永遠のヒト。+隣の居場所+
第4話 こころの天秤
裂け谷は今日も、すがすがしい朝を迎えている。
高く囀る小鳥達の歌声に耳を傾けながら、は蔓薔薇の様な花が緩やかにアーチを形作るテラスで、
ぼんやりと青空を眺めていた。
そんなを見つけて、グロールフィンデルは石段を降りる。
「?」
小さな背中に、声を掛けた。
けれどもは微塵の反応も返さない。
「どうかしたのか?」
少し心配になって、グロールフィンデルはの顔を覗き込む。
「うっ、わわわ!ど、どーしたの?」
途端に、弾かれたようには表情を変え、慌てて飛び跳ねるように驚いた。
「それは私の台詞だよ。、体の調子でもおかしいのか?」
「んー・・・えっとねー・・・」
小首を傾げるに苦笑して、グロールフィンデルは彼女のとなりに腰を下ろす。
「ちょっと、考え事してた」
「考え事?」
「うん」
は自分の掌を日の光に翳して眺めながら、どこか他人事のように肯いた。
「ボクは、選べるのかな、って」
「・・・選ぶ?」
「うん。選べるのかな、って」
もう一度呟いてから、は薄く目を閉じた。
「もし・・・いつか、ムコウに帰れることができる日が来たら・・・その時ボクは、ココかムコウか選べるのかな、
って考えてたの」
「・・・」
言葉が見付からずに、ただの白い瞼を見ていた。
どうしてだろうか。いつもよりも、そう・・・死人のように、肌が白い。
「グロールフィンデル・・・ボク、君が好きだよ。アルウェンだって、エルロンドだって、好きだよ。・・・・・けど、
やっぱりムコウはボクが生きてきたところなの。・・・選べるか、自信が無いよ・・・・・」
こてん、とはグロールフィンデルの肩に頭を乗せた。
黒髪が散って、表情を覆い隠す。
「どうしよう・・・なんだか、凄く怖い」
痛い声音で。
それだけ呟いて、は押し黙った。
グロールフィンデルは暫し逡巡するように、無言での頭を撫ぜていて、それからやっと口を開いた。
「わたしには、どちらが良いのか・・・言ってあげられない」
ふ、と短くため息を吐いて、言葉を続ける。
「けれど、一緒に考える事は出来る。が望む限り、わたしはの傍に居よう」
僅かにの肩が揺らいだ。
ゆっくりと顔を上げ、はグロールフィンデルの瞳を見上げた。
「・・・ほんとに?」
「ほんとうだよ」
優しい微笑みと言葉に、は少しだけ・・・恥ずかしそうに、俯いた。
「グロールフィンデルの隣に・・ボクの居場所は、ある?」
「勿論」
天が蒼く澄みわたる、その下で。
誓いは交わされ、永久のものへと、昇華された。
「あのね、ボク、考えたんだけどっ。グロールフィンデルの事、なんて呼ぼうかな?」
明るい表情で、は言った。
すっかり元気を取り戻したようで、まるで今にも空に昇っていきそうな風船だ。
「アルウェンとかは、フィンデルって呼ぶよね?どーしよっかなー・・」
笑顔で語るに、グロールフィンデルもまた微笑みで返そうとして・・・中途半端なところで硬直した。
「・・・・いや、好きでいいが・・・・・あまり突拍子の無いようなものは・・・」
汗、一筋。よほど嫌な思い出でもあるのだろうか。
「んー・・?うん、わかった。フィンデルにする」
の台詞に、大袈裟にグロールフィンデルが胸をなで下ろしたのは・・・言うまでもない。
「あ、けどね・・・今、一回だけでいいんだけど。別の呼び方、してもいい?」
急に視線を外して、ごにょごにょと呟くに不思議そうな顔をして・・・一抹の不安を憶えながらも、
グロールフィンデルは首を傾げた。
「別に構わないが・・」
「う、うん、ありがと」
すー、とは深呼吸をして、グロールフィンデルの耳元に顔を近づけた。
「・・・マイ ダーリンっ」
end.
後書き
あー・・・(遠い目)。
えっらい恥ずかしかったです、途中から(汗)。
フィンデルの口調は統一出来ないしー・・・勉強不足(泣)。
第一部『隣の居場所』はこれで完結しましたが、続編では、もーちょっとマシなものにしたいです。
なにはともあれ、『隣の居場所』終了まで読んでいただけて、大感謝です。
次はエルロンドの会議編ですー♪