指輪所持者が裂け谷で見た妖精の夢とその現実
「あれがエルベレスの星なのかな?ビルボはそう言っていたけれど」
恐ろしい黒の乗手たちから危うくも逃れ、裂け谷で目を覚ましたフロドは、その晩、ビルボの言っていた
『エルベレスの星』を見上げて呟きました。
ゆっくりと時の流れるこの裂け谷のテラスから見る星空は、それは素晴らしいものでした。
数多の星が頭上に輝き、またそれ故にどれが『エルベレスの星』か見分けが付かずに、フロドは困った
ように首を捻りました。
いいえ、本当はどの星も綺麗だから、どの星がどんな名前なのかはどうでも良いのですが。
我が空に願うもの
それは大いなる自由
我が風に思うもの
それは愛するひと
生命の息吹は世界を巡り
唄は届く 汝が巡り会うべきモノに
風に乗って、何処からか優しい歌声がフロドの耳に届きました。
「裂け谷のエルフの方・・・かな?けれど、なんだか感じが違うなぁ」
首を傾げながらも、フロドは聞くものを・・・それこそエルフですらうっとりさせるような、美しい歌声の主を
探してきょろきょろとあたりを見回しました。
その間にも、歌声は響きます。
我が大地に懐かしむもの
それは暖かな優しさ
「ああ、あのひとかな」
フロドはやっと声の主らしき人を見つけました。
闇に紛れ、定かではありませんが、遠くのテラスのほうに、蝶の燐粉を塗したように淡く光る人影が目に
入ったのです。
フロドは、きっとエルフの不思議な魔法で織られた、光をきらきら反射させる布衣を纏っているんだろうな、
と思いながらテラスの石段へ歩み寄りました。一段低くなっているそちらのテラスのほうが、むこうが良く
見えると思いました。
我が海に沈めるもの・・・
歌が止みました。どう考えても、中途なところで。
そしてフロドは気が付きました。
その声の主が小さいのは、なにも遠くに居るからではなく、その人自身がとても小さいからだったのです。
背の高さは、おそらく20cmもないでしょう。背中から透明な二対の羽を生やした小さな少女が、テラスの縁
の手摺にちょこんと座り、詩を紡いでいました。
そしてその少女は、驚いたようにフロドを見つめています。
フロドは、もう自分はベットに入って寝息を立てていて、夢の中に居るものだとばかり思いました。
目の前の少女のような小さな人が・・・それこそ自分達ホビットよりよほど小さな人が居るなど、フロドは考え
もしなかったのです。
「あなたは?」
少女が口を開きました。
フロドは慌てて石段を降り、少女の近くまでやってきて、ぺこりと頭を下げました。
「ごめんなさい、折角の詩の邪魔をしてしまって」
「気にしないで、私なんかの詩だもの」
少女は悪戯っぽく笑い、フロドも少し安心して微笑みかえしました。
「私は。あなたの名前は?」
「わたしはフロドといいます。ホビット庄からやってきました」
「ホビット庄・・・?じゃぁ、フロドが・・・・・」
は少し顔を曇らせました。
「・・・さん?」
「、でいいよ。フロド。そう、まだあなたは知らないんだもの。まだ、早すぎて意味の無い事だね」
はまた微笑って、くるりと一回転しました。
「さっきの詩・・・エルフのものとは違うように感じたんですが、なんの詩なんですか?」
「あの詩?あれは、むかし私が教わった詩なの。ただ漠然と憶えているだけだから、良く分らない」
昔を懐かしむような顔して、は呟くように言いました。
そう、あの優しい金の髪のひとを思い出していたのです。
「そう、あの詩。まだ最後まで唄ってなかった。じゃぁ、フロドの為にもう一回唄うよ」
は微笑み、テーブルの縁に足をつけ、その柔らかなをはためかせ、深く息を吸い込みました。
噂に名高い、闇の森の類希なる美声の小鳥が唄う詩を。
我が空に願うもの
それは大いなる自由
我が風に思うもの
それは愛するひと
生命の息吹は世界を巡り
唄は届く 汝が巡り会うべきモノに
我が大地に懐かしむもの
それは暖かな優しさ
我が海に沈めるもの
それは永遠の記憶
人のこころは歴史を紡ぎ
汝は辿り着く 運命の交わるべき処へ
我が汝に見出すもの
それは無限の可能性
そして 知られざる深層の真実
余韻は暫くその場を満たしました。
を賞賛し、星すらその瞬きを輝かせているようです。
もう一度、フロドはぺこりと頭を下げました。
何といっていいものか、思いあぐねていたのです。
はくすっと笑い、ふわりと中空を舞いました。
「そう、明日。陽が昇れば、運命はまた動く。フロド、もう眠ったほうがいいよ。明日は会議だから」
そのまま、顔を上げたフロドの額にキスをして、ゆっくりは離れます。
「おやすみ、フロド。あなたに野の神、森の神の祝福を!」
フロドは暫く、の去っていったほうを眺めてから、ゆっくりとあてがわれた部屋へ戻りました。
何にせよ、夢に出てきた妖精の、ささやかな忠告通りに、夢も見ぬほど深く眠ろうと思ったのです。
夢の中でも、もう一度寝るなんて不思議だなぁ、と考えながら。
翌日、エルロンドの会議場へ行く道すがら。
「おっはよー、フロド!昨晩は良く眠れた?」
「・・え、!?」
柱の影からひょっこり顔を出したを見て、自分はまだ夢の続きを見ているのかとフロドが錯覚したと
いう、それはまた別のお話です。
end.
後書き
指輪夢第二弾、フロドドリィムです。しかしまた題名長い・・・(沈)。
イエス、フロド(は)!
あのちまちました感じがカワイイですな!
今回の話は原作バージョンですが、原作のフロドはちょっと大人びた子供と言った感じでこれがまたカワイイのですv
映画も好きですが、私は基本的に原作でv
ちなみに作中の詩は私のオリジナルです。