インターネット探訪 2000年11月20日

ブラックバス「害魚論争」

  太公望と環境派が攻防

 若者を中心に人気が高いブラックバス釣り。愛好者は国内で100万人とも言われ、淡水魚を狙う太公望の3人に1人の割合になった。その傍ら、アメリカから75年前に入って来たこの魚を「日本の固有種を食い荒らし、生態系を乱す害魚」として駆除を訴える反対派との確執も、長く続いて来た。バス釣りブームが続く中、インターネット上でも環境への影響に警鐘を鳴らしたり、一方的な駆除に反対したりするページが増え、ホットな<論争>が繰り広げられている。

 

アメリカでは古くからバス釣りトーナメントが盛ん(今年7月、米シカゴで)=「B.A.S.S.」のホームページから

 北米産で肉食性のブラックバスがわが国に初めて登場したのは、1925年の芦ノ湖へのオオクチバス放流。その後、急速に全国に分布した一因は、釣り場を増やそうとする愛好家の不法放流、との意見がある。最近では、冷水域でも活動できるコクチバスの生息域が広がり、淡水魚養殖業者や環境保護論者の心配がますます大きくなっている。

 バス釣り関連のサイトは個人開設のものを中心に激増。「賛成」「反対」の意見を掲げる所も多く、掲示板で議論をぶつけ合うところもある。

 東京でシンポジウムを開いたり、意識調査をしたりし、幅広い視点からブラックバス問題に取り組んでいる市民団体「生物多様性研究会」は、昨年開設したホームページで、バス釣りで一般的に行われるキャッチ&リリース(釣った魚を再び逃すこと)や、ブームの影響で急速に生息域が広がった点など、構造的な問題を指摘。密放流の目撃情報まで募っている。

 同会のブラックバス担当であるフリージャーナリスト、かくまつとむさん(40)は「今はまだ、少ない情報の中でこの問題が議論されている。多くの人にページを見てもらい、考える材料にしてほしい」と、ホームページ開設の意義を語る。

 一方、釣り業者や釣り人の団体である財団法人「日本釣振興会」(東京都中央区)は今年1月、不法放流の禁止などを各支部に通達、業界としての姿勢を明らかにしたことで注目された。

 2月のホームページ開設以降、25万件のアクセスがある同会の公式サイトには、水産庁への要望書や各支部あての公式通達を多数掲載。「全責任が釣り関係者にあるように言われるのは遺憾だ」と主張し、バスを排除すべき水域と釣り場にする水域を区分して、資源として有効活用することなどを提案している。

 

今年6月、新潟県の奥只見湖で行われた新潟、福島県などによるオオクチバス捕獲調査(生物多様性研究会のホームページから)

 会の企画調査役、瀬戸康記さん(68)は「釣り人は水辺の環境について一般の人より関心が高い。若い世代にファンが増えており、自然保護などの教育的効果も考えてほしい」と力を込める。

 生態系への影響は、日本に限った話ではない。隣の韓国の事情を紹介する珍しいページ「韓国ブラックバス情報」を見つけた。韓国にも1970年代に食用としてブラックバスが移入され、急速に各地に広がっており、日本同様、トーナメント形式のプロの釣り大会が開かれている。

 このページの管理者の○○(埼玉県○○市)にメールを送ると、「韓国でも固有種を滅ぼすとの意見が出始め、一部の自治体では駆除を行っているが、バス釣り人口が少ないこともあり、(害魚論は)日本ほどではない」と教えてくれた。

 ブラックバスの古里であるアメリカではどうだろうか。米国最大のバス釣り団体「B・A・S・S」(バス・アングラーズ・スポーツマン・ソサエティー)のサイトを見ると、米国の釣り人口はテニス、ゴルフ愛好者を合わせた数を上回るほど。釣りは一般的な娯楽で、釣り産業は600億ドル市場といわれる。中でも、3000万人のバス釣り愛好者がその中心だ。

 古くからバスが生息する湖などでは、70センチを超える巨大なものがしばしば釣り上がる。全米各地でトーナメント大会が開催され、ワールドレコードには100万ドルの賞金が贈られるなど、日本とは歴史も規模もけた違いだ。

 多くの淡水湖でバスが生態系のトップに君臨しており、日本のような「害魚論」はないようだ。だが、同サイトでは、95年以降、多くの湖でブラックバスが未知のウイルスに感染して死ぬという事態が続き、研究者間で原因や周囲への影響などについて研究が続いている、と紹介。釣り人に対しては、釣り上げたバスを別の場所に放たないように、などと警告している。バス釣り産業が巨大なだけに、問題の深刻さも、日本とは違うことが、よくわかる。

 

(平井 久之)

 

生物多様性研究会
http://www.ne.jp/asahi/iwana-club/smoc/bio-home.html

日本釣振興会
http://www.jsafishing.or.jp

韓国ブラックバス情報
http://www.remus.dti.ne.jp/~s8011/

B.A.S.S.
http://www.bassmaster.com/

 

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