だった。 水面までは高さがあったので 手を伸ばしても犬には届かない。 犬は岸壁すれすれを漂い顔とか体を擦りまくっていたのでとても痛々しい姿だった。 ホントは触るのもイヤなくらいの傷だったんだけど 見捨てて行く訳にはいかないので 色々とみんなで知恵を出し合い助けてあげる方法を考えた。 が 所詮3馬鹿トリオ(その時は3人だった)が考えるような救出作戦はどれも上手くいかなかった。 その時は夏だったんだけど 3人が着ていたTシャツを脱ぎ1本に結び水面へとおろした。 犬が噛み付いてくれて それを俺らが引っ張りあげようという作戦だったが  ソレに犬が噛み付いてくれるはずもなく 半裸の我々は痛く落胆した(笑)   一人の両足首を残る二人がしっかりと握り 逆さ吊りにして犬を救出しようという案も出たが  誰が逆さ吊りになるかで大もめになり その作戦は実行に移されなかった。 耳をふさぎたくなるような苦しげな声を犬が出すので みんな慌てていたし 喧嘩っぱやくもなっていたので危険だった。 近くに白いシャツに白いステテコのようなものを履いたオッサンがいたので その人も巻き添えにした。 先ほど実行できなかった作戦を打ち明けると そのオッサンが逆さ吊り役を引き受けてくれた。 さっきから僕たちの行動やいざこざを見ていて苛立っている様子だった。 感じ悪かったけど正義感のある人だなぁ と思った。 辺りはもう闇に包まれていたが オッサンの異様なまでに白い肌に生えるすね毛だけはハッキリと見えた。 「濃い!」そう思いT君とS君に小さな声で「すね毛 すね毛」と知らせた。 一番大切な時、いざという時、決して笑っちゃイケナイ時、 そんな時に限って耐え切れない笑いはこみ上げてくる。オッサンの足を持ちながら僕ら3人はブヒブヒ笑った。 ぎゃはははは!と大いに笑いたかったがオッサンの気持ちを考えるとそうもいかなかった。 結局オッサンは犬を抱える事が出来ずにその作戦は失敗に終わった。 犬はもう犬かきとも言えないような泳ぎ方になっていた。時々沈んだりもしていた。 オッサンは大人気なくメチャクチャ怒っていた。僕らに罵声を浴びせるし もしかして殴られるかも!と 思うくらいの剣幕で怒っていた。ブヒブヒ笑った僕らが悪いのは分かるが そんなに怒るなよオッサン。 いざとなったら俺らだって怖いんだゾ!と反抗期真っ只中の僕は思った(笑) オッサンは遂に嫌々ながらシャツとステテコを脱ぎパンツ1枚になった。そして足から地味にお堀へ飛び込んだ。 相撲のツッパリのような形で犬を両手で突きつつ水草の生える浅瀬の方まで泳いで行き無事に犬を救出した。 僕らは拍手をした (*^^)//。・:*:・゚'★,。・:*:♪・゚'☆パチパチ 土手の上の道からも拍手が聞こえた。気付かなかったけど 結構見物人が集まってきていた。 「お前ら 見てないで手伝えよー」とも思ったし 「オッサン 最初から飛び込めよー」とも思った。犬は4本の足で立っている事が出来ずに草の上でうつ伏せていた。 次の日 学校で僕らが人気者になったのは言うまでもない。 3人の証言がそれぞれかなり食い違っていたので(笑)とても怪しまれたが  あの時 僕らが良い事をしたのは紛れもない事実だ。 胸を張って自慢した。 先生も大きくうなづきながら僕らの話を聞いていたので映画の感想を話せなかったのが残念だった。 犬を助けたのと同じくらい ああゆう映画を観たって事は自慢できたのに! 高校時代 寒い冬 チラホラと小雪が舞うような日 口から吐く息って真っ白だよねぇ? 高校生だった頃のスズオ少年は 何にでも興味をもち 結果を求め 真実を求め 何かと実験してみないと気が済まない性格だった。 口から吐く息が白ければ 鼻から吹き出す鼻息も当然白かった。 友達の白い鼻息をジッと見ては「君 右の鼻の穴詰まってるでしょ?」と優しく(?)指摘してあげたりもした。 ある寒い冬の日の下校時間 ふと思う。それなら オナラは?  友達と輪を組み談議する。が 答えは出ない。様々な仮説が飛び交うだけだ。 じゃ 俺が! と 放屁可能の気配を感じ取った友人Aが 文字どおり屁っ放り腰(笑)になり「プゥー」と放屁。 みんなの注目は友人Aのお尻に注がれた が 期待とは裏腹に全然白くならない。 再び輪を組み相談。そして1年後輩のB君を路地裏に連れて行き「ズボンとパンツを脱げ」と命令する。 最初 冗談だと思ったB君は 力なく 「アハ アハハハ」と笑うが  僕たちの真剣な目を見て黙ってズボンとパンツを脱ぎだす。 