激情
リィーン
「・・・これが、"鬼の子"か」
氷に封じられて尚、紅く鋭い瞳輝く狂の体を見上げて、遊庵は呟いた。
「それにしても、随分時間食っちまったなあ」
ごきごきと肩を鳴らし、呟く。
「・・・・・・だから、あんたと遊んでる時間はねーんだよ」
首を捻る。
刹那遅れて、刃が空を切った。
カーンッ
融けない氷にぶち当たったクナイは、高い音を立てて弾かれ、床に転がった。
「ちっ」
遊庵が振り向くのと、そんな風にが舌打つのがほぼ同時だった。
「もうこないのか?」
黒い忍衣裳に身をつつみ、目深に巻いた布と額あての下から自分を睨んでいるに、遊庵は尋ねた。
「さっきみたいに"鬼の子の体"に当たってもこまるから、か?」
「良いわよ別に、それは。あたしそいつ嫌いだし」
はあっさりと、つまなさそうに半眼になって、言った。
遊庵はちょっと口の端を持ち上げて、それから少し身を折り楽しそうにくつくつと笑い出した。
眉を顰めては問う。
「何よ」
「変わったお嬢さんだと思ってな」
「悪かったわね」
「嫌いな"鬼の子の体"を持って帰ろうとする俺を邪魔した理由は?」
「アキラがそいつを必要としてるから」
また、なんともなしにが応えた。遊庵の忍び笑いは助長される。
「だから、何よ」
再度、こんどは更に機嫌が悪そうにが尋ねた。
右手には、何時の間にか抜いた忍び刀−−村正の作品である、が握られている。
「アキラ、とかいう漢の為、か」
「悪い?」
「いいや、全然。俺は好きだね、そういう良妻」
その言葉に、ぴく、とは額あての下の眉を跳ね上げた。
「旦那は鬼の子のほうが大事みたいだけどね」
未だにこっそりと根に持っているのか、は口を尖らせて呟いた。
「それはそれは」
また、可笑しそうに遊庵が言う。
「難儀だねえ。忍ぶ妻か」
「つまんない冗句ね」
「いや、引っ掛けたつもりはねえんだけど」
笑いながら、何の前触れも無く、遊庵は右手をひらりと振った。
「!」
対し、は本能に近い動きで半身引いた。
しかし少しばかり遅く、
がっ
額あてが、顔を覆っていた布ごと、弾き飛ばされた。黒い髪が乱れて散る。
刀を降ろうとした瞬間には、目の前に遊庵が、いた。
「顔隠すの勿体ねえな。美人だ」
「−−−ッ」
あまりの−−目で追う事すら許されなかったその迅さに、は硬直した。
遊庵の右手は横に振り払った動作から、ゆるりと戻ってきての頬を撫ぜる。
左手はの、右の手首を捕らえている。刀が振るえぬように。
「・・あんた、好きだな。気に入った」
言って、軽くくちづける。
「・・・あら、ありがと。あたしはあんたなんか嫌いだけど」
一瞬驚いた顔をして見せたは、しかしそれで硬直が解けたのか次に艶やかに微笑み、そして、
ヒュンッ
唯一自由な左手に握られたクナイが空を切る。
実に緩やかな動作で後ろに跳んでそれをよけた遊庵は、そのままくちもとを笑いの形に吊り上げる。
「俺の名は遊庵」
その名乗りもろくに聞かず、が一歩踏み出した途端、白い霧が立ち込めた。
「ッ!」
なにかの呪なのかそれとも毒物か、霧はの体の自由を奪い、視界を白く埋める。
「悔しかったら、壬生の地へ来いよ。何なら俺が、大事にしてやるぜ?」
その言葉を残し、そう経たないうちに霧が晴れてが四肢の自由を取り戻す頃には、狂の体も遊庵も消えていた。
暫くはその場に表情も無く立っていたが、なにかを決めたのか、美しい・・・けれど背筋が寒くなるような笑みを浮かべた。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・決めた。あいつ、殺ス」
「・・・・・・で、意地と執念でここまで来た訳ですか」
「そう」
はこくりと肯いた。
周りに立つ面々に半分呆れた顔をされているのも全く気にとめず。
綺麗な顔に、あの空恐ろしい微笑みを浮かべて。
対してアキラは、阿国に続くように−−此れはたまたま侵入経路が同じだっただけだが、唐突に降ってきたをどうするべきか、
ちょっと悩んでいる所だった。
「そういうことなら、その漢は私が殺しておきますから、はお帰りなさい」
「絶対嫌。アキラ、あたしの話聞いてた?あたしがあいつ殺ス。もう決めたから」
つい、とすました顔をしては言う。
「ですが−−」
「・・・いいじゃないですか!アキラさん!」
「は?」
突如叫んだゆやに、さすがに虚をつかれてアキラは固まった。
「なーんで壬生の人達は揃いも揃って女の子を馬鹿にするのよ!信じらんない!許せないわ!」
ゆやは拳を振り上げて、誰とも無しに怒っている。
「・・・・もしかせんでもゆやはん、実は辰伶のこと根に持っとるんか?」
恐る恐る尋ねる紅虎に、ゆやはきっ、と瞳を鋭くして、叫ぶ。
「当たり前よ!術も解いてもらったし割り切ったけど、それと此れとは別!」
「気が合いそうね、あなた」
「ええ!」
「ちょ・・、ゆやさん」
「さ、こんなとこでぐずぐずしてないでいきましょ」
「ほらみんな!さんの言うとおり、行きましょう!」
「・・・・・・・・・・・」
「諦めろよ、アキラ」
「あのこ、柱に縛り付けてでもおかないと付いてくるだろうしね♪愛されちゃって、アキラの幸せ者ーv」
「良かったね、アキラ」
「どこがですか!!」
強制イベント発生、が仲間に加わった。
End.
後書き
最後はRPG風にしめてみました。
WM24号にしか出てない遊庵さん(5/31現在)、何故書く気になったかは不明です。
ニセモノ万歳なのは相変わらずで☆(をい)どんな能力なのかも不明だし・・。
このヒロイン結構気に入ってるので、また書くかもです。
VS大四老、時人と梵(前フリあったし)、ひしぎと灯(因縁)、そんで吹雪とほたる(辰伶絡みで)。
・・・なんてことになったら遊庵はアキラか!?とか根拠も無い推測してたりします。
四聖天以外見事に無視してますが(笑)
とりあえず、アキラVS遊庵だけでもそうなったらしてやったり、ということで(笑)