幻想奇譚+外伝+
こんな関係、こんな日常

一時の平和を見せる、聖王都ゼラム。
その一画、高級住宅街のある邸宅。
そこに平和は・・・。

「一体君はなにを考えてるんだ!?」
今はもうお馴染みとなっているネスティの怒声が響き渡る、ここはギブソン&ミモザ邸。
フリーバトル帰りの居候の一行が帰宅した途端、これである。
屋敷の主2人は、今度は何だとどこか楽しげにやってきた。
苦笑いを浮かべるのは、双子の調律者様御一行。
「何よ、なんか文句あるの?ネス」
一方、その怒声を一身に受けているは、しれっとした態度でそう言い放った。
「ほう、そんな態度に出るのか?」
一転、冷ややかな攻勢となる。
端から見てると、まるでブリザード吹き荒れる北極海の一騎打ちだ。
「・・・・・では、きちんと問おう。何故、さっきの戦闘でさっさとデクエイクを発動させなかったんだ?あの
タイミングで召喚すれば、一網打尽だったと思うんだが」
「だって、あの位置取りでガルマちゃん召喚んだら、ネスもきっちり効果範囲内に入っちゃってたじゃないの」
肩を竦めて、は答える。
「君は馬鹿か!?僕は仮にも召喚士だ、あれくらいで戦闘不能になってどうする!」
仮にも・・・とはいっても、既にランクは『機界の伝承者』なネスティは、思わず声を張り上げる。
「大体、そんな理由で敵を倒しそこなって、挙げ句の果てに自分が怪我をしただろう、君は!」
「あたしは一応自衛手段持ってるから良いの!ネスなんか、迂闊に杖で直接攻撃しようもんならカウンター
一発食らって昏倒しちゃうくらい体力無いくせにっ!!」
アンタに比べればアメルの方がよっぽど打たれ強いわよっ!
最後の台詞はさすがに胸のうちに止めながらも、は躍起になって怒鳴りかえした。
ブリザードから一転、灼熱のマグマのような争いだ。
「そういう問題か!?」
「そういう問題よ!!」
「・・・誰か止めろよ」
耳を劈くばかりの2人の声に、顔を顰めながらバルレルが呟いた。
「止めるならアンタが止めなよ」
「誰が。俺はまだ死にたくないんでねっ」
「うふふ、2人とも相変わらず元気ですね」
冷静に受け流すモーリンに、そっぽを向くバルレル。
そして平和そうな笑顔を浮かべる豊穣の天使、アメル。
「・・・・さて、そろそろ店を開ける準備をしに行きますか」(微笑)
「あ、私もケーキ屋のバイトあるので、これでっ」(ダッシュ)
「ルゥも一緒に行くよ!マロンケーキ買いに行かなきゃ♪」(元気に挙手)
シオン、パッフェル、ルゥの三人が逃亡。
「あ!あいつら、逃げやがったな!」
無情に締め切られたドアを見て、リューグが悔しそうに叫んだ。
「・・・この状況をどうやって収拾しろって?」
実際のところ収拾する気は微塵も無いフォルテは無責任そうに呟いた。
「だいたい、君は自分の腕を過信しているんだ!正式に武術の鍛練した訳でもないのに・・・!」
「それでも、ネスよりはよっぽどマシよ!!説教大魔人!」
「それは関係ないだろうっ!」
「あらあら、可愛いもんねー」
「聞こえると、君が攻撃されるぞミモザ」
怒涛の言い合いに、水を差すように呟くミモザとギブソン。
「いいのよ、そしたらペンタ君両親付きで召喚ぶから。だって、庇われるよか庇いたいネスティに、彼が怪我
するの我慢出来ないでしょ?結局は痴話喧嘩よ痴話喧嘩」
「ミモザっ!!!」
「先輩っ!!!」
手をひらひら振りながら、にこにこ話すミモザにキレるネスティと
顔が赤いぞ、などと言おうものなら、ゼルゼノンとレヴァティーンの波状攻撃を食らうだろうが。
「そうだよー・・・ネスは、の気遣いちゃんと受け取らなきゃだめだよ!」
も、ネスをもうちょっと信用しなきゃいけないんじゃないか?」
トリスとマグナの台詞に、ぐっと言葉を詰まらせる2人。
「仲直りしなくちゃ、ユエルが噛んちゃうぞっ」
さらに、ユエルに追い討ちを掛けられる。
仲直りと、噛み付くことの関連性が全く見えないが。というか、脅しかもしれない。
「・・・う〜・・・わかったわよ・・・・・」
渋々ながら、が呟くように言う。
「・・・・・仕方無いな・・・」
流石に、オルフルの牙で噛まれるのは嫌なようだ。
ネスティもまだ不服そうな顔をしつつ、妥協の言葉を漏らす。
「あらあら」
「まだ、完全に和解とは言えないようだね」




