草原の日
柔らかく薫る草原を駆けた。
言葉を交わしながら、滑るように丘を降りて。
差し出された滑らかな手へそっと触れて。
2人で駆けていった。
「ほら!早くおいで、!」
「レゴラスがはやすぎるのよ・・もう、子供なんだから」
興味の引くものを見つけた子供みたいに、きらきらとした笑顔で自分を手招く闇の森の王子のもとへ、は苦笑を
零しながらも駆け寄った。
「貴方と一緒にいると、運動不足にだけはならなくて済みそうね」
「そう?私はと一緒にいると幸せになれるよ」
「・・・レゴラスったら」
微笑を湛えて、はレゴラスの隣、大樹の根元へ腰掛けた。
まだ、平和だった頃。
闇の森を抜け出してきたレゴラスが、遥遥やってきたのは他の何処でもない、裂け谷に住む半エルフ、の所だった。
「綺麗ね。とても・・・」
自分達を太陽から柔らかく隠す樹の葉の隙間から、蒼穹を仰ぎ見てが呟いた。
「綺麗なのは変わらないけれど、随分雰囲気が変わったよ。この草原も」
「レゴラスが長く来てくれない所為よ」
少し拗ねたような口調のに、レゴラスはにっこり笑ってその頬に口付けた。
「申し訳ございません、姫君」
「本当にそうよ。王子、あまり待たせていると姫がお婆さんになってしまうわ」
つん、と一度言ってから、急にふわりとは笑む。
「・・・嘘。会いに来てくれて、嬉しいわ」
それから、そっとレゴラスの方に頬を寄せる。
「闇の森は、どう?」
「相変わらずだよ。あそこは時間が過ぎていくのが酷く緩慢だから。それに比べれば、裂け谷で過ごす日々は風のように
過ぎ去ってしまうね」
「どうして?」
「君の傍にいるから」
レゴラスの言葉に、一瞬きょとんとしてから、はまた微笑む。
「私だってそうよ。貴方が居ると、時が急かされていくみたい。一緒にいたいのに、太陽はすぐに月に追い立てられて
隠れてしまうんだもの」
「・・」
「・・・ごめんなさい、困らせてしまって。ずっと一緒にいたいのは本当なの。けれど、それは叶わないことだから」
すっと目を伏せて、は細い声音で呟いた。
「私には・・・裂け谷を離れるなんて出来ない。私が一生を捧げるべき場所だから。レゴラスも、そうでしょう?闇の森が、
貴方の故郷であり貴方の居場所である限りは」
「うん・・・そうだね」
ゆっくりと、レゴラスも言葉を紡ぐ。
一言一言を、噛み締めるように。
「けれど・・・一緒にこうしているこの時間は、確かに存在するんだよ。共有のものとして、時間は永遠だから」
「・・・・・記憶は薄れるものよ」
目を伏せたまま、は呟く。
「そうしたら、また塗りかえれば良いよ」
はんなりと微笑んで、レゴラスは続ける。
「この時間が終わってしまっても、私は必ずまた君の元にやってくる。その度に、時間を共有しよう」
「・・・・・・・」
は何も言わずに、柔らかなレゴラスの金の髪を指で漉いた。
さら、と金糸の髪が流れる。
「?」
「レゴラス、ありがとう」
自分の顔を覗き込んで問うレゴラスに、花のような笑みを向けては言う。
「私、本当に・・・貴方のこと、好きよ」
「私だってそうなんだけどなぁ」
の額にキスを落としてから、レゴラスは困ったように笑った。
「ともかく、この共有出来る時間を有効に使おう」
「有効に・・って、きゃぁ!?」
首を傾げている間に、体重を掛けられてどさりと草の上に投げ出され、は思わず小さな悲鳴を上げた。
「れ、レゴラス・・?」
恐る恐る、仰向けのまま上を見上げて、は笑顔のエルフの名を呼んだ。
レゴラスはまた、子供のような無邪気な笑顔を浮かべている。
ただし、しっかり体制はの上。
「ちょ・・・!?」
唇を柔らかく塞がれて、抗議の声は最後まで音を成さなかった。
「ん・・っ」
ややあって唇を解放されても、しばらくとろんとしてから、がようやく思考を取り戻してみれば。
半分起き上がった自分の上半身をぎゅーと抱きしめるレゴラスの、金糸の髪が頬をくすぐった。
「・・・・レゴラス」
「なぁに?」
問い返す、腹立たしいほど優しく爽やかなその声音に。
も極上の微笑みを浮かべた。
「戯れも、大概にしなさい」
「は可愛いな。ほんの冗談なのに、本気にして」
さっさと上から追い払われたレゴラスが、無邪気な笑顔でそう言えば。
「ふふふ、レゴラスもお茶目ね。あれの何処が冗談だったのかしら」
も微妙に目の笑っていない笑顔でそう返す。
とことん、平和な午後であった。
後書き
えっと、おーはばに遅れて申し訳有りません麻友様!
リクと微妙に食い違ってます・・・一応、御出掛けと言う事だったのですが・・。
途中からいろいろ変わってますね(汗)。
ヒロインの性格から、まず変わってるし・・。
まだ平和な頃だったから、こんなコだったと思って下さい(欺瞞だ・・)。
こんなものですが、鏡麻友様、リクエストありがとうございました!