灯火

カツ、カツ、カツ・・・。
重い足取りで、は自分が入居しているマンションの前にある、数段の階段を上っていった。
疲れている時は、このほんの5、6段の階段さえ疎ましく感じ、足が重くなる。
けれど。
自動ドアをくぐる前に、はマンションを見上げる。
3階の、右から5番目の。

灯りが、ついている。

ほぅ、と息を吐いて、はもう一息、とアスファルトを踏みしめた。




「ただいまぁ〜」

がちゃり、と既に開いているドアを開け。
クツを脱ぎ捨てるようにしてとたとたと覚束無い足取りでリビングまで駆けて。
ソファに居る人物目掛け、ていっとダイブする。

「おかえり」

よろけもせず受け止めてくれた、年下の恋人の首に抱き着いて、は体を預けるようにして倒れ込んだ。
「紳一〜、おねーさんはきょーも頑張ってきたよーぅ」
「褒めて欲しいのか?」
「うん、褒めて褒めて」
「よしよし」
子供をあやすように、ぐりぐりと頭を撫でる牧に、は唇を尖らせて首を振る。
「ちゃんと褒めなさい」
言われて、牧も解った解った、と肩を竦める。
「・・頑張ったな、
触れるだけの軽いくちづけに、それでも満足したようにはえへへと笑ってまた顔を埋めた。
「あのさぁ、紳一」
「何だ?」

「帰ってきてさ。部屋に灯りが点いてると、嬉しいよねぇ」

「ああ」
「紳一」
「ん?」

「ありがと」

部屋にあんたが居るって考えると。
あと一息、って思えるのよ。

「現役のころは構ってやれなかったからな」
「バスケやってる紳一も好きだー」
何度か見に行った、バスケの試合を思い出しながら、子供のように牧の膝の上に乗ったまま、はのんびり呟く。
少し前に、牧の高校での最後の試合は終わった。

その試合も見に行きたかったな、と思う。
・・・仕方ないじゃないの都合付かなかったんだから、ああ悔しい。

「お褒めいただき光栄です」
「やーね、本気で言ってるのに。大学行ってもやるんでしょ?それともアメリカ行くー?」
の言葉に苦笑して、牧は言う。
「当座は大学。アメリカは・・・まだ早いな」
「そうなの?」
「ああ、ただし行くときはも連れて行く。英語なんか忘れただろう?」
「っあー、そこまで未来図出来てたのねぇ」
呆れたように天井を仰いでから、は続ける。
「駅前留学でもして勉強し直さなきゃなーあ?」
「なんだ、割と乗り気だな」
「乗り気じゃなきゃ紳一、困るでしょ?」
はにっこり笑う。
「そりゃそうだ」
牧も、苦笑するようにして、の頭を撫ぜた。

「じゃーねぇ、今日は出前でも取ろうか。アメリカ行予約記念に」

が作るんじゃないのか?夕飯」

「駄目ですー泥のように疲れました。紳一、寿司とピザどっちがいいー?」

手を伸ばし、コードレスの受話器を握って、が尋ねる。
そうだな、とすこし思案に暮れる牧を眺めながら、幸せだな、と思った。


End.

後書き
スラダンドリにまで手を出しました節操無しの惚れっぽい管理人です。
本命は帝王。ヒロイン子供っぽくしすぎた気もしますが、年上ドリ好きだ・・!ということで。
相変わらずニセモノ万歳!な出来になってしまいましたが、いつもお世話になってます、桜樺さんこと水原 空さんに捧げますv
リクエストありがとでした。

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