猫と餅
「初詣に行こう、トロワ」
こう誘われたのは、昨日のこと。
トロワは、約束の時間を5分ほど過ぎてもやってこない誘い主の顔を思い浮かべた。
誘ったのは、サーカスで妖精に扮し、空中ブランコの演技を行う女性、。
ナイフ投げのキャスリンと並ぶ、サーカスの花形である。
「折角JAPAN地区にきたんだし、ホラ・・・ここの近くのおっきな神社は、正月中七日間ずっとなにかやってるらしいし
・・・・・・昔JAPANマニアの知り合いの人に教えてもらったんだけど」
が赤銅色の髪をさらさら流しながら、首を傾げてそう誘ってきた。
「ねぇ、行こうよ〜っ」
サーカスの花形とて、所詮15の子供。
さらに人並み以上に子供っぽい性格だから、はっきり言って駄々をこねているようにしか見えなかったりもする。
はぁ、とトロワはため息を吐いた。
どうして断らなかったのか、自分で今でも謎のまま。
・・・いや、の後ろからキャスリンが、『一緒に行ってあげなさいよ』と無言で脅しをかけていた所為かもしれないが。
キャスリンは、のことを妹のように可愛がっている。
話を戻すとどうやらは、元旦の初詣を狙っていたらしいがマリーメイアの事件でコロニーに足止めされて地球に降り
るのが遅れ、さらにトロワも昨日・・一月の三日までいろいろあってサーカスに合流できなかった為達成できなかったら
しい。
時計の針は、定刻を10分ほど過ぎていた。
「はりゃ・・・トロワ、ごめん・・・遅くなっちゃった・・・・・・」
息せき切ってが現われたのは、時計の分針が約束の時間から半分ほど回ってから。
「フリソデ・・・っていうの、借りたんだけど・・・上手く着れなくて」
は、あでやかな赤の地に金の模様入りの振り袖を着て、深緑の帯を締め髪をアップにし簪をさして、足袋と草履を
履いて白いフェイクファーのショールを纏っていた。
言う間にも、ぜぇぜぇ胸を抑えてせき込んでいる。
「気にすることはない」
...どうせ予想の範疇だったから。
という事はあえて口には出さない。
...拗ねるに決まっているから。
「ごめんねぇぇぇ・・・・。それじゃぁ、行こうかぁ・・・」
ふーっと深呼吸して、なんとかは顔を上げた。
「こけるなよ」
至極当然のトロワの注意だった。
「うわぁぁぁぁっ、綺麗・・・・・・・」
は目を輝かせて、神社の境内で行われている巫女達の舞に見入っていた。
「ねぇトロワ、あの真ん中の、あの人カッコイイ・・・」
「・・・女性じゃないのか」
「女の人だけど、なんか凄いカッコイイよ」
烏の濡れ羽色の艶やかな長い髪。きりっと釣り上がった細い眉。
意志の強そうな、黒曜の澄んだ双眸。
なるほど確かに『カワイイ』とかそういう形容詞よりも『カッコイイ』の方があっている気がする。
「いよっねーちゃん日本一〜っ!」
最前列で囃し立てた観客が知り合いだったのか、持っていた舞小太刀で斬りかかったような気がするのは
幻惑だとして。
「わ〜・・・・」
舞が終わった後でも、暫く余韻に浸っている。
「来て良かったか、」
「うん!トロワと一緒だし、凄い楽しいよっ」
「・・・『御神籤』でも引きに行くか?」
しあわせそうに笑ったを見て、少しだけトロワは微笑って言った。
「行くっ!」
「あー、楽しかったv」
トロワと並んで、殆ど人の居なくなった神社の境内を歩く。
「今日はありがとね、トロワ」
「いや、いい」
「楽しかった?」
「ああ」
「よかったv」
は、そろそろ落ちはじめる夕日を眺めながら笑った。
「トロワってさ」
「何だ?」
「ガンダムのパイロットだったんだね〜。私、初めて知ったよっ」
「初めて・・・ああ、そうか」
...一年前・・・戦時中にはまだはサーカスに入団していなかったな。
「それでね、私・・・」
「何だ?」
「凄い驚いたし、ちょっとムカついた」
少し前を歩くの顔は、伺い知ることが出来ない。
「JAPANの文化のこととか、教えてくれた知り合い・・・一年前の戦争に巻き込まれて死んじゃったんだ」
心なしか、声音は笑っているかのように聞こえる。
「トロワも、その戦争の中にいたんだよね」
は振り返った。
微笑みながら。
「辛かった?」
「・・・・・・さぁ、な」
何といっていいのか、分からなくて曖昧な返事をする。
「いいの。戦争って、そういうものでしょ。無関係な人も巻き込まれて、残された人も辛くて、戦ってる人も・・・
辛いんだよね」
「だから、いいの。それがわかったから」
は少し泣きそうな顔をした。
「・・・」
「あッ!」
突然がしゃがみこんだ。
「どうした?」
「鼻緒・・・切れちゃった」
右足の鼻緒はよくもこう綺麗に千切れるものだと感心するほど、救いようも無く無残にぷっつり切れていた。
「どーしよー・・・」
鼻緒の付け直しかたなんて、着付けの本には書いてなかった気がする。
それに、草履なんて初めて履いたものだから、両足とも痛くてしょうがない。
「・・・」
「うーん・・・ひゃ!」
一瞬何が起こったかわからなかった。
「わっわわわわ!!何、なにトロワぁ!」
「このまま運ぶ」
涼しい顔でを抱き上げて、トロワは何てこと無く言い放つ。
「はぅ・・・お、重くない?」
「ああ。ガンダムの部品に比べれば」
誉められてんだか貶されてんだか解らない言い草ではあるが。
なんだかとても、嬉しかった。
「・・・て、トロワ私の部屋通り過ぎたけど」
「持ち帰る」
「ふぇぇぇぇぇっ!?」
次の日の公演、がいやに眠そうだったとかそういうのは内緒の話。
end.
後書き
ははははははは。駄文は今日もあたりの迷惑省みず爆進中・・・ってか(淋)。
分かってもらえててたらかなり喜びまくり倒しますが、作中の『黒髪の巫女さん』と『野次を飛ばしたにーちゃん』は、
某世紀末ヒーローコミック(何)の『七人の封印』のお二人(伊勢の隠し巫女と高野山の坊さん)だったり(謎)。
H13.12.30『口説かれ隊』企画参加作品
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