きほんのき


木目を見てしっかりとめる

 たまにしかやらないが、何十年も自己流で間に合わせてきたくぎ打ち。一度「きほん」 を習っておくのも悪くない。前にこの欄で,のこぎりの使い方を取り上げた同僚が 「くぎ打ちも奥が深いよ」と言っていた。日本日曜大工クラブ事務局長の小田部清助 さん(66)に教えてもらおう。
「くぎを打つ」
 事務局を兼ねる小田部さんの作業場の中央には、工作をするのにちょうどよさそうな台があ る。周りの棚などには数え切れないほどの大小の道具類が整理されていて圧倒される。その 中から最初に取り出して台に並べてくれたのが三つの金づち。形は同じでサイズが違う。
「両口げんのうの大と中と小です。一般家庭なら、中と小があればいい。一つで間に合 わせようと思ったら中。その場合は鉄の部分が200グラムから250グラムの間のを選ん でください。重さは柄に表示してあります」
 同じものは我が家にもあり、使っている。だが、小田部さんの説明を聞いて、自己流の欠点 の一つが早速わかった。これまで、鉄の部分の両端はどっちも同じだと思い、全く区別せずに 使っていた。だが、改めてよく見ると、片方は平らだが、もう片方はほんの少し丸みを帯びてい る。
「くぎの打ち始めは平らな方を使い、あとわずかになったら、丸みのある方で打ち込む。 そうすると、板などに金ずちの跡が付きません。なれた人は最初から丸みのある方でも いい」
 そういえば、木に金づちの跡がつき、「見た目は悪いけど、まあ仕方ないか」と思った事が何 度かあったっけ。次いで、様々なくぎを並べて見せてくれた。一般的な丸くぎ、丸くぎより細く、 頭も小さいパネルくぎ、色のついたカラーくぎ、フロアーくぎ……。
「丸くぎが基本ですが、木を押し開くように入っていくので、薄い板などに打ち込むと割れ る恐れがある。そんなときは細いくぎを使う。カラーくぎは化粧合板用、フロアーくぎは抜 けにくくなっていて、床板をとめるのに使います」

 小田部さんが用意してくれた板と丸くぎ、中げんのうで打ってみた。自己流でもうまく打てると きはあるのに、なぜか途中からくぎが傾いてしまった。
「ひじが、わきの下から大きく離れたまま打ったため、げんのうが垂直に振り下ろされて いない。ひじは締め、手首のスナップをきかせ、げんのうがくぎの頭に垂直に当たるよう 打って下さい。姿勢は大事ですよ。」
 注意を守ってもう一回。今度は真っ直ぐ打てたが、打ち始めから打ち終わりまで同じ調子で 打ってしまった。
「もう少しだなと思ったら、丸い方で一回で打ち込む。最後はチョン、チョン、チョンでな く、ピシッと決めないとくぎがあまりききません」

 くぎの長さの目安は、とめる板の厚さの約3倍か4倍が基本。1センチの厚さの板をとめるに は3センチか4センチのくぎが必要というわけだ。3倍と4倍の違いは、相手の木材の木目の 方向による。相手が木端の場合は3倍、木口なら4倍だ。
よく自己流で失敗し、悔しい思いをするのが、板の端にくぎを打たざるを得なくて、板が割れて しまったとき。細いくぎを使うか、きりで穴を開けておく方法もあるが、どちらも手元にない場合 がある。
「板を最初から目的の長さに切らず、長めに切っておいて先にくぎを打ち、後で余分な 板を切ればいいんです」
 言われてみれば簡単な道理だが、知らなかった。
このほか、「応用編」もいくつか教えてもらった。木工用接着剤を併用すれば、短いくぎですむ こと。木目につられてくぎが斜めになってしまうこともあり、その場合はくぎの持ち方に気をつけ たり、きりを使ったり、などの方法があること。あえて真っ直ぐ打たず、たとえば2本のくぎをハ の字、または逆ハの字になるように打てば、抜けにくいこと……。
 確かに、くぎ打ちひとつとっても奥は深そう。定年後の趣味としても面白そうだし、ホームセン ターなどでやっている日曜大工教室に習いに行こうか。

 きほんの極意
 ∇ひじを締め、手首の力で垂直に打つ
 ∇打ち終わりは丸い方でピシッと一回
 ∇くぎの長さは板の厚さの3倍か4倍
 
尚、この記事は「朝日新聞」1999年2月14日付に掲載されたものです。

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