テレパシスツ。
「駄目っていったら駄目です!!」
静かな森。
それは一体幾度目か、盛大に響いたのは少女の怒声。
しかしそれにも全くめげた様子を見せずに、幸村は今一度笑顔で繰り返す。
「いいでしょ、。お酒お酒」
「絶対駄目です。おサイフを握るものとして余計な出費はゆるしません!」
は本気の眼差しで幸村を睨む。
「だいたい、私達は早く京に行かなきゃいけないじゃないですか!鬼目の狂の体の在処を探すんでしょう!?」
「うん、それとこれとは別」
「何が別なんですか!あんまりお酒飲むと、あのアル中みたいに脳が酒漬けになって無口になっちゃいますよ」
「言うねえ・・・」
あはは、と笑って幸村は自分より頭一つほどは小さいの横顔をちらりと見た。
「狂さんのこと嫌いかい?」
「ぶっちゃけ言うと嫌いです。偉そうだし我が侭っぽいし。あれじゃゆやさんも苦労してるんだろうな、って思うと可哀相」
臆面もなくきっぱりとは言う。多分本人を目の前にしてたって言うだろう。
は割と同性の肩を持つ方だ。
というか、多分育った環境ゆえ男があんまり好きではない所為だろう。
未だに幸村や真田十勇士以外の男には常に警戒心全開である。
「・・じゃあ、ボクがあんまりワガママ言ったらは僕から離れていってしまうかい?」
「そんなわけないじゃないですか」
ひた、と歩みを止めて、コンマ一秒とも逡巡せずはきっぱりと言った。
そして隣の幸村を見上げ、
「この期に及んで私まで居なくなったら、才蔵さんが胃炎で死んじゃいますから」
そうくるかあ、と少しばかり幸村は苦笑した。
「どんなに幸村様が我が侭でも自分勝手でも、私は貴方についていきます。私は強くないけど、戦うこと以外のことで
幸村様の役に立ってみせるって誓ったから」
ふい、と顔を正面に向け直してからは言う。
「だから路銀は無駄にしません」
「えー」
「えーじゃないです。いい歳して子供みたいに駄々こねないでください」
「子供はお酒飲まないよ」
「揚げ足とるのもやめて下さい!ああもう才蔵さん!皆さーん!幸村様を止めて下さい!」
たまりかねたようには周りに生えてる木の梢当りに向って、陰ながら護衛しているはずの十勇士に呼びかける。
しかし返ってくるのは葉擦れのカサカサという音だけ。それに啄木鳥が幹をつつく音。
「居ないよ誰も」
さらりと幸村が言う。
「なんでですか」
「さっき適当に用事言いつけたから」
「・・・またテレパシーですか」
一気に気持ちの重力が増した気がした。
は全く気が付かなかったのだから、テレパシーと形容するしかないだろう。
「ボクと十勇士のミンナは心が通じ合ってるからねv」
さり気に寒いことをほざいている幸村の隣、はふっと表情が陰った。
「・・?」
ひょい、と屈んで顔を覗き込んでくる幸村の視線から逃れるように、そっぽをむいては呟く。
「・・・・・何でもないです」
あまりにも説得力のないその台詞に、幸村は苦笑する。
(ああ、拗ねちゃったかな。全く可愛いんだから)
「ねえ、どうしたの。言ってごらん」
「何でもないですってば。ただ、十勇士の皆さんが羨ましかっただけです」
あてつけのように鋭く一息に言ってから、足早には幸村から距離を取ろうとする。
当の幸村は一瞬きょとんとしてから、ああやっぱりそうか、と微笑みを浮かべた。
「っv」
数歩先を行くを、思い切り抱きしめた。
「きゃ・・・な、何するんですかっ」
「ああもうほーんと可愛いんだからーはv」
「幸村様っ」
腕の中でばたばた暴れるの髪に愛しそうに頬を寄せ、幸村は囁く。
「さっきが自分で言ったよね?戦い以外のことでボクの役に立ってくれるって・・」
「夜伽の相手はその項に含まれてません」
「いやそうじゃなくてね」
割とシビアなその台詞に少し冷や汗を流しつつ、幸村はを抱きしめたまま続ける。
「いいんだよ。は戦えなくても」
「・・・そういうことを羨ましがってるんじゃないんです」
「じゃあ、何を?」
わざと分らない振りをして、幸村は首を傾げた。
「・・・・・幸村様は、十勇士の皆さんをほんとに信頼してるから」
「のことも信頼してるよ?」
「でも私はテレパシー出来ないです」
「テレパシーしたいの?」
幸村は微笑って、の前に回り込み彼女の顔を正面から見つめた。
「じゃあしよう、テレパシーv」
「出来ません」
拗ねたようには突っぱねる。
「出来るよ。今からボクの気持ちが伝わるから、当ててごらん?」
「出来ませんって」
「いいからほら目瞑って」
納得は行かないまま、それでも根負けしたのかは渋々言われたとおりに目を閉じる。
この隙に路銀を取られては大変、とサイフに付けた紐は握りつつ(信用無い)。
そしてテレパシーがどういうものだったかというと、
唇に柔らかい感触。
「・・・・・・・・・・・・は」
十数秒の思考回路凍結を経て、は呆けたように目を開く。
目の前には、笑顔の幸村。
「ハイ。伝わったでしょ?」
「な、なっ、ななな・・・!?」
ぼっ、と一気に赤面したの呂律は回っていない。
「伝わらなかったカナ?」
あれー?と首を傾げる幸村。
「じゃあ、もう一回」
「わぁちょっと待って下さいっ」
ぐぐぐと幸村を押しのけるようにして、は叫ぶ。
「わ、わかりましたから・・・」
「それは良かった。当ててみて」
「え」
「当たってるかどうか判定してあげるから」
にこー、といつもの笑顔の幸村の頭に悪魔のツノが見える気がした。いや、此れが初めてではないけれど。
「言わなきゃ・・・だめですか」
「うん」
「ううう・・・」
恥ずかしくてちょっと泣きそうになりながら、は蚊の鳴くような声で、途切れ途切れに。
「・・・す、き・・?」
しかし幸村の判定は。
「惜しいけど残念はずれv」
「正解は、アイシテル、です」
言って、もう一度くちづける。
「・・・・・幸村様」
「なんだい?」
「好きだとか愛してるとかで懐柔しようとしてもお酒は買ってあげませんから」
「いやそうじゃなくて」
可愛い敵はなかなか手強い。
End.
サスケじゃなくてごめんなさいですが、鷹雪様へvvv
後書き
微妙な終わりかたで済みません。限界でした。
楽しかったですが幸村様。それにしても頭の悪い話で申し訳ないです(汗)
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