0《zero》

 

君が別れを告げた日。

僕は、それを知っていたかのように受け入れた。

コーディネイターの楽園(ホシ)・プラント。

僕ら異人の立場は連合軍対ザフト軍との戦いから冷たいものとなっていた。

 

否。

ナチュラルに対しコーディネイターが生まれたときからなのかも・・・。

 

 

 

 

幼い頃からアスランの隣にいることが当たり前だと思っていた。

ずっと続くと思っていた、幸せな時間。

 

「アスラン・・・僕たちずっと一緒にいられるよね。ずっと・・・いつまでも」

 

 

 

 

ある日、ある日。

泊まりにおいで、と誘われた。

僕はなにも知らず、いつものように彼の家に向かった。

 

いつものように、大きなベットに二つ、枕を並べた。

『おやすみ・・・キラ』

いつものように、互いの体温の暖かさを感じて瞳をゆっくりと閉じた。

『おやすみ』

 

時計の針は翌日を指しているだろう、そんな時間。

ギィー、という何か開くような物音に、目を覚ました。

灯りは一切消されていた部屋を見渡すと、不慣れな眼球に一線の蒼白の光が射し込んだ。

夢見心地でそれを見ていると、ある大変なことに気付いた。

 

「・・・アス・・・ラン・・・?」

 

隣に熱を感じない。

見るとアスランの姿はなく、彼が居たところは冷たさを帯びている。

 

「アスランッ・・・」

上体を起こし、彼を呼ぶ。

 

――ドコ?――

 

「あっ、キラ。済まない、起こしてしまったね」

窓から差し込んでいた光の中に、その人の陰が伸びた。

逆光。

その所為で彼の顔が霞む。

 

 

何してたの?

天体観測。目が覚めてふと外見たら流れ星が、さ。

・・・起こしてくれたら良かったのに。

ゴメンよ。あまりにも君が幸せそうだったから。

でも、仲間はずれで不幸せ。

わかった。悪かったって、ゴメン、キラ。

・・・そっち、行っても良い?

おいで。

 

 

床のフローリングの冷たい温度を裸足が感じ取る。

ベットの中との温度差。

薄手の毛布一枚にくるまると、彼の方に歩み寄り、隣に腰を下ろす。

彼の顔を見ると、彼もこちらを見ていた。

目が合う。

彼は微笑んだ。

 

 

星、綺麗だね。

この時期は特にね。

何個くらい流れたの?

今のところ3つかな。でも今夜は多い方だよ。

アスラン、君、毎晩観測してるのかい?

いや、時々。今日は偶々見えたから。観測まではいかないよ。どうも近頃一人になると耽ってしまうんだ。

・・・何か悩みでもあるの?僕でよかったら・・・。

ありがとう、キラ。でも気持ちだけで充分。キラが心配するほどの事じゃないよ。

でも、アス・・・ラン、なんか・・・。

ん?

あ、いや・・・。

ほら、もっとこっち。身体、冷えるよ。

 

 

毛布の掛かった肩に腕を回され、彼の方へ寄せられた。

月の夜の寒さは厳しい。

そんなこと忘れさせてくれるくらい、アスランの腕の中は暖かく、そして優しい。

 

けれど。

 

どこか、――冷たい――。

 

そんな気がした。

そう・・・どこかが。 

 

 

―――ドコ?―――

 

 

星が一つ、流れた。

 

 

あっ!流れた。

 

 

小さな光が暗闇の中に一閃した。

目を凝らしてなければ気付かないほどの小さな小さな・・・。

 

 

 

あ、そういえば。

 

 

ねぇ、アスランはなんて願い事した?

願い事?

うん、願い事。流れ星に。星が流れたら三回、自分の願い事を心の中で言うんだ。そうするとね、星が願いを叶えてくれるんだって。昔、母さんから聞いたことがあるんだ。

そうなんだ。君のお母様は何でも知ってるんだね。僕がキラから聞くことは大体がお母様からの入れ知恵だ。

・・・アスラン、それ褒めてくれてるんだよね?

当たり前だよ。どうして?

いや、なんか言い回し方が・・・。

あはは。やっぱりキラは聞き流してはくれないかぁ。ごめんごめん、気付かないと思ってちょっと愚痴をこぼしてみました。

愚痴?

君がいつもお母様の話をするから・・・、

お母・・・あっ、ごめん、アスラン。僕、無意識のうちに酷いこと・・・。

ん?キラ、なんか勘違いしてるよ?話は最後まで聞く。

あ、はい。

僕が愚痴ったのはお母様が、とかいう問題じゃなくて。君のお母様が羨ましくて言ったんだ。お母様は僕の知らないキラを知ってるんだよ?幾ら今まで寮生活でずっと一緒だったと言っても、学校以外のキラや昔のキラは知らない。

それは、そう・・・だね。

だからそれを知っているお母様が羨ましくて。少なくても僕以上にキラのことを知っているだろしね、お母様。僕も君のこと全部知りたいのに・・・ね。

 

 

"意味、わかる?"と笑顔で尋ねるアスラン。

 

アスランの言っていることがだんだん見えてきた気がする。

でもわかったらわかったで、嬉しいのやら、恥ずかしいのやらで。

目線をはずして、小声で言ってみた。

 

 

独・・・占欲。

正解。

 

 

アスランは笑って、僕の頭をポンポンっと軽く叩いた。

その笑みは普段の微笑みではなく、あまり見ない(見せない?)いたずらな笑顔だった。

 

あ、また遊ばれた。

 

いつもいつもこんな風に遊ばれちゃうんだ。

この前も勉強したのに・・・。

 

 

あー、もういいや。

 

 

ねぇ、それよりアスラン。

・・・やっと本題に戻った。

誰の所為だよ。

ははは。

もう。・・・で、なんて願い事したの?ってしてないんだから・・・あ、アスランの願いって?

聞きたい?

聞きたいから、聞いてるんだけど・・・。

ごめんごめん。僕の願いは・・・

 

 

耳元で囁かれたその言葉。

僕は、それに対して何も言うことができず、只々アスランの顔を凝視する事しかできなかった。

 

 

『僕の願いは、君の願いが叶うことだよ』

 

 

ただ、驚いて、驚いて。

でも、嬉しくて、嬉しくて、嬉しくて。

 

そんな様子を見て、また笑った。

 

 

キラは?キラはなんて願ったの?というか、それが僕の願いだからね、教えてよ。

 

 

僕の願い?

あっ僕は、僕の願いは・・・。

 

 

アスランと・・・ずっと・・・。

ずっと?

 

 

笑顔のまま、僕の顔を覗き込むアスランの瞳は笑ってなかった。

本当に聞きたいんだ、僕の答え《願い》を。

 

 

『ずっと、一緒にいられますように。二人でいられますように・・・。』

 

 

こんな願いが叶うか、叶わないかなんてその時にもう分かっていたのかもしれない。

 

ただアスランの腕に強く抱かれ、眠れたあの時間だけは流れ星が叶えてくれたモノなのかもしれないと、後で思うこととなった。

 

End.

 

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