「出ません!出ません!」と屁っ放り腰のB君は悲しい声を出す。 日は落ち 街路灯に照らされた白い尻が 余りの寒さにホンノリと赤く染まる。 優しい僕ら先輩たちは こんな寒い日に長い時間尻を出していたら風邪をひいてしまう とB君をいたわり B君が放屁可能になるまでズボンを履かせて待つ。僕は暖かい缶コーヒーをB君に買ってあげた。 お尻を振ったり腰を回したり お尻の穴あたりをコブシで叩いたりとB君は来たるべき放屁タイムに向けて一生懸命だ。 「d(_・) OKです!」やっとB君からオッケーサインが出た。再びみんなでイソイソと路地裏に移動する。 ズボンを脱ぎパンツを脱ぐB君。 それぞれに見やすい位置に移動する我々。誰かが言った「さあ どうぞ」 固唾を飲んで見守る ( '_')ジッ 「・・・・・・・・・・・」 どれくらい待たされただろうか? 「早くしろよー」と誰かが言い出し兼ねないくらいの時間が経った後 意表をついて「ぶぅーーーーーーー!」 オナラ全開を100lとするならば90lはイッテイタと思われるくらいの豪快なオナラ。 小雪舞う田舎道を機関車が走る。白い煙をもくもくと吐き出しながら。 車掌が汽笛を鳴らす「ぴゃーーーーーーーっ!」 汽笛の筒の蓋が開き 爆音と共に勢い良く吹き上がる白い煙。 B君のお尻から噴出された白い煙はまさにそんな感じだった。 僕は白いモワモワしたのを想像していた。夏の空に浮かぶ入道雲のような感じのヤツ。 だが実際は そんなヤワな形ではなかった。勢い良く一直線の白い煙だった。 長さにしたら40〜50cmはあったはず オナラなんてものは普通 そのサウンドとその臭いで感じ取るもの。 初めて目にしたオナラの実像に僕らは感動した。衝撃的ですらあった。 実験は成功だった。 こうして少年スズオは日々大人になっていった。 ガラスの10代 ちょっとした会議があったので昼飯は会社で配られた幕ノ内弁当だった。 白いご飯の真ん中に赤い梅干し。いわゆる日の丸弁当ってヤツ? 甘いものも好きだけど 酸っぱいものもかなり好きだ。できる事ならば コリコリした小さい梅干しじゃなくって でかくてドロリとしたヤツがのっかってて欲しかった。しかもシソ風味じゃなくってカツオ風味のヤツ。 前歯でむなしくコリコリとその梅干しを噛みながらそう思う。 そしてフト懐かしいあの遊びを思い出す。 今はもう誰もしなくなったけど 昔 その幕ノ内弁当の梅干しを利用したとんでもない遊びが仲間内で流行った。 ここに書いてしまうのも気が引けるくらいのクレイジーな遊びだけど ま もう時効という事で  楽しかった思い出話として ここに書き記しておこう。 仕掛けはこうだ。 ホカ弁などで売っている幕ノ内弁当を買ってきて まず梅干しだけ食べてしまう。 で 梅干しの下の部分だけ 筒状にごはんも食べてしまう。容器の底に各自のサイズに合わせた(謎)丸い穴を開ける。 部屋の壁を背もたれにし 足を投げ出して座って ズボンのチャックを開ける(笑) 開いたチャックを隠すように 先ほどの細工した幕ノ内弁当を乗せる。 こ、これ以上はもう・・ 何も言いますまい・・。 ちょちょいとご飯を整えれば それはもう梅干しそっくり♪  偽梅干しの真ん中にご飯粒を1粒のせるのがコツといえばコツ(笑) お茶を入れに行かせた女の子たちが部屋に帰ってくる。 しらじらしくパカッと弁当の蓋を開け 「いただきまぁーす♪」 みんなが壁に一列に並んで 同じように両足を投げ出して座り 弁当を食べている姿はさぞ異様だっただろうが 偽梅干しだとは誰も気付かない ('-'*)フフ 頃合をみて「俺 梅干し 苦手なんだぁー これ あげるから食べてー」と女の子に罠をかける。 ほぼ100lひっかかる。 その偽梅干しをつままんとして恐怖映画さながらに迫りくる割り箸。嬉しくもあり怖くもある。 つままれる寸前でストップをかけないと大変な事になりかねない。 現に僕の友達は割り箸で思い切り挟まれ なおかつ引っ張られて悶絶した(笑) 僕くらいのテクニシャンになれば(笑) つままれる寸前に腰を引き ”消えた梅干し”を演ずる事もできるが ヤツにはまだそんなテクは備わっていなかった (´ー`)┌フッ ネタをばらした後 俺らは腹が痛くなるほどの大爆笑だが まず女の子たちはひく。 その辺の覚悟も必要だ。 その後 もちろん弁当はたいらげるが 何故か皆 中心部分のごはんだけ ちょこっと残すのが祭りの後って感じで ホロ苦い。 