或るエルフ王の子煩悩心を発端とする妖精の冒険
中つ国、北部闇の森。
エルフの住むその森の奥深く。
「・・・・・・・・・・・・・・はい?」
は小さな・・・そう、ホビットの5分の1ほども無いような体躯で精一杯、その疑問の意を表しました。
背中から生えた透明な二対の羽で、自由に空を舞うは、闇の森の入り口あたりで地面に落ちていたところを、森に君臨するスランドゥイルの息子レゴラスに拾われ、以来この森に住み着いているという謎の生き物です。ああ、いや、失礼。
さて、彼女が怪訝そうな視線を向けているのは、エルフ王スランドゥイルその人に他なりません。
スランドゥイルは夜の風が頬を打つ、木々の隙間から月を垣間見れるテラスに腰をかけ、額に手を当てて嘆くように言いました。
「よ、私の言った事が聞こえなかったのか?余計な時間を取ることは出来ないのだ、夜明けは刻々と近づいているというのだから」
「貴方様のおっしゃった言葉は耳から頭へすっと通りましたとも。このはそこまで耄碌してませんから。
けれどエルフ王、闇の森の気高き主よ、私の頭は入ってきた言葉の意味を私の理解出来る言葉に翻訳する事が出来ませんよ」
は中空をふよふよと漂いながら、大袈裟な動作を交えながらそう言いました。
「それならば、やはりお前は耄碌したのだろう」
「貴方様の半分も生きてはいませんよ、わたしは!どこのダレが、いきなり『明日は行け』と主語其の他もろもろが吹き飛んだ台詞を理解出来るというのですか!?」
はスランドゥイル王の周りを一周まわってから、彼の目の前で叫びます。
「長年連れ添ったお前の事だ、理解してくれると思っていたのだが・・・」
「ああああもう!誤解を呼ぶような言い方止して下さいよ!ようは、明日裂け谷へと出立なさる御子息に同行せよとのことなのでしょうが!」
「解っているなら最初からそうと言うがよいだろう、よ」
「・・・・わたしが裂け谷へ征く理由が見当たらないものですからね」
心底、はため息を吐きました。
「そう、ひとつはエルロンドへの言づてだ」
「ひとつは、ってことはまだあるんですね」
「よ・・・レゴラスに何かあったらどうしてくれるのだ?私の気高く賢い息子に!」
「あー、やっぱり結局はソレですか」
多少予想のついていた事とはいえ、は思わず脱力せずにはいられませんでした。
「そんなに御子息が御心配ならば、別のものを征かせれば済む事でしょう?」
「ソレが出来れば何も思い悩む事はない。しかし、それは不可能なのだ。息子が征くことは揺るがぬ運命なのだよ、。我が息子は、裂け谷のエルロンドの会議にて、恐らく重大な使命を預かる身となるだろう。
そしてそれは、避けられないものなのだよ。誰にも変えられない。例えそれを避けても、いつかはもっと酷く恐ろしい事に姿を変えて息子だけでなく、この地に生きるものに降り注ぐ」
「たまにはマトモなこと言いますね、王。けれどもし、私が御子息の供となろうとも、私ごときではあの方のほんのささやかな盾にもなりませんよ。それこそ、運命は変えられないんですから」
肩を竦め、はいいました。本当に、にはそんな自信がないのですから。
「盾の役目など、私は最初からお前に期待してはいない」
エルフの王は苦笑し、言いました。
「そんな役目なら、他の腕のたつものに命じればいいのだからな」
「じゃぁ、なんだとおっしゃるんですか?言っておきますが、私は賢者のような不可思議な力は扱えませんからね、くれぐれも」
念を押すようには言いました。
は彼女の多くを語らない過去の中で、そんな勘違いをされたが為に面倒に巻き込まれた事が、それも1回では2回ではなく在ったのです。
「その通りだろう、。お前はただ、我が息子と共に征ってくれれば、それで良い。それだけで息子は、随分と心強く思うことだろうから」
「・・・わかりました、王よ。詮索はしない事にしましょう。さて、私は明日に備えてもう寝なくちゃ!御子息は一体どんな顔をなされるでしょうね、私がお供につくと知ったら!」
背伸びをして、はいいました。その顔はもう充分、眠たげです。
スランドゥイル王はその端正な顔に笑みを浮かべ、寝床へ戻ろうとするに声をかけました。
「レゴラス、と呼んで構わんよ、お前達が遊びに出ているときのようにな」
出立の朝、は心の底から感心していました。勿論、悪い意味にです。
何故、こうも息子の前では厳格で理知的な王になれるのか。
エルフ馬をひくレゴラスを見送るスランドゥイルを振り返り、は又一つため息を吐きました。
「?」
「なんでもないよ」
ちょこん、とレゴラスの肩に乗り、は呟くようにいいました。なにもわざわざ、息子に甘すぎる王の実態を明かす必要も無いと思われたのです。
仲良しのレゴラスと一緒に裂け谷まで征くこと自体は、にとって嫌ではないということもあったでしょう。
「が一緒に来てくれるのは嬉しいよ。影横たわるモルドールの恐ろしい噂がこの森にまで届く時世じゃ、随分心強いから」
「心強い・・?」
怪訝そうに、はレゴラスの顔を覗き込みます。
何の役にも立たない自分が傍にいた処で、何が変わるのか、には全くもって分らなかったのです。
それに、昨晩のスランドゥイルの台詞とレゴラスのそれが、似ている事にも気がついたのです。
そんなに、スランドゥイル王の子、レゴラスは微笑みかけました。
「は、わたしと一緒に居てくれるだけでいいからね」
「そういうもの?」
「そういうものだよ」
「ふぅん・・・へんなの」
やっと、は笑みを浮かべました。
春の野、一輪の菫。
麗しき詩を紡ぐエルフの歌い手達によってそうたとえられる、美しい微笑みを。
end.
後書き
わー、ついにやってしまいました、指輪ドリィム。レゴラス夢。
今、私の中でアツいですねー・・・。
しかし、ドリィムと呼んで良いものでしょうかね。これ・・・。
レゴラス、最後にしか出てこないし。レゴラスの父さん、スランドゥイルは只の親バカだし。口調解らないし。
なんといってもタイトルが長い上にそのまんま(滅)!しかも、まだ冒険してないし。
穴だらけですね・・・。
でも、書いててすげぇ楽しかったです。ハイ。