Restraint

 

 

宇宙空間を漂う感覚。

ふわふわ―――と。

底のない暗闇にこの身体は溶け込んでしまう。

 

一瞬、過去を思いだしたが、何も僕に与えてはくれず。

 

思考はただ身体と共に下へ下へと沈んでいった。

 

 

最後に聞こえた声。

それは何者でもない、親友だったあの人の声。

 

【キラッ!!・・・・】

 

 

 

 

 

どのくらい闇の中をさまよっていただろう。

頭痛がする。

 

「・・・・・・ん」

 

混沌の暗闇にも底はあった。

そこは柔らかなベットの上。

 

HEVEN―――――。

 

そんな錯覚まで起こしそうな、白一色の空間。

僕は、傷口に包帯を巻かれ、それ以外身につけていない裸の状態でそこにいた。

天国なのだから、そうなのかもしれないと自分の中で勝手な納得をし、その傷口に触れてみた。

左腕にあるその傷は、だいぶ深い傷だったのか白の空間にとても栄える朱を包帯に滲ませていて、触れるとキリッとした強い電流のような痛みが走った。

 

『死んだら、痛みは感じないはずなのに・・・』

 

 

 

ガチャリ・・・。

 

「キラ・・・入るよ?」

 

 

白の空間に黒く四角い隙間が空いた。

その隙間(目が慣れてきて初めて扉だと判った)から聞こえてきた声に、僕の眠気の残っていた瞼は驚きと共に大きく見開かれた。

 

 

聞こえてきた声は、紛れもなく【アスラン・ザラ】本人の物で。

 

彼が天国にいるわけがない。

彼が死んでいるなんて!

 

「・・・アスラン・・・ザラ・・・。どうして君が・・・こんな所に・・・」

 

白の空間に足を踏み入れ、僕の方に向かって歩み寄ってくるその人に、途切れ途切れ尋ねた。

 

「君も・・・死んでしまったの?・・・」

 

現実に生きていれば、おかしな言葉、おかしな文法。

けれど僕の脳内は今、酷いパニック状態でそっちの方がおかしくなっていて・・・。

 

しかし、アスランは何故か僕を見て微笑するとこう答えた。

 

 

「キラ、ここは天国じゃあない。僕もちゃんと生きているし、君も生きているよ」

 

 

どうして僕の考えていることが判ったのかな。

 

「まぁ、ここが今から君のNever land になればいいけど・・・」

 

Never land――――夢の国?

どういう意味でアスランがそんなことを言っているのか、理解できていない自分。

「アスラン・・・どういうことなの、それ。僕が死んでいないって、確かに僕は死んだはずなのに・・・」

アスランは僕のベットの横に座り、こっちを見ていた。

こんなに間近で見るのは何年ぶりだろうなどと、不本意ながら考えてしまった。

・・・まだアスランは笑ってる。

 

「死んだはず・・・。それなら君はどうやって命を落としたんだい?思い出せるかい?」

 

どうやって、って。

 

「あの時・・・僕はストライクに乗って、ZAFTの資源太陽光衛生を落とすと向かった連合の第三艦隊を止めに追って・・・けれどもう時限爆弾が・・・コロニー1つ落としてしまう量の爆弾が・・・セットされていて・・・僕は回収を急いだ。・・・そして、回収を終わらせ・・・時間が無くて・・・なるべく遠くで爆発させなくちゃって・・・」

 

そう。そうして僕はストライクで、爆弾を抱え飛んで・・・爆発して・・・。

 

 

「え・・・あ・・・、ウソだ・・・そんな・・・」

 

 

"ストライクっ!!"

 

爆発は、した。

けれど、そのストライクに僕は乗っていなかった。

爆発10秒前、僕の身体は宇宙空間に放り出された。

死ぬ気で、自爆を覚悟していたのに、ストライクは僕が死ぬことを許してはくれなかったのだ。

 

 

「命令を違反していたが、君とストライクを追って行った僕とイージスは、爆発後、君を発見し直ちに引き上げた。脳に異常はなかったが、身体全体の半分以上に深い傷を負っていた。実際、血液不足で8日間眠り続けていたよ」

 

 

ストライクだけが、自爆した。

そして、僕は奇跡的に助かり・・・けれど、敵軍、それもアスランに救助された。

今は、もう8日の月日が経っている。

 

 

 

やっと、曖昧だった記憶が一つの線になった。

 

 

それと同じく、もう一つ。

ここは敵軍領地、隣にはザフト軍のアスランが居る。

僕は連合の志願兵でGの唯一のパイロットで奇跡的にも生きていた。

そしてまだ連合軍アークエンジェルには、友達が乗っているはず。

 

それなら僕は、僕は、ぼくは・・・。

 

 

