映画「グランブルー」は あくまでフィクションだが 主人公のジャック・マイヨールは実在する人物で実際の素潜り世界チャンピオン。 水中での人間の生理現象を研究し 次々と新事実を明らかにしたほか水生哺乳類の研究も手掛けている。現在72歳。 映画「グランブルー」のラストシーンには数々の説がある。 死んだ。上へ戻った。はたまたあのラストのイルカはエンゾだった。なんていう実にファンタスティックな説を語る人もいる。 映画は楽しむもの 人それぞれに受けとめれば良い。 これ!と決めつけるような 野暮な真似はしないが 僕の受けとめ方はこうだ。 深海の世界では 普段は1分間に60回である人間の脈拍が 1分間に20回にまで落ちるという。 また 体内に残されていた新鮮な酸素が 普段の循環とはまったく違う回路で心臓と脳に集中してくる”ブラッド・シフト” という現象が起きる。この生理現象は  水生哺乳動物であるイルカには起こっても人間には起こり得ないと思われていた現象である。 イルカと同じ生理現象が全身に起こっているとき イルカと同じ「知覚作用」が働きイルカと同じ”知性”が発現しないと誰が言えるだろうか。 目には見えない 耳には聞こえない”微細”な情報を一瞬に把握する”知性”がそのとき働くのではないだろうか。 ダライ・ラマ法王いわく 「私たちが普段”心”だと思っているのは 極めて粗雑なレベルの”心”です。 深い瞑想状態に入ったとき あるいは生命が危機に瀕したとき 逆に活性化してくる心があります。 それを チベット仏教では”微細心”と呼んでいます。この”微細心”こそが 時空を越え 種の違いを越えて自然界のすべての生命を繋いでいる心なのです」 ジャック・マイヨールいわく 「閉息潜水。つまり素潜りをしているときは 時間に限りがあって五感にも大きな制約が課せられるため 自分を取り巻く周囲の世界を平静に「知的」に分析する時間は皆無と言っていい。 その時働く「知覚作用」は直接的 動物的 瞬間的であり 私に言わせればかなり 「正確かつ確実」なものである。潜在意識に入り込んで直接に働きかけてくるこの「知覚作用」が われわれを裏切ることは滅多にない」 ジャックは映画「グランブルー」の中でジョアンナと こう会話している。 ジョアンナ「深海に居る時はどんな気分?」 ジャック「恐いさ」 ジョアンナ「何が恐いの?」 ジャック「上へ戻る理由が見つからなくなるからさ」 ラストシーンの深海で イルカに誘われるジャック。 海面へ通じるロープを握り締めながら ほんのわずかな時間悩む。 だが結局 イルカのもとへ。 その時 ジャックは”ブラッド・シフト”状態に陥っており イルカと同じ「知覚作用」が働いていたのではないだろうか。 そして一瞬にして「正確かつ確実」な答えを出し 海面へ通じるロープを放し イルカのもとへと泳いでいったのであろう。 それが 僕の「グランブルー」のラストシーンの勝手な解釈だ。 すべての煩悩、邪念、しがらみ はたまた五感 はたまたはたまたジョアンナと そのお腹の中の自分の子までを捨て  直接的 動物的 瞬間的に出した「正確かつ確実」な答えなのだから それがジャックにとってはいちばん良かったのだろう。