胸がキュンと絞めつけられるような愛しさも感じる(笑) 幕ノ内弁当を食べるたびに あの遊びを思い出す。 初春散髪2000 1週間前の僕は苛立っていた。 いつまで待っていても営業を再開しようとしない 行きつけ床屋に見切りを付け  伸びきった髪を風になびかせつつ近所をさまよった。 おお 結構 床屋ってアチコチにあるものなんだな。今まで ずっと同じ床屋ばかり行っていたので気付かなかった。 しかし 週末だけあって どの店も2〜3人は順番を待っている人がいる。床屋での待ち時間・・ 結構あなどれない時間の浪費だ。 僕は道から店内を覗き混むだけで どの床屋へも入らなかった。 混んでるから という理由で家へ帰ってきてしまったが 心のどこかで初めて入る未知の床屋にびびってたのかも知れない。 そして1週間たった今日 遂に僕は髪を切った。サッパリと♪ 武蔵小山商店街へ行った。大好きな商店街だ。今日は一人で行った。明日は日曜日。 日曜大工と洒落込もうかと思い ベニヤ板を買った。あと鳥の餌とかも。 日曜大工用品と鳥の餌関係が充実している総合ショップみたいなのが武蔵小山商店街にはある。 「丸清」という店。ここにはかなりの回数来ているのでお目当ての商品で店内を迷う事はない。 鳥のヒナも売っているので 買う気はないがちょっとチェックしてみる。 セキセイインコと小桜インコのチビチビ雛が同じケースの中で身を寄り添い合いうごめいていた。 1mx1mのベニヤ板はでかくて持ち歩きにくかった。1度 駐車場へ戻ろう。 途中 軽いだけに 風にあおられ周囲の人に迷惑をかける。すまん。 車にベニヤ板と その他もろもろを積み込み 再び僕は商店街へ。一人だと身軽で良い。 4枚で1000円のバンダナ(鳥糞対策用)と ゆらゆら帝国のCDを買う。 さて せっかく武蔵小山まで来たのだから名物の「ふくふく餃子」でも買って帰るか と駅前まで歩いて行く途中に床屋を見付ける。 チラッと店内を覗くと 待っている客は一人もいなかった。 床屋の看板(あの赤とか青とかの渦巻き模様がクルクル回ってるヤツ)が置いてあるがなんだか美容室みたいな雰囲気の床屋だった。 ま いっか ちょっくらここで髪を切って行こう!迷わずその床屋へ入る。 さっき覗いた時は オヤジ店員がオヤジ客の髪を切っているとこが見えたのだが僕の担当は女の人だった。 うわー やだなぁー。女の人に髪切ってもらうのって何だかやなんだよなぁ。 3つある椅子はそれぞれがビッチリと区切られていて さり気なく個室風味が漂っていた。ますます緊張するオレ。 「耳を出して 襟足はさっぱりと」とだけ注文を出し うつむく俺。椅子の肘掛に肘を乗せていたら やけに店員の体に接触しまくるので 肘を引っ込める。 引っ込め方がしらじらしかっただけに 店員に気付かれる。ますます気まずい。 天気の話題とかで さり気なく話しかけてくれればいいものの その店員は何も喋ってくれない。 鏡に写る自分の顔を見ているのすらも なんだか気まずいので首から縛られたナイロンのテーブルクロスみたいなヤツの模様をじっと目で追った。 ハラハラと切り落とされた僕の髪が落ちてくる。感触で頭のどの部分の髪をどのように どれくらいの長さに切っているのかは分かるが 次第に出来あがりつつある スズオnewヘアスタイルへの過程を鏡にて確認する事は出来なかった。 シャンプー後のマッサージタイムが圧巻だった。腕まで揉まれた。 頭のてっぺんから こめかみ そして肩 腕 そして背中を押されて前かがみ姿勢にされ 背中の指圧。 左手でおでこを押さえられ右手の指で首筋を押された時は 頭を掻いてもらってウットリしてる鳥たちの気持ちが少し分かったような気がした(笑) 顎が上がり鏡に写る自分と目が合う。シャンプーしたてで濡れた髪はあまりにも無防備でだらしなかった。 熱いタオルで顔を蒸されたので 頬も赤く染まっている。恥ずかしい・・。しかし尚もマッサージは続く。次はマッサージマシーンの登場だ。 マシーン1号はこん棒のような形をしていた。体のあちこちに押しつけられる。頭に押し付けられると 奥歯がガチガチいった。 「あ〜〜〜〜〜」とか「ん〜〜〜〜〜」とか言って声の揺れを楽しみたかったが今は一人じゃないのでそんな遊びは出来ない。(ё_ё)キャハ マシーン2号はうちにもあるヤツだった。四角い本体から取っ手が2本でてるヤツ。 背中の上から下へ そして下から上へ ゆっくり押しつけられつつ何往復かする。 