「アークエンジェルに・・・戻らないとっ!」

 

 

兵士としての運命。

裸のままの身体に白のシーツを絡ませて、ベットから降りようと試みた。

 

体中の傷口が開く、焼けるような感覚に歯を噛みしめながら・・・。

片羽を奪われた蝶のよう、弱々しく、アンバランスな状態。

 

逃げられるはずが・・・ない。

 

アスランは立ち上がって、その僕の様子を先程のなど幻かと思わせるほどの冷たい瞳で見つめていた。

 

ベットから床に落ち、シーツを引きずりながら、黒い扉へ向かう。

足に力が入らないために、立ち上がることがかなわず、床を這う。

 

1m進むのにどのくらいの時間を要したのか。

空間内に響く音は、僕の速い呼吸と大きく鳴る心拍音だけ。

 

否、僕にはそれしか聞こえていなかったんだ。

 

だから、アスランがいつのまにか僕の前に立っていたことも気付くのが遅れた。

 

 

「キラ・・・何をしているんだい?」

声色は優しい・・・けれど。

「戻ら・・・なきゃ。アーク・・・エンジェルに・・・」

戻らなきゃ・戻らなきゃ・戻らなきゃ・・・。

 

 

「馬鹿だね、いつまで経っても君は。―――そんなところもとても愛しい」

 

「痛っ!!」

 

アスランは僕の両腕を掴み上げ、上体を起こさせると、自分もその場に膝をつき、耳元でこういった。

 

 

 

【キミハモウ生者ジャ、ナイ】

 

 

 

耳朶が噛まれた後もその言葉とアスランの声が脳内に響き続けた。

意味が分からない・・・先程まで言っていた意味と・・・生者の否定。

 

あまりに突然で・・・言葉が・・・出せない。

 

ただアスランの瞳を見つめ、問うことしかできない。

 

その人は今、僕の左腕の包帯を外しにかかっている。

彼の両手は僕の両腕を拘束するために使われているため、外しているのは口。

歯と唇を使って、上手に外している。

 

何かを探し求めるような―――理性を失った動き。

 

包帯が床に落ち、傷口が露わになる。

まだ血の滲むその傷に、今度は舌が這わせられた。

アスランの体液の一部がそこに染み込む。

 

「・・・っ!!!」

 

苦痛が大きすぎて、声にも出ない。

声が出ない分、身体が力んでしまい、その傷口がまた切れた。

血が少しずつ流れようとするのを、アスランは全て止めてしまった。

 

「・・・キラの味がする・・・」

「やめっ・・・っ」

 

見たことも聞いたこともないアスランの姿。

 

「君は戦死者だ」

「えっ・・・」

「君は自ら自爆行為を行った。それも自軍の攻撃を止めるために。軍隊・戦争というものの中で自爆行為を行うこと、イコール死にへと繋がる。例え、運命の悪戯はたまた途中逃げ出したとしても、行為を行う。それだけでその人間はこの世から消える。
地球軍からの通信もない。今この時点で君の生存を確認する者が何人居ようとも地球連合軍キラ・ヤマトは戦死とされている」

「そ・・・んな」

「大切な友達を命に代えて守り抜いた勇気ある兵士として、データに残っているだけだ」

 

 

次々と流れる真実であろう、僕の知らない世界。

 

志願兵が戦場で死ねること、それが本望だという。

 

「キラ・・・君の存在はもう世界では認められない・・・」

 

そんなこと誰が言ったのだろう。

 

「君の存在は僕の腕の中だけで認められる・・・」

「うん・・・」

 

もう僕には、アスランしか居ないんだ。

初めて恋をし、別れをくれた彼だけ。

他のモノは全て・・・。

 

戦いたくて、戦っていたわけじゃない相手。

戦争が引き起こした悲劇。

今回で2回目だ、と笑えたらいいのに。

 

 

 

アスランに優しく抱きしめられる。

傷の痛みはない。

 

そのまま唇を重ね合う。

徐々に進む甘い浸食に答えながら―――合間、アスランが囁く。

 

【キラ アイシテル】

 

 

End. 

 

後書き☆

只今am4:45。今日は終業式。ぶっ倒れないことを祈ります・・・。

キリバンリクエストということで【アスキラ★ブラック】です。

なんだか大変事になってしまいましたが、こんな感じで・・・ごめんなさい・・・許してください!!(泣)

頭、ホント沸いちゃってるのでこんなんしか書けませんでした。あ、でも、もしこの続きが気になる!というリクエストが多くあれば、この続き(完璧・裏)やりたいと思っています・・・。(あぁ、またそんなこと言って・・・)

いや〜だって本人が一番物足りないって思っていますので。Mottoはもっと×2なので(←馬鹿・死ね)

 

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