日溜まり

麗らかな昼下がり。
呑気に遊びに出かけたリーダーを探す鬼軍師の怒鳴り声も、安眠を妨げられてキレた吸血鬼の長の破壊音も、
はたまた怪獣戦争を繰り広げはじめたタコの夫婦の喧騒も響いてこない、珍しいほどの平和な日。
それでも何処かの一画で、聞きなれた騒音が立てられはじめるのであった。


「フリックさーんっvvv何処ですかー!?」


毎度毎度のその声の主。
人並外れた体力で、城を一周二周は楽に走り回る恋する少女は、今日も今日とて愛しのひとを探し回っていた。
「ニナも健気ねぇ」
「だとしたら、フリックはもっと不幸だね」
ふ、とマニキュアを塗ったばかりの爪に息を吹きかけながら人事のように言うジーンと、グラスを磨きながらどうでも
よさそうに言うレオナ。
二ナは酒場から屋上まで、ひたすら走り回っているのだった。


「平和ですねー・・」
場所は変わって、柔らかな日差しが降り注ぐ中庭。
シロの毛繕いをしながら、はほのぼの呟いた。
「フリックさんも、そう思いませんか?」
「・・・・まぁ、なんだ、見付からなければな」
返って来た声は、木の上から。
最近見つけた隠れ場所は、青々と葉が茂る大樹の枝の上だった。
はその下に陣取って、木漏れ日が揺れる中で本を読んだりしている。

「でも、フリックさん。ニナちゃん、あんなに一生懸命なのに・・・可哀相ですよ」

少し顔を顰めて見せるに、フリックはやや落ち込んだ。
(何が悲しくて惚れたやつにそんなこと言われなきゃ・・・)
多分にが鈍い所為もある。




!フリックさん、知らない?」
恐れていた事態は起こった。
探すだけ探し回り、残りは中庭周辺のみだったのだろう。
にそう尋ねかけて来たのは、他でもないニナである。
は困ったような笑顔を浮かべた。
「えっと・・・」
木の上のフリックも、寿命が縮まるような思いだ。
が返答に困り、曖昧な言葉を呟いているうち。
の膝に頭を乗せてまどろんでいたシロが一声鳴いて立ち上がり、ぱたぱたと尻尾を振りながらとことこと
小走りに歩き、或る地点で立ち止まってもう一度鳴いた。
そこは、城の渡り廊下で。
丁度そこを通ったのは、マイクロトフ引きいる青騎士の一団だった。
「なるほど!フリックさんてば、そんな処に紛れてたのね!」
グッと拳を握るニナ、ホッと安堵のため息を漏らす枝上のフリック、複雑そうな顔をする
三者三様の表情を見せるが、ともあれニナは青騎士団への突撃を開始した。
「良くやった、シロ!今度肉でも持って来てやろう」
「・・・ニナちゃん・・・・」
わぁわぁと騒ぎになり始めた其の辺りを見つめながら、は逡巡するように呟く。
「・・・・あの、フリックさん」
「・・・・・・・・何だ?」
なんとなく嫌な予感を憶えたのか、冷や汗一筋流して問いかえすフリック。

「やっぱり、駄目ですよ!ニナちゃーんっ!!」

「わーーーーーー!!!!」
いきなりニナを呼んでこようと声を上げたに、慌ててフリックは木の上から飛び降りた。
そしてそのまま人攫い宜しく、を肩に担ぎ上げて全力疾走で其の場を立ち去った。
残されたシロだけが、詰まらなさそうにもとの木陰に寝そべっていた。




「あの、フリックさん?何処に行くんですか?」
自分を抱えたまま走るフリックに、首を傾げて尋ねる
不穏な視線をびしばし感じているフリックは返答の余裕も無い。




やがて彼の息も切れる頃、辿り着いたのは船着き場だった。
「・・・フリックさんも、逃げる事なんてないのに」
「あのなぁ・・・」
すとん、と降ろしてもらうと開口一番そんな事を言うに、ぐったりしながらフリックは呟いた。
もうどう突っ込んでいいものやらわからない。
ざばざばと、遠くのほうでたてられる水音だけがしばし響いた。
「・・・・はぁ」
投げやりになったのか、フリックは桟橋の端に腰を下ろす。
もそれに習って、不思議そうな顔で彼の顔を覗き込んだ。
「釣りでも、していくか」
「そうですねー」
(あとで、ニナちゃんにフリックさんが釣った魚、持っていってあげよう)
がそんな事を考えているとは露知らず。
やっと得た短い平穏を、フリックは楽しもうと決意したのであった。


その後、青騎士団と船着き場がニナの重点チェックポイントになったのは言うまでもなく。

end.

後書き
えっと・・・こんなので宜しいんでしょうか・・・・(汗)。
フリック夢・・・か、コレ・・・(疑)。
なんだか馬鹿みたいな事態になってます。やっぱりヒロイン鈍いです。
こ、こんなものですが・・・宜しければ、三月様、貰ってやって下さい。