「ネスー、いる?」
その日の夕方、は二階の書斎のドアを叩いていた。
「・・・ここにも居ないの?」
部屋にも居ないとなると、何処にいるのよあの毒舌魔人は・・・・。
はむぅ、と頬を膨らませてドアから拳を放す。
「・・・はぁ〜・・・・・・」
ため息を吐いて、階下に降りずにそのままテラスの扉をひらく。
そこには誰もおらず、ただ夕暮れ時の優しい風が街並みを縫って吹きすさんでいた。
は白いイスに腰掛け、手に持った青い箱をテーブルに置いてから、オレンジ色に染まる空を見上げた。
「・・・・ネスの馬鹿」
「・・・・・・・・随分な台詞だな、それは」
「え!?」
独り言のつもりで呟いた言葉に答えが返ってきて、は驚いて振り返る。
不機嫌そうな顔をして、入り口に立っていたのは他ならぬ、ネスティその人だった。
「な、なんでネスが居るのよっ」
「・・・が決まって居るところ、といえば此処だろう」
「・・・・・あたしを、探してたってこと?」
あたしだって、探したんだけどな。
は胸のうちでそう思いながら、尋ねる。
ネスティは答える代わりに肩を竦め、黄色の花束を差し出した。
「・・・・・・・・・これ、何」
「花だ」
「いや、それは解るけど」
いまいち、噛み合わない会話。
それでもは、反射的にその花束を受け取っていた。
「・・・今日の、お詫びだ」
「あたしに?」
良い香りのする花束を抱きながら、は首を傾げる。
「ほかに、何がある」
はぁ、とため息を吐きながらネスティは呟いた。
「・・・・・・・・ありがと。・・・出遅れちゃったわ」
「何が・・・だ?」
「・・・・ケーキ、買ってきたの。前、ネスがおいしいって言ってたやつ。二つ買ってきたから、一緒に食べない?」
ちょっと俯きながら、は青い箱を手に取った。
「・・そうか。なら、頂こう」
「うん。・・・けど、普通仲直りに花束なんか買って来る?」
「うるさい」

陽、落つるゼラムの街並み。
今日も、それなりにこの邸宅は平和だった。




「君は、毎度毎度どうしてそうなんだっ!」
「何よっ!ネスだって相変わらずの癖に!!」
「・・・・・付き合いきれねえよ、この主人と眼鏡には」
「アルジ殿トねすてぃ殿ハ労力対結果ノ計算ガ出来テイマセンガ・・・」

日常という名の、非日常。

end.

後書き
以上、100HITgetの、KIM様のリク『サモン夢連載設定で喧嘩腰なヒロイン』より、『こんな日常、こんな関係』でした。
・・・ただ喧嘩してるだけ(死)。
でも、なんか書いてて物凄く楽しかったです(笑)。
いいぞ、強いヒロイン(笑)!
実は、最初はケーキはFROMルゥ&パッフェルさん、花束は提供シオンさん、って設定だったのですが・・・。
自分で買いに行ったほうがラブラブかな?なんて(笑)。
・・・・ラブラブか(疑)?これ。
な、なにはともあれ・・・KIM様に捧げます。100HITありがとうでした!