rain drops
いかに壬生の地といえど、曇る日もあれば冬には雪が降る日もある。
そして当然、冬以外の季節に降るのは雨。
そして、その日は雨が降っていた。
もちろんほたるは不機嫌だった。
無表情だろうが鉄仮面だろうが、不機嫌オーラはそれとわかるほど全身から立ち上っている。
陰陽殿の長い廊下の片隅で、欄干の上に腕を組んで顎を乗せ、絶え間無く雨粒を落とし続ける暗い空を忌々しそうに睨んでいる。
もちろんそれで雨が止むはずも無い。
「ほたる?」
何時の間にやってきたのか、後ろから声を掛けてきたも無視。
しかしそんなことでめげるではない。
恋に生きる乙女(疑問の声多数)は最強なのだ。
「雨、嫌いなの?」
今度は隣に並んでほたるの顔を覗き込んで尋ねる。
「嫌い。水だし」
「ふぅん」
答えが返って来たことに満足したのか、はほたるに習い雨降る庭を眺めた。
しとしとと降り続く雨は当分止みそうに無い。
ほたるは益々不機嫌そうに・・・眉間に皺までよっている。
はそんなほたるの、湿気を吸って重くなったのかへたりとした髪に少し触ってみる。
「ほたるってなんか猫っぽい」
「・・・猫・・?」
「うん、雨嫌いなとことか。気紛れなとことか」
「そう・・・じゃ、それでいい」
再び顎を腕に埋めて庭を睨みはじめたほたるの髪を、はまだ飽きずに触っている。
すると思い付いたようにほたるがまた顔を上げた。
「」
「何?ほたる」
「・・・雨止めて」
無理な注文である。
元々壬生の人間ですらないにどうしろというのか。
別にほたるも何かを期待して言ったわけではないだろう。単なるあてつけかあるいは意味すらないかもしれない。
しかしは、愛しい愛しいほたるの望みを叶えるべく彼の隣で思考回路をフル回転させていた。
思い付いた方法その@。
太四老・・・例えば吹雪あたりにならどうにかできそうなので脅してみるもとい頼んでみる。
の中ではカナリいけそうな方法だったが、如何せん吹雪が何処に居るのか分らない。
よってこれは保留。
というか、脅せるとかそういう風に思っているあたりが、この壬生で、ある意味が最強無比と言われている由縁であろう。
それはともかく。
は別の方法を探してみた。
思い付いたのは、
「てるてる坊主」
至極一般的なものであった。ただし、思い付いたのがでなければ。
密かに一瞬、デビリッシュスマイルである。
「・・・?」
変なモノを見る目でほたるはとなりでにこにこしているを見た。
「てるてる坊主。作ってみない?」
「なにそれ」
「晴れますように、っていう願掛け」
「気休めだね」
「そうなんだけど」
またにっこりと、ほたるにしか見せない素直な微笑みを向けて。
「ほたる、雨男って知ってる?」
辰伶は筆を持つ手を止めて、開け放している廊下に面した窓を凝視した。
たいして大きくない自室の窓からぬっと部屋を覗き込んでいるのは、
巨大なてるてる坊主。
正しく言うなら、それを窓枠に取り付けようとしているほたるの姿も有る。
勿論無断で。というか辰伶には視線すらくれず作業に没頭している。
「何をしているいる」
顔部分だけで30センチ、胴体(?)はその倍は有ると思われるてるてる坊主を押しのけるようにしてほたるを睨んで言う辰伶。
作業を邪魔されたほたるは、やっと無感情な視線を辰伶に向けて、
「・・・雨男」
「は」
何を言われたのか、辰伶は一瞬解らなかった。
「だめよほたる」
辰伶の中で考えが纏まる前に、続いてにゅっとあらわれたのは。
「もっといっぱいつけないと」
が手にしているのは、小てるてる(掌サイズ)を10個ほど糸で繋げたもの。
「な」
「辰伶は今世紀希に見る雨男なんだから」
「・・そうだね・・・」
「何の話だ」
「ほらやっぱり気休めでも、何らかの手段を試したくなるよねー」
「人の話を聞け!」
辰伶の怒声に、やっとは視線をほたるから彼に移した。それはもう渋々と。
そしていっそ憎らしくなるくらい可愛らしい笑顔で、
「雨男でしょ?」
「なんでそうなるんだ」
気の所為ではなく頭痛を感じて、辰伶は声のトーンを下げた。
この2人を相手に会話することが、だんだん不毛な気がしてくる。
付き合いの長さからだんだんテンポになれてきたほたるはまだしも、は辰伶の理解の範疇を軽く超えている。
「「水使うから」」
ダブルアタックには、撃沈するしかない。
かくしてその後から雨の日には、辰伶の部屋の窓に大小様々なてるてる坊主(ほたるが顔を描いたと思われるものは変に無表情)が並ぶこととなった。
「なんか、吹雪も雨男っぽい気がする。なんてったって辰伶の師匠だしーv」
お次は太四老に喧嘩を売る気らしい。
End.
後書き
済みません(土下座)。
多分このヒロインは私の分身です。
いや辰伶嫌いじゃないんですが、むしろ好きなんですが、このヒロインでいくときは間違いなく辰伶いじめちゃうでしょう(爆)。
なんてったってほたる至上主義シリーズですから。
すげぇノリが良くなかったんで微妙な出来ですが・・・まあ一作目ということで(殴)。