Restraint♯−a bird in a cage―

 

 

この宇宙−ソラ−が小さな鉄籠ならば、天国は籠の外。

自由と希望が溢れる世界。

 

こんな風に思うのは、籠の中の夢。

 

 

片羽が傷つき、白い翼に朱を滲ませる小さな鳥。

鳥は消え入りそうな声で鳴く。

 

【テンゴクハ、ドコ?】

 

 

 

 

白の空間。

存在するのは、僕ともう一人。

今、右手首の包帯を外しにかかっている彼−アスラン・ザラ−。

 

彼は先程から、僕の傷口に巻かれている包帯を次々に外している。

傷を露わにすると、その全てに舌を這わせた。

 

「っ・・・」

 

「消毒だよ」

 

それ以上何も言わず、黙々とその行為を続けた。

僕も痛みはあったが、それは嫌悪ではなく無駄な抵抗はしなかった。

 

 

肌の色と髪の色、その中の瞳の色、彼の黒い服の色、包帯とシーツの影の色。

――――血の朱の色。

それらは、よく白に栄えた。

 

 

「キラ」

 

身体に巻かれていた包帯が全て外された。

周りに、何本もそれらが落ちている。

 

「誰がここまで君を傷つけたのだろうね。キラは僕のモノなのに無断でこんなことをする世界。

――――その全てが憎い」

 

糸一つも纏わぬ、この姿。

無数の傷。

それを丁寧に指の腹でなぞるアスランの瞳はまだ温度を感じさせず、しかし、悲しみを浮かべ・・・。

 

 

口づけは深く、熱く、優しく・・・。

その最中、無意識で手に絡ませ握りしめていた、散らかった包帯。

だが、それもかわりに指を絡ませられ、包帯はまた静止する。

絡み重なる掌の間は、僕のじわり滲む汗で湿っている。

 

 

「何にしても、どんなものにしても傷つけるのは簡単だ。けれど、キラ、君は駄目だ。他の奴らはこんなモノで傷を癒せるけれど、君は癒せない。僕以外、君の傷を癒せるものはいない・・・」

 

 

アスランはそう言って僕を床に広がったシーツの上へ倒した。

視界に天井が映ったが、すぐシャットアウトした。

照明が天井の白に強く反射していて、その光に耐えられなかった。

 

しかしこう彼に伝えるために、薄く瞼を開いた。

 

 

「・・・じゃあ、癒して・・・アスランの腕の中で・・・」

 

「仰せのままに」

 

 

上から下へキラの全てを、とろとろと溶かし、アスランの器用な指と口は動き続けた。

特に指は小さく尖った胸を探り、口は舌を耳内へねじ込み、歯は耳朶と鎖骨に歯形を残し、唇は全身に痕を残した。

 

一つ一つの動きに敏感に僕の身体は反応を示した。

熱の集まったそこは自分では使ったことのないところ。

自分での仕方が分からない。

彼以外、仕方は分からない。

 

手の中に包まれるとそれだけで熱を零した。

「ん・・・」

 

先程からどうしてか自分で声を押し殺している。

快楽と痛みからくる感覚には、甘ったるい声は付き物なのに。

 

自分は何に遠慮し、自制しているのか。

 

アスランも先刻から僕に声を出させようと、良く感じる、弱い部分を主に弄っている。

 

「羽の折れた鳥でも、綺麗な声で鳴くことは叶うから。・・・その声で鳴け・・・」

 

「でも、アスラン・・・」

 

「・・・僕の腕の中・・・だけだろう?」

 

うん、と答えることなく、声が漏れ、鳴いた。

熱い吐息が混じると、もっともっと自分の声が響くような錯覚を起こした。

 

「あぁ・・・んぁ・・・」

 

足を持ち上げられ、秘部を探られる。

とろり、と流れ落ちる僕の熱が使われ、そこが開かれた。

アスランは爪でその入口の皮膚を引っ掻く。

その感じたことのない衝撃にビクリと腰が浮いた。

 

僕の反応を楽しむように今度は舌に入口を遊ばれた。

アスランは微笑し、僕は恥ずかしさのあまり腕で顔を隠した。

 

すると、笑いはすぐに冷め、アスランの手が伸びてきた。

「駄目だ。そうすることを僕は許可していないよ」

 

「あ・・・ごめっ、・・・あっあぁっ・・・ぁ」

 

「罰」

 

 

それだけ言ってアスランが僕の足の小指を口に含み遊び始めたことに、僕は不意を付かれこれもまた聞いたことのない裏声を上げた。

 

 

「キラはソプラノが綺麗だ」

 

その声を聞き、彼は微笑かにそう言った。

言いながら、元の位置に戻り、指で慣らし始めた。

 

クチュリ、と濡れた音を出し始めた秘部は口と最奥の行き来を繰り替えされ、柔軟さを増した。

 

 

「キラ、愛してる」

 

 

「それだけなの・・・アスラン。愛してるだけ?」

 

 

「いや。・・・その愛で君を埋め尽くしたい。君の全てを縛めたい。君を永遠にこの腕の中で守り続ける」

 

 

「うん・・・」

 

 

僕の返事が合図となり、行為が続行された。

入口に当てられたアスランのそのものは、強く脈打ち挿入を待っている。

 

僕の呼吸が吐かれた瞬間、挿入し押し上げられ、吸いそうになっていた空気は止まり、かわりに鳴き声となり、アスランの感情を煽ってしまった。

 

最奥を突かれる快感。

弱い部分を狙われ、声も息も絶え絶えになる。

 

 

いま、二人の間にはあの頃の遠い距離は無い。

吐息がかかるほど近くに感じる、恋しい相手。

 

「あっあっ・・・」

 

 

 

 

零れる熱と、中に出されたアスランの熱に嵩まれ、快楽の底へと落ちていく。

 

一筋の涙を流し、僕は瞳を閉じた。

 

 

 

 

目覚めたとき、また初め目を覚ましたときと同じく、白いベッドへ寝かされていた。

ベッドサイドには同じく、アスランが腰を下ろし、僕を見つめている。

 

「アス・・・ラン・・・」

 

名前を呼ぶと彼は、僕の右手をそっと取った。

その手の甲に軽い口付けを落とし、それを返し裏側の手首にまた唇を近づけた。

そこはちょうど大動脈の通るところで、唇に吸われ痕を付けられる感覚に、このまま血を吸われてしまうのではないか・・・などという安っぽい想像が混じった。

現実に、どうしてか底の場所に痕を付けている力は通常よりも強いモノだったから・・・。

 

 

 

やっと解放され、アスランの目を問うように見た。

 

今まで僕の手首を拘束していた唇が動く。

 

 

【a token of restraint】

 

 

 

End.

 

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