都市政策特論

【第6章】マイカル明石出店による周辺商店街等への影響について


大久保駅北側に広がる大久保商店街・明石駅前の魚の棚商店街・本町商店街などを調査してみたが、いずれの商店街においても、マイカル出店による影響はほとんどない、という声が圧倒的であった。
まず、最も影響を受けたと予想された大久保商店街についてであるが、調査結果は我々にとって意外なものであった。商店街の各店舗へのインタビューにおいてはネガティブな影響があったという意見は非常に少数であった。これは、多くの商店主が語っていたことであるが、既に、ジャスコやイズミヤといった大型スーパーが地域に出店してきているため、それらとの競争が一段落してしまった現在となっては、奪われるべき客は全て奪われ尽くした後であり、今更大型店が一店増えても大して影響がない、ということである。これはすなわち、地域商店街にとっては、既に大型スーパー・ショッピングセンター等との戦いは敗北という形で終了しており、これ以上の負けはないという状態にまで追い込まれているということである。あるいは、現在残っている商店街の店舗のほとんどは、何らかの大型店が対抗できない魅力・条件を持っていると考えることもできる。ただし、大久保駅前のスーパー”トーホー”では、マイカル明石の開店時から、マイカルの営業時間内の来客が激減したそうである。これは、駅前という好立地で営業していた為、自然と集まっていた客が、全て新しく品揃えが豊富なマイカルに奪われた結果と考えられる。これに対して、”トーホー”では、営業時間を従来の夜21時までから夜23時まで延ばし、開店時間も繰り上げるなど、マイカルが営業していない時間に稼ぐという方向へ方針を転換した結果、マイカル開店前の8割程度の売り上げを確保しているそうである。
又、マイカル明石の出店がプラスに働いているという商店主もほとんどいなかった。マイカルの出店した区域を含む大久保駅前南地区の再開発と平行する形で、大久保駅前北地区も駅前再開発事業が進行している状態である為、再開発によって以前の顧客が離れてしまった、という意見は特に駅前の店舗を中心にいくつか聞こえてきた。さらには、大久保駅の北側と南側は全く別の存在であるので南側から客が流れてくることはほとんどない、という意見もいくつか聞かれた。マイカルは周辺地域のみを対象にしたショッピングセンターではなく、かなり大きな商圏を想定しているだけに、むしろ地元の商店街には強い影響を与えなかったという考え方もできるのかもしれない。
次に、明石駅前の商店街においての調査結果とその考察であるが、明石駅前の魚の棚商店街では、「商店街が観光化している部分があり、そのような観光客にプラスして、姫路方面からマイカルに来た客が、魚の棚に足を延ばしてくれるケースは結構多いよ」というような話はいくつか聞こえてきた。が、「客足が鈍った」とか「客を奪われた」といった意見はあまり耳にしなかった。これは、魚の棚商店街が観光型という商店街全体のコンセプトを持っている上、新鮮な地元の魚を供給しているという、大型店には真似のできないはっきりとした特徴を有しているからこその結果であろう。そういう意味では、大久保商店街と同じく、既に大型店との闘いには敗北してしまった後という事ができるかもしれない。それに対して、本町商店街では、「そんな影響とか言うほどの客がいない」という非常にシビアな意見が多かった。現実に、本町商店街は人通りが少なかったのだが、道路による商店街の分断等によって以前から客足が悪化していたそうである。明石駅前において、最も影響を受けたと断言していたのは、映画館関係者である。ダイエーに同居していた映画館の支配人らしき人(詳しくは教えてもらえず)は「マイカル出店後は客足が40%ぐらいは落ち込んでいる、3つの映画館を揃えているけど、7つには勝てないし、いつでも新作がまわってくる訳じゃないから、新作の話題作ばかりを揃えられるワーナーマイカルがうらやましい」と語ってくれた。
以上の各地区の現状から見えてくるのは、既に一部の特徴があり集客力の強い商店街を除いて、多くの商店街は大規模店・大型ショッピングセンター等との競争には敗北してしまっており、今更1つ2つ大型店が周囲に開業しても、致命的なダメージになることはない、という結論である。今現在の大型店の出店ラッシュは、大型店同士の競争であり、地域商業との関連性は薄れている、との見方が出来るのではないだろうか。

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