いつも床屋で思う事なんだけど 肩を叩く時に店員が両手を叩き「ポムッ!」それから僕の肩をトントントン♪ ポムッ! トントントン♪ 実にリズミカルで d(_・) グッド! なんだけどポムッ!っていうのは余分だよねぇ?(笑) 両手の手のひらをやや丸め気味にして ポムッ!手と手の中に空気を含ませるって意味があるのだろうけど・・。 そう理容学校で教わるのだろうけど・・。笑っちゃうじゃん。 ヤメテよ あの音。ポムッ! マッサージが終わる頃には僕の髪はほとんど乾いていた。 ドライヤータイムはあっさりと終わり 散髪終了♪ 手鏡を渡され 出来あがりチェックをする。耳をグリングリンに出し過ぎてるのがちょっと気になったが まあ良いだろう。 これでしばらくは武田鉄矢のように耳にかぶさる髪をかきあげる必要はない(笑) 女性に髪を切ってもらうなんてことは ホントに久しぶりの事だった。 しかもあんなに濃厚なマッサージまで・・。開放感からか いきなり僕は調子に乗った。 レジ前にてコートを着させてもらう時に おちゃらけて華麗に1回転してみたら かなり受けた。 ラストのラストでやっと和む。ホッ(*^。^*) お年賀みたいな粗品をもらい店を出る。さ 餃子買いに行こう! 2000年 春 運転免許の更新をしに鮫洲まで行ってきた。 これを理由に仕事を抜け出せたので良い気分だ。天気も良い。「車でのご来場はご遠慮下さい」が決り文句の 運転試験場だが しっかりと広い駐車場が完備されてる事を俺は知っている。 鮫洲へ向かい海岸道路を飛ばす。 道中コンビニに立ち寄り ”平焼きくるみパン”と 新発売の”海のサプリ”を買う。ベビースターラーメンも買った(笑) ”海のサプリ”はとても不味かったので もう2度と買うまいと心に誓いながら しかめっ面で飲み干した。 鮫洲の試験場に着く。 まずは台紙屋へ。 台紙屋のおばちゃん達は皆 のどかでアットホームな雰囲気をかもし出してした。 写真を撮り終えた後の待ち時間 壁に貼られた視力検査表を見つめる。 両目で見つめても意味がないので 手のひらで片目を被い 右、左 と順に自己検査した。 バッチリ♪ 両目ともに1,2はあった。(☆。☆)キラーン!! 作ってもらった申請書を片手に試験場へ戻る。まずは視力検査だ。 かなりの人の列が3列に並んでいた。 順番が近づく。前の人の検査ぶりを観察していると「右」とか「下」以外に「青」とか「黄色」とかとも言っている。 どうやら色盲、色弱検査もやっているようだ。 スズオ家は父からの遺伝で色盲とまではいかないけどハッキリ言って色弱だ。 日常生活に差し障りはないが 子供の頃から視力検査の時に行われるあの 丸いブツブツがごっちゃ混ぜになっていて  その中に隠された番号を読む検査で その数字を読めた事がない。 一瞬 ギクリとする。注意書きを見ると ”並び直しは列を変えて1度まで”と書かれている。 そして遂に俺の番。 近代的な視力検査マシーンだ。体をかがめて顔を近づける。双眼鏡のような2つの穴に目を当てる。 両脇に取っ手のようなモノがあったので カバンを両膝で挟み 両手でしっかり握る。 なんという格好だ!!! 俺の後ろに可愛い子が並んでいた事は知っている。 それはもー 綺麗な栗色の髪をしていた。いわゆるマロンカラー?(笑)  撫でたらキュッ キュッと音をたてそうな程に艶やかだった。すすんで嗅いだわけじゃないけど良い香りもした。 見ないで!今の俺の姿を。しかも後ろからなんて・・ と思いつつ「右!(に決まってんじゃん)」 「下!」 「おらおらー 左!」と元気良く連続正解♪ 俺の気合に圧倒されたのか4回 穴の開きどころを正解しただけで 俺の視力テストは終わった。色の検査もなかった。ちょっと拍子抜け。 合格スタンプを貰い「1階31番へ」と言われる。 31番へと通じる長い廊下をワザとゆっくりめに歩いた。あのクリゲ(茶髪とは違うよ)が追い抜いてくれる 事を期待したが そううまくはいかず 31番の列にはまた俺、クリゲ。の順で並んだ。 くっついてくんじやないよ クリゲ。まさか俺に惚れたかぁ?(笑) さっきは3列あった列も 今回の31番は窓口がひとつしかないので 1列の長蛇の列になってしまっている。 ジリジリする。なかなか列が縮まない。後ろのクリゲも気になる。窓から外を見ると雲ひとつない晴天だ。 暑くてコートを脱ぎたかったが後ろのクリゲに接触しかねないのでマフラーだけ外した。 ふと思う。ここに並んでいる人達は皆3月 もしくは4/1,4/2生まれの人達なんだな・・と。 