女王様と専属シェフ
「ケーキが食べたい」
それはよくある、女王様の唐突なご希望だった。
「何だって?」
ディアッカは内心、始まったなと思いつつ呆けてそんなことを呟き、手に持った雑誌の記事から視線を上げて、向かいのソファで足を組んでいるイザークを見た。
「ケーキが食べたい。苺の乗ったやつ」
イザークは反復する。更に希望を付け足して。
「今すぐ?」
「今すぐ」
「ここで?」
「ここで」
「戦艦だぜ?」
「そんなことわかってるに決まってるだろう?」
何いってるんだお前、といいたげな顔でイザークは偉そうに脚を組み替えてソファの背に体重を預けた。
ディアッカは苦笑して、ハイハイ、と席を立った。
そして胸の前に片腕を翳し、優雅に一礼。
「女王様のご希望とあれば」
「期待してるぞ」
「ほら、イザーク」
数十分の後、つまりイザークがそろそろ、遅い!とかなんとか苛々しはじめる頃。
何処からか戻ってきたディアッカが、イザークの前に一枚の皿と一本のフォークを置いた。
皿の上には、いかにも美味しそうな苺のショートが一つ。
対座のソファに座ってから、さらにティーカップを置き紅茶を注いで、渡した。
遅かったな、と不機嫌そうに呟いてからイザークはフォークを取り、一口、口に運ぶ。
「まあまあだな」
あくまでも高飛車にそんな事を言う、目の前の銀髪の女王様を眺め、ディアッカは少しだけ微笑った。
あまりあからさまだとこの女王様の機嫌を損ねかねないから。
「ディアッカは食べないのか?」
ふと顔を上げてイザークが問う。
「ん?ああ、俺は・・」
ソファから腰を浮かせて、テーブル越しに、手を、伸ばす。
しろい、顎を捕らえて、端に少しクリームがついた、唇に、くちづける。
「・・・・此れで良いからさ」
「そうか」
唇を離してからそう言うと、イザークは何事も無かったかのようにまたケーキを食べはじめた。
それを楽しそうに、突いた腕に顎を乗せたディアッカが、見守る。
「長期保存出来て、その上解凍したら新鮮そのもののフリーズ・ドライで苺用意してるなんて、準備が良いですよね」
談話室でお茶を飲みながら、二コルはほのぼのと独り言のように呟いた。
実際隣の男は殆ど自分の話を聞いていない。それが解っているからこそ二コルは笑顔で続ける。
「ていうか器用ですよね、ディアッカ。料理も出来るなんて」
「キラ・・・ああ、君の為なら鮭のお粥だろーとケーキだろーとフランス料理のフルコースだって作ってあげるのに・・・!カムバック幼き日々よ!」
「離れ離れって辛いんですね」
ノートパソコンの液晶いっぱいに映し出された少年の画像に頬擦りしかねない勢いでそんなことを呟いているかと思うと、急に立ち上がって天(正しくは天井)を仰ぎはじめた同僚、他称キラ馬鹿、自称キラを誰よりも愛する者、個体名でいうならアスランを適当に流して二コルはまたのほほんとお茶を啜る。
「キラぁぁぁぁっ・・・・・・」
「アスラン、泣き伏すなら是非自室でどうぞ」
此れで良いのか、クルーゼ隊。
End.
後書き
此れで良い訳無いクルーゼ隊を書いてしまいました、くじらです。
すみません、久々の更新(というか私2本め)、アスキラですら有りませんでした。
最後のアスランは言い訳にもならないのでノーコメントで・・・(殴)
とにかく、ようやく年越しv記念で相方リクのディアイザでしたー。