宵夢
act.6 花冠

「綺麗な花ですね」
カトルはに笑い掛けて言った。
「ありがとうございます」
の部屋は、真冬だというのに花が満ち溢れている。
色とりどりの鉢植えや切り花がところ狭しと並べられ、良く見ると食用ハーブまであったりする。
「真冬にこんなに綺麗な花を寮で見る事ができるなんて、思ってもみませんでしたよ」
「お花、好きなんです。特にシオンとか、ハーブだとラベンダーとか」
「ハーブなんかは香りも良いですからね。僕はフェンネル類とかレモンバームが好きだなぁ」
「レモンバームは私も好きです。確か、一鉢だけその辺りにおいてあったと思ったんですけど」
寮内で言えば、恐らくカトルとにしか出来ないであろう会話である。

「そうそう、カトルさんハーブティー飲みますか?」
「頂きます」
数分後には、テーブルにローズティーの華やかな香りとプレーンクッキーの素朴な甘い香りが満ち溢れていた。
「このクッキー、さんが作ったんですか?」
「はい、食堂のオーブンをお借りしたんですけど・・・」
「とても美味しいです、さんって本当にお料理上手ですね」
これなら夕食以外だって毎日食べてもいいや、などと言いつつカトルはの方を見た。

は、笑っていた。

切なそうに。

さん・・?あの、僕何か悪いこと言ったかな」
「すみません・・・同じこと言った人が昔居たもので・・・」
「昔?」
「あの人も、いつも美味しいって食べてくれてたから・・・」
ぴくっとカトルのからだが動いた。
「・・・あの人?」
「半年前まで一緒に住んでた人です」
(まさか恋人・・・とか)
考えは口に出さないように、カトルは空っとぼけて尋ねた。
「ご兄弟の方とかですか?」
「いいえ。女の人で、アリサっていう方です」
「へぇ」
(なんだ、女性か)
内心安堵しながら、カトルはあいづちを打った。
「私より5つくらい年上で、凄く強くて、優しい人でした。・・・自分が男じゃなくて残念って言ってました、昔・・・」
遠い目をしては語る。
「どういうことです?」
「自分が男だったら、絶対私のこと嫁にもらうって言ってました」
(女性で良かった、ほんとに・・・)
カトルは本気でそう思った。
「うん。それは言うでしょうね、きっと」
「え?」
「いえいえ、こっちの話です」
笑って流すカトル。
「・・・その人、今どこに居るかわからないんです。半年前急に居なくなっちゃったから」
「手がかりは?」
「・・・・・・ないです。アリサ、全然自分の事話したがらなかったから」

は何かを探すように目を伏せた。

その時、カトルは酷く静かに直感した。

−−−・・・ああ、はその人のコトが好きなんだ。
−−−性別とか、そんなの全部飛び越えて。
−−−そう・・・透明な何かに向かってひた走るかのように。
−−−眩い何かに、導かれるように。
−−−きっと本人も気付かないうちに。

−−−その人を愛しているんだろう。

(・・・記憶の中の人に、負けるつもりはないけどね)
カトルは深呼吸して、笑った。
さん、貴女は強い人です。・・・負けないで下さい」
「ええ・・・。なんだか、カトルさんって似てます、アリサに」
「そうなんですか?」
「髪と、瞳の色。・・・それに、優しい所が」
は笑った。


「・・・そうそう、さん」
「何ですか?」
「僕のコト、カトルって呼んでくれてかまいませんよ。僕も、貴女のコトって呼びたいから」
「かまいませんけど?・・・でも何だかみなさんそう言ってくれてる気もしますねぇ」
「・・・そうなの?」
「はい」
「ふーん・・・」
(デュオはともかくとしても意外と皆、手が早いなぁ・・・あとで詳しく話聞かなくちゃいけないね)
黒カトル様、降臨。
「どうかしました?カトル・・・」
「なんでもありませんよ、
人の良い笑顔を浮かべてカトルはに向き直った。


「それじゃ、お邪魔しました」
「いいえ、楽しかったです。それと・・・クッキー、もらってくれますか?」
は帰りがけのカトルに、何時の間に包装したのかラッピングされたクッキーを差し出した。
「ありがとう、
「また一緒にお茶飲みましょうね、皆さん誘って」
「・・・皆さん、ね」
「何か?」
「ううん、こっちの話です」
「?」
は首を傾げた。
カトルは微笑んで、の手を取って軽くキスを落とした。
「・・・カトル?」
「それではまた。夕食も期待していますよ、


その後カトルが向かった先は、他のパイロット達の集まる談話室だった。

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後書き
はい・・・カトル様です・・・。何でこの人には敬称(しかも最上級)がついてしまうんでしょうか。
やっぱり・・・黒いからか。私のカトル様が(苦笑)。
しかし・・・会話があれですね、フツーの人とは違いますね。
少なくとも他のパイロットとではこういう会話は成立しないでしょう。
そして談話室の地獄絵図や如何に(爆)・・・。
黒カトル様については、蓬條真歩様に多大な影響を受けさせて頂きました(笑)。
この場を借りてお礼申し上げます。

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