とんちんかん道具館


丸岡 将晃・DIYアドバイザー
カッターナイフ考察

 カッターナイフは、どの家やオフィスにも一本や二本はあるはずだ。

 新聞記事を切り抜いたり、障子や壁紙を張ったりするときに欠かせない「刃先」を使う道具だ。昔、カッターがなかったころ、家庭では紙をまっすぐ切り落とすために、西洋かみそりの両刃を真中から半分に折って使った。薄くて曲がりやすい歯を指先でつまみ、切れなくなると刃の途中をパチッと折ってまた使う。昔の人は、そんな指先の加減というような事を器用にやってのけた。

 実は日本では、これとよく似た工程が印刷工場にもあり、湿った和紙の転写紙を切るときに使った。それを元に1955年、カッターが考案された。その後も刃の形などが改良され、切れなくなったらポキッと折れ、鋭くとがった刃は速やかにしまい込めるという現在のような安全な工具になった。

  カッターの種類は多いが、薄刃で刃の幅が9ミリのものと、厚めで幅18ミリの種類が主。薄刃は普通の紙や障子紙などに、厚刃は段ボールや薄いベニヤ板、ビニールシートなどに向いている。

 「カッターで障子紙を切ったが、よく切れなかった」という質問をよく受ける。刃先は折りましたか、と尋ねると「あれは折るものなのですか?」と問い返されて驚く。切れないと思ったときに刃先を折って、新しくしてまた使うのがカッターの特徴だ。刃の片側に等間隔のすじが入っているので、ここを外側にして折ると飛び散ることがない。板チョコを割るときの要領だ。なお、湿った紙を切るコツは紙と刃の角度を小さくすること。

 私が生涯、そばに置きたいと思っているカッターがある。柄はアルミダイカストと呼ばれる精密なつくりで、ほかの部分はさびにくいステンレスが主。手にしっくりなじむ。しかも柄の中には六枚の替え刃が仕込まれている。この優れものは、海外にみやげとしても持っていく。同好の士は、この日本生まれの道具の機構を見て目を輝かせて喜ぶ。英国の友人に「替え刃がなくなったら送るよ」といったが、何もいってこない。モノを大事にする彼は、まさか、あの刃先を大切に研いで使っているのではあるまいか、と気がかりだ。
 
尚、この記事は「朝日新聞」1999年2月28日付に掲載されたものです。

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