月の陰
悲劇的な二人の再会から約一年。
彼らは過去になど戻ることなく、宇宙と地球、コロニーでくり広げられる戦火の中、MSに乗り、各軍の最前線に立って、闘争を繰り返してきた。
けれど、それも今日で終幕を迎えることとなるだろう。
あらゆるモノを巻き込んだこの戦争は、もう大半が壊滅状態。両軍とも後は神の判決を待つのみという様子で、無惨にも命を落とした同志達をその神のいる世界へ見送るという傷跡が残っているだけだった。
しかし、こんな状態の中でもこの二機だけはどうしてLOSTしなかったのか。
これも神の悪戯か、それとも決まった運命か。
それは、少年達を"殺戮"へと誘った。
「アスラン・・・」
【月】―――――そこは彼らが初めて出会い、初めて別れを、再会を約束した思い出の場所。
桜はもう散っていた。否、散ったのではないのか・・・。
地には美しい桜色の絨毯は広がっていた。
けれど、木の枝の先に、新しい芽はついていない。
「動くな!動かないでくれ!動いたら、動いたら・・・」
"撃つぞ"とは言わない。
キラの手の中にあるその小型兵器は、黒い銃身を震わせていた。
『何を迷っているんだい?キラ』
銃口を向けられていた少年の方は、要求に忠実に動かず、ただ相手の方を微笑みを浮かべ、見つめていた。
冷たい冷たい笑み。
昔の彼は・・・もういない。
「キラ、知ってるかい?」
「え?」
アスランは頭上にあるその色のない木々を見つめ、そう言った。
不意打ちに話をかけられ、キラの返事は曖昧になった。
視線はそのままでアスランは話を続けた。
「桜はどうしてこんなに美しい色に染まるか。」
こんなにと、視線を落とし、地を見つめる。
桜色はまだ褪せてはいない。
問われた方のキラは一瞬理解できていないような表情を見せたが、銃を弱いながらも力を入れて持ち直した。
「桜の木の根元には、よく死体が埋まっているんだ。流行病や紛争で儚い命を奪われた者達を古代人は桜と共に地へ返し、供養しようとした。しかし、桜も生きるために、そう生きるために。哀れな人間達が置いていった絶好の餌に食らい付いた。いや、それが地球というところに住むモノたちの自然というものなのか。
・・・桜のこの美しい色は、その死人達の血色だとも言われている。」
話し始めたその声は、あのころと同じ優しき声。
しかし、キラにはすぐにわかった、アスランの違い。
視線が、キラを見る視線が、氷のように冷たいこと。
「・・・そんな・・・こと・・・」
そんなアスランに対し、キラは"不安"を持ってしまった。
兵士として生きる中で、"不安"は死に近しことを意味する。
「無情だよ、人なんて。そう思わないかい、キラ。そんな花を見て、美しいと感じる・・・そんな人間に心なんてモノがあると思うかい?」
「もう、やめて!アスラン!・・・聞きたくない、そんなこと・・・」
止メナイ、止メテアゲナイ―――。
『君がそうやって拒絶するなら、尚更・・・』
「・・・けれど、僕も人なんだ。いくらコーディネイターとして生まれてきたとしても、結局人類の一部分をしかならない。今、それを痛いほど感じているよ。
―――キラ。君は何色に染まるだろう・・・。」
一瞬だった。
キラの反応が、遅れた。
アスランの手は、音無く引き金を引いていた。
銃口は確実に目標を定めていた。
「アスっ・・・」
キラならば、避けることができた、その弾丸。
しかし、それをしなかったキラ。
否、できなかった。
「愛してるよ、キラ。
だから―――僕だけにキラ、君だけの花を、君だけの色を見せて―――」
そう言ったアスランの声は、本当に過去の記憶のモノだった。
声だけじゃない。
優しい視線も・・・周りの空気も・・・薄く微笑んだ笑顔も。
消えかけていたキラの中の、アスランの記憶。
最後にはっきりと・・・思い出せた。
倒れた少年のはあの頃よりずっと痩せていた。
心の臓器からはまだ温かさが残る血液が流れ出る。
その白い肌に、その鮮明な朱が映えて、とても美しい―――。
「綺麗だよ、キラ。やっと、僕の腕の中に戻ってきてくれた。・・・これからはずっと一緒だよ。もう誰にも渡さない。離さない。―――永遠に愛を誓おう」
End.
後書き》》
ごめんなさい、死二ネタです。戦闘妖精みたら書きたくなり・・・やってしまいました。
白兵戦・・・このまま初代の波で行くならばそうなるかな〜と。(あっ死んでませんよ!初代!)
現実味、入れて書いてみました。人間の心理状態ってある一定までしか持ちませんから。きっと、一年も戦いに出て、人殺し続ければおかしくなりますって。コーディネイターだって。(いや、おかしいのは私のア・タ・マv)