星座占いとかは余り信じない方だが なんとなく毎回良くは書かれない3月生まれの運勢。 俺も大変だけど ここに並んでるみんなも大変なんだね と思う(笑) そして俺の順番がまわってきた。 申請書を渡すと「近くでお待ちください」と言われる。 列とは別に沢山の人が突っ立ってるなぁ と思っていたのはコレだったのか。 「近くでお待ち下さい」といわれても 31番を取り巻いてる人達の後ろへ回ると そこはもう近くではなかった。 31番から誰かの名前を呼ぶような声が聞こえるが 僕ほど離れた位置からではハッキリ聞き取れない。 ちょっと強引に31番付近へニジリ寄る(笑) 人込みの中 クリゲを探す。いない・・ 余りキョロキョロしても挙動不審なので その場で1回転しただけで 捜索活動は打ち切った。やがて名前を呼ばれて書類を受け取り「35番でお支払いを」と言われる。 35番へ行くふりをして耳をすます。クリゲの名前をハッキリと聞く。そして何処からともなくクリゲ出現。 35番での列はそれほど長蛇ではなかった。どうやらここで初めて「優良ドライバー」と「違反したドライバー」 が別れるようだ。うっしっし♪圧倒的に「優良ドライバー」は少ない。 そりゃそうだ 3年間もの間 何の違反もしないドライバーなんてそーは いるもんじゃない。 前回の更新時は俺もアチラ側の部類だったが それはやっぱ若気の至りってヤツ?(笑) 35番で支払いを済ませ 新しく出来た免許証を受け取り無事終了と思っていたが 「37番へ」と言われる。 37番の列へと加わる。どうやら免許証用の写真を撮っているようだ。 では先程 台紙屋で撮った写真は? あれはあれで本人である事を確認するために申請書に貼っているだけのようだった。 よく飲み会とかで免許証の写真を見せ合い笑い合う。まともに写っている写真などほとんど見た事ない。 「よし 今回はビシッとカッチョ良くキメるぜ!」と意気込む。 カメラの前の椅子に座るとすぐにシャッターを切られてしまう という噂を聞いていたので 座る前から顔を作る。 鉄仮面のような顔で椅子のあるところまで歩く。瞬きは我慢だ。振り返り椅子に座る。するとすぐにフラッシュ。やっぱね。 セーフ♪作戦成功! きっと良い顔に写っているに違いない。 ホクホク顔で書類を受け取ると 今度は「3階の39番へ」と言われる。(´ヘ`;)ハァ 階段を上り39番の部屋を見つける。受け付けのオバさんに35番で買ったチケットを渡し 部屋へ入る。 ほとんどの椅子は埋まっていた。 何故か最前列の一列だけ空いていたのでそこに座ったが  正面にある大画面テレビを どアップで観るハメになってしまった。そーゆー事か・・。 どこかで見た事のある落語家が 面白おかしく交通安全を訴えていた。 ぼんやり画面を見ていると誰かがまた部屋に入ってきた。クリゲだった。一瞬 たかなる胸の鼓動。 淡いピンクのコートを着て 短いスカートを履いていた。 ブーツは今風の厚底だったが そんな事は気にならない(俺は厚底嫌い。 悪い思い出があるから)上までしっかりとめたコートのボタンがでっかくて可愛かった。 さて 椅子はここしか空いてないぞ。隣へ座るか?もしくは後ろで立ち見をするか? クリゲは入り口を入ったあたりで立ち止まり 少し考えていたようだが やがてツカツカとこっちへ近づいてきた。 ペコッ ペコッと頭を垂れながら テレビを観ている人達への配慮も忘れていなかった。さすがクリゲ! そして僕の右隣へ座るクリゲ。君も優良ドライバーだったんだね。くんくん うーん懐かしい臭いだ(危) うかれている僕だったが そんな様子を察知されては格好悪いので ワザとらしくテレビの画面を食い入るように観ていた。 花粉症な僕は この時期辛いので喉飴を舐めていた。スイス生まれのハーブキャンディーだ。 結構臭うので気になり 鼻で浅く息をする。それでも気になったので そのまま静かに飲み込んだ(笑) テレビのビデオはすぐに終わった。どうやら僕らは終了間際に入室したようだ。 その後 さえないオヤジ教官がはいってきて チャイルドシートと携帯電話しながら運転についての説明。そして解散。 部屋を出て さっきの受け付けのオバさんにスタンプをもらい「40番の部屋へ」と言われる。 40番の部屋に置かれた箱に申請書を入れる。どうやら後は免許証が出来あがるのを待つだけのようだ。 自分の番号と免許証出来あがり予定時間を照らし合わせると30分程の待ち時間がある。 