「波乗りジョニー」考


「TSUNAMI」の余波がまだ引く前に、もう一度BIG WAVEに乗るために ジョニーがやってきたのは、夏の蜃気楼さえまだ見えぬ3月だった。 コカ・コーラのCMで流れたその歌に、真夏のタイトル「波乗りジョニー」 という名前が与えられるとは思わなかった。

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波はどこから生まれ どこに消えていくのだろう
そんなことを考え始めたのは まだ僕が恋というモのを知る前だった
あれから幾度かの恋をした
少し大人になった
でも 波の生まれる場所も 消え行く場所も見つけ出せないまま
ぼくはあれから ずっと海に浮かんでいる

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1994年、9月。「孤独の太陽」が発売された。桑田佳祐2度目のソロは アコギで奏でる無骨な曲が印象的で、ファンにとっては、「サザンとソロ」は 明確に区別できるもの、なんて定義も生まれた。 「今回はラブ・ソングは作らなかった。今はそれどころじゃない。レコードという神聖な場所の中では、極論すると生と死というテーマの方が面白くなってきたんだ。」
(1994年『HMV the music master』より) と、「孤独の太陽」発売当時語っていた。

さらに、「音楽として残ってないような気がするんですよね。瞬間風速みたいなセールスはあっても、何ヶ月かしたら跡形も残っていなかったり」(1994年10月1日『毎日新聞』)とも語っている。 6年後の、アトムが生まれる2000年に入り、サザンがおこした「TSUNAMI」が、日本中を飲み込み、人々の心に切っても切り離せない「永遠のBGM」になるとは、このときまだ誰も思っていなかったのではないか。 「波乗りジョニー」は、きっとこうした桑田さんのジレンマや、生と死への執着、 そして時代・世代という動かしがたい事実なんかを、いい意味でふっきった時、 リセットした時、サザンとかソロとかまったく関係なく生まれてきた曲なのではないか。

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3度目の恋が終わったとき、僕はやっぱり海に浮かんでいた
その夏、あの人に出会った。「波乗りジョニー」

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「海をリスペクトしているし、畏怖もしている。海には勝てない。 あれは別格、ここにあるものは幻なんだと半ばあきらめているみたいな…」
(2001年6月『スペースシャワーTV』より)

茅ヶ崎に育てられた桑田さんは、今までも海に対する歌を書いている。 以前、古館伊知郎さんが歌番組にて発言していた言葉で印象的だったもので

「加山雄三さんは、海にいるんですよ。海の上から「君といつまでも」を歌っている。でも桑田さんは、渋谷の青学で海を思いながらシコシコギター弾いている」 イメージあるんだよな。それが同じく湘南サウンドと言われてもまったく異なる二人なんじゃないかな」

と。でも、「波乗りジョニー」って、海にいるのだ。PVにしても、古賀紅太 は海に入っていく。都会のオフィスから、渋谷の青学から(?)海へと。

「海の中にいるっていうのかな、水の中にいるって言うのが、母の胎内だなって 気がしますね。ものすごく癒される」
(2001年6月『スペースシャワーTV』より)

同じ番組内で、「畏怖する海」と「癒される海」というコメント。そしてリスペクトもする。要するに、桑田さんにとって海ってサザンそのものなんだなって感じがした。外から見る海、そして実際入っていく海。両方を制覇した桑田さんは、もう怖いものなしって感じがする。 あとは、水中深くからの海か? 「イエローサブマリン」的な。(笑)

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海は人を男にする。死んだじいさんが言ってた
つかんでもスルリと抜けてしまう波のように ジョニーはいなくなった
波間に僕がいた…  たった一人で

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少し前になるが、「世紀末カルテ」はサザン史上、もっともサザンらしくない曲と言われた(とか?)。要するに、「ソロっぽい」のだ。明確に区別かしないと気がすまなかったファンの間では、?マークが浮かんだに違いない。桑田さんは、この曲をライブでもやり、「音楽寅さん」でもやり、サザンになじませた。 というより、桑田さんが言いたかったのは、 「もうサザンとかソロとかいう枠組みはないんだよ、その時に合った曲、それを やればいいじゃないか」というメッセージソングのような気がしたのだ。 とてもとても意味深い曲のように思えたのだ。

「TSUNAMI」で大海原からやってきたBIG WAVEに飲み込まれておしまい、ではなくて、一人でも果敢にその波に立ち向かっていくジョニー。 サザンだから、ソロだからではなく、映画の伏線みたく繋がっている。

だからファンを止められないのだ。

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波乗りのどこが面白のかって聞かれた。
ジョニーならこう答えるだろう、
「海はいつも、違う顔でいるよ」

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サザンのどこがいいの? って聞かれたら、私はこう答えよう。
「サザンって、いつも違う顔でいるんだよ」

加筆:
1)PV撮影参加させていただきました。桑田さんのファンへ対する愛情というのをまた垣間見させていただき、元気をもらえました。
2)古賀紅太のライブ、横浜、新宿とも(以前の歌舞伎町も)外れてしまいました。シークレットライブがとてつもなく魅力的な分、参加できる人が少ないとなかなか、ストレスが溜まってしまいますね。

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