free-world
宇宙は静かにまた眠りについた。
この世界の、この瞬間なんて、この宇宙の砂時計から言えば一粒にも満たないそんなもの。
ただ僕は今、そんな瞬間の中に生きている。
生きて…いる。
「キラ」
通信機を通して伝えられた、声は震えていた。
朦朧とした意識の中、僕はその人を確信し一つ瞬きして、目を開いた。
『トリィ…』
音にならず、意識の中響きわたる、その名前。
緑色のロボット鳥が宙を悠々と羽ばたいて、僕の元へ向かってきた。
「「キラっ!」」
その後方からぼやけた視界の中、ピンク色の傷ついた機体が見える。
声でそこにいる人びとをわかることができた。
「アス…ラン………?…カ……ガリ?」
コックピットから身を乗り出し、僕のほうへ向かってくるアスラン。
そして、それを愛機の中から涙を流し、笑顔でこちらを見つめているカガリ。
「生きて…」
みんな生きてここにいる。
そうわかったことで麻痺していた涙腺は熱を出し始め、温かい涙を頬に伝わらせた。
次から次へ出てくる涙を止めることなく、ヘルメットの中、くるくると浮遊する水滴。
「よかった…」
安堵の言葉。
次の瞬間にはもう僕の体はアスランの腕の中、強く抱きしめられていた。
「キラっ…よかった、よかった…キラ…」
「アスラン…も…」
強く温かい腕。
めったなことで涙を流さないアスランが、僕と同じくらいヘルメットの中を濡らして泣いていた。
歓喜からくる涙はとても優しかった。
「キラ」
「アスラン…」
一番生きている中で多く呼んでいる名前のような気がした。
父さんや母さんや他の誰かよりも……一番。
一番僕に"近い"ところにいてくれる、僕にとって一番大切な存在。
「アスランっ」
そう思ったら、もうヘルメットなんて取ってしまいたかった。
生の声で僕を呼んで欲しい。
通信機越しじゃなくて、もっと生きている証拠として…
もう僕たちは【自由】なのだから。
「アスラン、アスランっ、アスランっ、アスランっ」
きっとこの声はカガリにも聞こえているだろう。
だけど僕は泣き続けた、その名前を呼び続けて。
「アスランっ、アスラン、アス…」
泣きじゃくる僕をアスランは笑顔で見つめていた。
そして、その手は僕の背中からヘルメットの横についている通信機のスイッチに延ばされた。
ピッ──────
「え?」
アスランが通信機のスイッチをオフにした。
音が途切れる。
何をするんだ?
そのままヘルメット同士がコツリ、と合わされた。
アスランも通信を切ってしまったようだ。
どうして、そんなこと……?
その答えはすぐ僕の耳に届いた。
『キラ、好きだ』
『あっ!!』
それはしっかりとした音だった。
しっかりとしたアスランの声だった。
ガラスを接した部分から振動によって聞こえるのだ。
一対一でしか、できない……ここでしかできない会話。
『戻ろう、俺たちの帰るべき処へ……"自由"の世界へ…二人で』
『うんっ』
宇宙は静かにまた眠りについた。
その眠りの浅深さは知れないけれど………
緩い目覚めの時までは………
君と………
<It's a free-world>
END
《後書き》
最終回直後話でした〜やっとコレを書く気になれた……なんだかんだって自分の中で種の最終回を認めたくないっ(ハロ)!ってところがあって……コレ書いたら自分の中で終わっちゃうのかなぁ〜なんていう思いがあったんです。(プロットは最終回見た夜に書き終えていました;)
でもいろいろ考えたりしたら大丈夫でした!!これからも種でいきます!!てかアスキラ!!!