40番の部屋の窓から外を見る。そこでは自動二輪の教習が行われていた。結構大きいバイクだ。 中型か もしくは限定解除の教習。皆 姿勢正しく 律儀にバイクを運転していた。 僕は中型の免許も持っているが 教習所で教わった運転方法など ほとんどと言っていいほど役にたってない。 かえって危険とも思われるその律儀な運転。やはり本当の安全運転とは 周りの流れに乗る という事に尽きると思う。 変に教習所で習った運転そのままに通りを運転したら周りの車の邪魔になってしょうがない。 そう 路上教習している教習所の車のようにね。 バイクの教習を見ているのも飽きたので 40番部屋から出て3階をうろついた。 自動販売機で紙コップのコーヒーを買い すする。 階段付近の椅子にクリゲを発見する。窓を背に座っているので春の陽射しに栗毛が映える。 文庫本を読んでいるようだった。 クリゲの免許証の出来あがり時間も俺のと同じはず。やはり時間を持て余している様子だ。 文庫本のページのめくり方も不自然で 挿し絵とか写真だけをみているような感じだった。 話しかけちゃおうかなぁー。でも何て? うーん 「綺麗な髪の色ですね 地毛ですか?それとも染めているんですか?」 そんなんじゃ余りに野暮くさいし・・。 じゃ「免許の更新って結構時間かかるものなんですね」 か? これ 自然で良いと思うんだけど「そうですね」で会話が終わってしまいそうだし・・。 俺もひとり。クリゲもひとり。なんだかこうゆうシュチエーションって声かけにくいんだよなぁ。 クリゲの隣にクリゲフレンドがいたり 俺に連れがいたりしたら声もかけやすいんだけど なんとなく1対1じゃね。 そんな事を考えてる間に30分経過 とほほ・・。 それぞれに好きなところへ散らばっていた人達が皆ゾロゾロと40番部屋へと戻って行く。 俺も後に続く。 一人一人名前が呼ばれ免許証を受け取る。やはりクリゲより先に俺の名が呼ばれる。 係の人から新しい免許証を受け取り部屋を出る。 グッバイ クリゲ (;_;)/~~~ 俺は振り返らない。 勝手に恋が生まれ そして勝手に恋は終わった。誰も知らない恋。俺だけが知ってる恋(笑) 階段を降りながら免許証を見る。「イケテル!」少なくとも鏡に映る自分の顔より格好良く写っている。大成功♪  注意:各部屋 各窓口の番号はうる覚えなのでややテキトウです(笑) 駐車場に着き 車のドアを開けると車内からモワーンとした空気が溢れてきた。 4つの窓を開け放し 運転席を倒し しばし想いにふける。何の想い?もちろんクリゲへの想いだ。 駐車場では何かの作業員がお揃いのツナギを着て皆 上半身だけ脱ぎ腰に縛りTシャツ姿になっていた。 それほどに暖かい午後。車内に吹き込む風も生暖かい。春の香りがする・・ ん?春の香り? いやこれは馬の香りだ。 そう この試験場のすぐ近くには大井競馬場がある。しかも今日は開催日だ。 悪い考えが頭をよぎる。この駐車場に車を置いたまま ちょっくら行ってくっかな?(笑) 競馬場には専用の駐車場があるが1000円も取られる。ここからだって歩いて5分ってとこだし ちょっと、ちょっとだけ。 今から行けば準メインレースには間に合うはず。 100円で入場券を買い 場内へ入る。どれにしようか迷ったけど競馬新聞は”勝ち馬”にした。 パドックに人だかりが出来ている。スーツ姿の人も数多くいる。 やっぱこんな天気の良い日は仕事より競馬だよなぁー と何故か安心する。 お財布の中には余りお金は入っていなかったので このレースは見送りメインレースだけに賭ける事にした。 ベンチに腰掛け馬柱を見る。聞いた事のない馬の名前ばかりだった。 やがて準メインレースは終わり メインレースの馬たちがパドックへと姿を現した。 最前列に陣取り じっくり馬体を凝視する。こんな間近で馬を見る事が出来るのが大井競馬場の良いところだ。 栗毛の馬を見てクリゲを思い出しタメ息をつく。 人気のない馬だが やはり今日は栗毛から買わないといけないなと 何故か確信する。 ごく自然に先程はクリゲに出会い胸をときめかせ そして今 俺はここにいて 目の前に栗毛の馬がいる。 なんだか当たりそうな気がしてきた。こーゆー流れには逆らっちゃいけない。 当たれば大穴♪ 馬券売り場へと足を向ける前に携帯から友達へ電話をかける。 コールが繰り返される。でてくれ 頼むからでてくれ・・。 