息づく世界は
すでに悠久の時を経た『剣』たちに、
何を与えるだろうか。
第三話『恋歌』
4 お幾つですか
「さっきは大丈夫だった?・・・ハヅキちゃん、だっけ」
オディットの友人達もそれぞれの持ち場へと散り、またアルトもオディットが「ああそういえば主任に
呼ばれてたんだわ行かなくちゃ!」と葉月も置き去りにして逃走してしまったので、
仕方ないなといった風にそれでも煌きと花の余韻を残して去っていき、やっと静かになったその場所で。
まだ半分ほど中身の残ったコップを両手で包みながら、ボーっとベンチに座っていた葉月に声をかけたのは、
ロンドだった。
「ええ、まぁ・・・えっと・・・・・」
「あ、俺はロンド。ロンド=スルーリーフ」
「よろしくお願いします、ロンドさん」
つまらなそうに葉月は言う。もちろん、そんなのは微塵足りとも表に出さず、微笑んでいる。
「あ、ええええええっと君って確かオディの親戚だったね、うん」
「そうです」
いきなり動揺し始めたロンドに、葉月はやや怪訝な視線を送って答えた。
ロンドは気付いていない。
「ターメリックには、やっぱり機工士になるために?」
(機工士って何だ)
一瞬そう考えた葉月は、出向前に頭に叩き込んできたコーラルの文化の中からそれを思い出し、
曖昧な笑みを浮かべた。
「えっと・・・そう言うわけじゃなくて、オディットに会いたくなったから、ちょっと」
「そっか。まさかとは思ってたけど、やっぱりオディみたいに飛行士に成りたいって訳じゃ無いんだね」
「飛行士に・・?」
「そ。オディは昔から、俺なんかよりずっと気が強かったし、割となんでもできたし」
(まぁそーだろうな)
ぼんやり葉月は考えた。
「でも、やっぱ『飛行士になる』っていきなり言われたときは驚いたなー・・・結局、昔っからの役割分担
意識の所為で叶わなかったけど。・・・俺が飛行士学校入ったときは怖かったなそーいえば」
「幼馴染ですか、オディットと」
「まぁ、家、隣だったし・・俺のほうが2つ、下だけど」
(ってことは、幾つだこいつ)
またもや心の中でだけ考えながら、葉月は適当に相槌を打った。
「ハヅキちゃんって、幾つ?」
「え。私ですか」
(しまった考えてなかった)
葉月は心の中で舌打ちをした。
時間の概念が曖昧な時渡城で過ごしていて、自分の年齢なんぞわかるはずも無く、また解っていても
それは既に人間の寿命を軽く500倍したくらいはザラだ。自己紹介の役には立たない。
「じゅ、17・・・です」
とりあえず、適当なことを言ってみる。
願わくば、オディットが勝手に葉月の年齢を想定して、ロンドに紹介していないことを。と言ったところだろうか。
それは杞憂に終わったらしく、ロンドの顔がぱっと明るくなった。
「そっかそっか。良かった」
(何が)
葉月は疲れたようにため息をついた。
ロンドはまた、気付かなかった。
「〜♪」
その日の昼時。
結局それまで待たされて、不機嫌絶頂な葉月とは対照的に、オディットはやたら楽しそうだった。
「・・・どうしたんだ。気持ち悪い」
憮然としながら葉月が問うと、オディットは輝かんばかりの笑顔を見せた。
「んー、ハヅキを皆に紹介した甲斐があったわねぇって思ってたの」
「何が」
アイスコーヒーを飲みながら葉月は心底嫌そうに尋ねた。
さっきのコップは結局中身が残ったまま棄てた。変な具合に暖かくなってて気持ちが悪かったのだ。
オディットはまた、輝く笑顔・・・アルトには勝らないまでも同質のものがあると言ったら怒るだろうか、
を浮かべてさらりと言った。
「ロンドね、ハヅキに一目惚れしちゃったみたい」
盛大にアイスコーヒーを吹き出した。
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