『彼とチャコ』


…ひとしきり熱い情事が終わり、ベッドにうずくまるのが好きだ。
几帳面な彼はいつものようにきちんとパジャマを着て、早速煙草をふかしている。 ベッドの横のサイドチェストには、事が始まる前に必ず用意されるハイライトとちんけな灰皿が、 それを照らす為だけにあるかのようなルームライトに煌煌と照らされている。 そして、いつも何処かサイドチェストに持たれかかるように、彼の年代モノらしい「チャコ」という名のアコギが置かれているのだ。
もしかしたら、彼女は私たちに嫉妬しているのかもしれないし、あざけ笑っているのかもしれない。 どちらにしろ、その日はいつになく「チャコ」が気になった。
 私はキャミソールだけ付けた上半身を起こし、彼に囁いた。
  「ねぇ、なんか弾いてよ」
彼がギターを弾いているところを見るのはもちろん始めてじゃない。 ただ、ほのかなルームライトに照らされた、情事の後の男のギターが思いのほか私を刺激した。 40を過ぎた男がこうも色気を出せるものかと…。
  そのまま、次のおねだりをしたことは言うまでもない。


 98年「AAA」を見ての感想文を書いたときの文章です。 自分で書いていて東京スポーツのエロ記事コーナーかと思いました。 ただ、「AAA」の桑田佳祐を率直に表現するとこんなんです。つまり、寝る間際の男が女にせがまれて弾いたギター、みたいな…。メチャクチャ色っぽかった。 惚れ直しました。シンプルな中に私の想像力を掻き立てるステージは始めてです。

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