「はい もしもし○○ですけど」 でたぁ♪ 「あのさー 俺だけどー 今 ちょっとテレビつけてみー で MXテレビ観てみて」 「パドック映ってんでしょ? それよーく観てみー」 「俺 映ってない? ほら 最前列に」 しばらくの間 映らなかったみたいだけど 馬がパドックを何周もしているうちに電話の向こうの友達は 僕の姿を発見したようだ。大笑いしてた(笑) 「んじゃね」と電話を切り 馬券売り場へ向かう。 空いていたのでゴール板の真ん前でレースを見守る。4コーナーを回り 地響きと共に馬がこっちへやってくる。 競馬場でのこの臨場感がたまらない。直線は短く あっという間に目の前を各馬たちが通りすぎる。 クリゲへの想いも込めて「クリゲェーーー!!」と叫びたかったが 恥ずかしかったので心の中で叫んだ。 通称 おけら橋と呼ばれる歩道橋を渡り 競馬場を後にする。 最終レースは見送った。 鮫洲運転試験場までトボトボと歩き 車に乗り込み海岸道路を飛ばす。 カーステからは 「イパネマの娘」 つぶやくようにボソッと歌うボーカルが染みる。 美しく優雅な若い乙女 波を思わせる甘美なスウィング 海辺の道 イパネマの陽 黄金の肌 言葉では表せぬ見事な歩きぶり 目にも妙なる美しいもの この孤独は何のせい 何故こうも悲しい この世の美は自分だけのものではなく ただ通り過ぎていくだけ 知らないのだろうか彼女は 自分が歩く時 周りの世界が一瞬輝きを増す事を ほら あそこを素敵なイパネマの娘が歩いて行く 彼女が通り過ぎるたびに 道行くものは足を止める その歩きぶりはまるでサンバのよう 優しくクールにスウィングし  彼女とすれ違うものは皆 ため息を洩らす 彼女を寂し気に見つめる男がひとり どうしたら気持ちを伝えられるだろう こんな心なら喜んで捧げよう でも彼女が海に向かう時 その眼差しは彼に向けられはしない 魅力に満ち溢れたイパネマの娘がやって来る 彼は微笑みかけるが 彼女は気付かない 近頃 日焼けした顔に映える白い歯。 夏 僕は 東幹久ばりにニカニカと笑顔をふりまく。 高校時代 スポーツ中のアクシデント(?)により 僕の前歯は3本まとめてポッキリとイッテしまった。 歯科医は松、竹、梅の差し歯のサンプルを見せ どれにする?と聞く。 収入0の学生だったことをいいことに 親に松ランクをたかる俺。 そして今日まで何の問題もなく爽やかに過ごした。他に虫歯もないし親知らずを抜いた時に 行ったきり歯科医の世話になった事もなかった。 昼休み時だけ会社付近の路上で弁当を販売する弁当屋がある。 ちょっと並び そこで幕の内弁当を買う。いつも腹ペコな俺にとっては待ちに待った昼休み。 途中 自販機でウーロン茶を買い 会社へ戻る。 たまに会社敷地内にある 広場のベンチで昼飯を食べる事あるけど なんせこの猛暑。34℃は確実にあったと思われる。 エアコンの効いた涼しい会議室が我々のプライベート食堂になった(内緒) 輪ゴムを外し弁当の蓋を開ける。最初に鼻腔をくすぐるのは塩鮭の臭い。 あんまり魚類は好きじゃないけど(釣りを始めてから少しずつ嫌いになった) 見渡すかぎり塩鮭が本日のメインおかずのようだったので諦めて気持ちを入れ変える。 気持ちの持ちよう次第で嫌いなおかずも美味しく食べれる。 素早くイメージングする。 ”この鮭は北海道の果ての秘境の知る人ぞ知る秘密の川で釣れた貴重な鮭。年に10匹獲れるか獲れないか。 その鮭の切り身に中国の秘境 楼蘭の塩の湖から採取した貴重な陸の天然塩を振りかけ 有田焼き名人が持てる魂、技術 すべてを注ぎ込み作った火鉢で焼く。赤々と激しく そして静かに燃えているのはカナダのヒノキの炭。これぞ孤高の塩鮭”  自らにマインドコントロールをかけ まるでグルメ番組のレポーターのごとく一口一口噛み締める。 「うーん 美味い」 (バカ) 弁当全体の5分の1程 食べ進んだところでご飯の上の梅干しに箸をやる。 口の中には まだ前回 口内に 放り込んだ おかず&ごはんが残っていた。 それらを飲み干すのを待たずして梅干しを口の中へ放り込む。 そしてすべてまとめて噛み砕く。もりもりもり♪ 色々な味がミックスされ僕はうっとりと目を細める。 「ガリッ!」大音響が僕の頭の中に鳴り響く。 種!梅干しの種!! 一瞬固まりジワッと汗ばむ。事態の予想は大体つく。 確認すべく そっと舌先で前歯を探る。右から歯の裏を舌先で すすーっと舐める。 左の鼻の穴の下付近での舌先感覚に僕は愕然とする。 周りの目を盗み(盗みきれるはずないけど)椅子をずらしでっかい机の下に潜り込む。 ポケットからハンカチを取り出し そこに口の中の飲み込む寸前のぐちゃぐちゃの食べ物を「ぺっ」。 赤くてブツブツの梅干しの種を発見。そしてちょっと ぐちゃぐちゃの山を指で崩すと そこには マイ・スイート・差し歯(松)が!! ポッキリと折れてるじゃん!!! 机の下で頭隠して尻隠さず状態でもぞもぞしている俺を周りのみんなが心配して覗き混む。 「うわー! 見ないで! お願いだから見ないで!!」心の中で叫ぶが声には出せない。 「んーー! んーーー!!」と 手でヤツらを追い払い ちゃきん寿司のような形になったハンカチを片手に トイレに駆け込む。折れた差し歯を除けて 残りの汚物もどきを洗面所に流し 口をゆすいで鏡を見る。 意を決して3,2,1で にっこり♪ そこに映っていたのは・・ そこに映っていたのは・・。 例えば首に白いタオルを巻きつけていたなら・・  夏の現場の土木作業員? 昔はツッパッテいたが 今はもうすっかり丸くなり 人懐っこい笑顔をふりまく土木作業員。 その笑顔にただひとつ欠けていたのが前歯。って感じ?(土木作業員の皆様ごめんなさい)   しばらくの間 鏡の中の自分と見つめ合う。「そんな間抜け面のオマエなんか俺じゃない!!」 少し取り乱した後 ふと我に返り腕時計に目をやると昼休み時間もあとわずか。 誰とも顔を合わせたくなかったので 口をハンカチで押さえトイレを飛び出し 会社を飛び出す。 ワイシャツの胸のポケットには トイレットペーパーでくるんだ 俺のさし歯(松) あてもなく路地を曲がり通りを歩く。炎天下のアスファルトの照り返しに あっという間に汗ばむ俺。 今思えば奇跡的と思えるほどすぐに歯科医院の看板が目に入る。運命の出会いってヤツ? というか歯科医院乱立? 迷う事なくそこに飛び込む。待合室には誰もおらず受け付けにも誰もいない。 入り口のドアの内側に何かボードがぶら下げられていたので 1回 外に出てそのボードを確認する。 うーん 昼休み中かぁ・・。  携帯は持ってなかったので 公衆電話から会社に連絡する。すべてを正直に話し了解を得る。 涼しい待合室のソファーで努めて冷静に今後の身の振り方を考てると ひとりふたりと患者さんが待合室に入ってきた。 きっとみんな予約とってるんだろうな・・ そんな感じ。 俺 急患扱いで一番先に診てもらえるのかなぁ?  やばいなぁ 初診のくせして保険証も持ってないし・・。いろいろと不安ばかりが頭をよぎる。 やがて受け付けの人がどこからともなく戻って来たので 真っ先に近寄り事情を話す。 「では診察室へどうぞ」と優しく笑顔で言ってくれる受け付け嬢。 他の人には決してそうは見えないだろうけど(謎)僕には白衣の天使に見えた。ありがとう!  予約をとっていたのであろう 他の2人の患者さんにペコリと頭をさげ 診察室のドアを開ける。 「どうなされました?」と聞く白髪歯科医。でもその目はすでに僕の口元を見ている。 緩やかなウェーブを描く綺麗な診察の椅子(最新型?)に寝そべる僕の上唇をひっぱりながら 先生は患部(断面)を観察。僕はもぞもぞと胸のポケットをあさり 折れた差し歯(松)をくるんだ トイレットペーパーを取り出す。「これなんです これ」 とりあえず 今日は 応急処置という事で 両方の断面を綺麗に削り接着剤で固定するだけにとどまった。 これで一安心。先生の差し出す鏡を覗き込むとそこには 弁当を食べる前の自分本来の笑顔が。 だが油断はできない。絶対にその歯で食べ物を噛んではいけないと言うし 歯磨きも優しくしなければいけないと言う。 どのくらいの接着力でくっついているのか 舌でつっついたり指でぐらぐらさせたりして 確かめたい衝動にかられたが ぐっと我慢する。とにかく今は大切に。 会社へ戻ると いつもと変わりない雰囲気。さっき連絡をとった同僚が皆に黙っておいてくれたのか もしくは 言いふらして みんなが気をつかってくれてるのか・・。 多分言いふらした (みんなに居ない訳を説明?)んだろうけど ま しょうがない。 あの時・・ 会議室の机の下に潜り込んだ時・・。 振り返り様に 思い切ってみんなに100万jの笑顔を見せればよかったかな? と ちょっと後悔する。 笑いはとれないだろうけど(そりゃ驚く) その方が後々 気が楽じゃん。  とっさの時に自分のもつ器量ってのが明らかになっちゃうよね。うーん 俺もまだまだかぁ・・。 かなり動揺しうろたえた昼休みの自分を今 思い出しつつ色々と考える。