都市政策特論
【第4章】マイカル明石の出店戦略と現状分析
(1)マイカル明石の地理的環境
マイカル明石のある明石市大久保町ゆりのき通りはJR山陽本線大久保駅前であり、駅から徒歩1分でショッピングゾーンに入れるという位置にあり、又、車で来店する場合にも国道2号線・国道250号線という2つの大規模国道に囲まれた位置にある為、非常に便利な位置にあると言える。
播磨地域を走る鉄道の内、山陽電鉄はマイカル明石から若干離れた位置を走っている為、鉄道での来客はほとんどがJRを利用するものと考えられる。ここで問題点として考えられるものには、JR山陽本線が西明石より西側では各駅停車と新快速電車が15分間隔でそれぞれ走ってはいるものの、最寄りの大久保駅には新快速が停車しない為、JRで利用できる電車が15分に一本しかないという点であろう。15分に一本というのは、それほど不便な訳ではないにしろ、格別便利である、という訳でもない状態である。この状態は、車でのアクセスと比較すると若干不便という感は否めない。
次に、車でのマイカル明石へのアクセスについては、2つの国道に挟まれているという地理的条件から、明石市内南部・神戸市西部・加古川市・高砂市・播磨町などの海沿いの地域からは非常に便利であることがわかる。ただ、西神地域や明石市北部、さらには三木市や小野市などからの来店には、南北の道路の整備状況がそれほど良いとは言えず、若干の不便を感じるものである。又、1997年10月の開店当時に、確定はしていたものの存在はしていなかった要因として、明石海峡大橋の存在が挙げられる。明石海峡大橋の開通によって、淡路島・徳島方面からの車での来店が非常に容易になったことは疑いなく、この点は1998年4月以降の淡路・徳島地方からの来店者の急増という形で実証されている。
マイカルサイドとしては、このような交通至便な位置にある事を積極的に利用して、周辺地域のみを商圏として考えずに、幅広く遠方からも来客が望めるスタイルにする為に、マイカルタウンという形でサティ・ビブレ・ワーナーマイカルシネマズなどを複合的に出店したものと考えられる。
(2)想定されている商圏について
マイカル明石では、店舗の規模の大きさと方向性から、商圏を1次商圏と2次商圏に分けて考えている。
このうち、週1回以上の頻度での来店客を見込む1次商圏に関しては、明石市内・加古川市内・播磨町内・神戸市西部(西区・垂水区等)などを想定しているが、この1次商圏の範囲内のみでも人口は総計で100万人近くとかなり大規模である。
また、月1回程度の来店が予想される2次商圏は、当初は姫路付近・神戸市東部などのおよそ30km圏内を想定していた模様だが、実際には、特に西側で商圏が拡大しており、岡山県東部や鳥取県、また、福崎・寺前といった播州地方北部からの来店者もかなりいる状態である。さらには、(1)でも挙げた、明石海峡大橋の開通後の、淡路島・徳島地方からの来店者の増加もかなり大きいと思われる。
これらの来店者の分析に関しては我々はマイカル明石の駐車場の20人を越える警備員の方へのインタビューとサービスカウンターの店員の方へのインタビュー、来店者への直接のインタビューを行った。上に記した来店者の広がりに関しては、特に駐車場での車のナンバーの観察等も行うことにより、証言の裏付けも行っている。
(3)マイカル明石の出店戦略
交通至便・商圏人口100万人オーバーという、かなり恵まれた条件を活かすために、マイカル明石は、時間消費型ショッピングゾーンというコンセプトの基に出店戦略を練っている。サティというファミリー向けの店舗と、ビブレという若者向けの店舗を同居させる事で、あらゆる客層に対応できる態勢を整えている為、単一のショッピングセンターでありながら複数のショッピングセンターが同居している状態を創り出すことに成功している。さらには、シネマコンプレックスを展開し、ボーリング場などのアミューズメント施設を整備する事によって、梅田や三宮などの超広域商業集積に対抗できる態勢が準備されていると言うことができる。
従来であれば、梅田・三宮といった地域へ出かけて、一日を使ってショッピング・映画鑑賞・食事といったコースをたどる、週末のいわば「お出かけ」をしていた人々に、マイカル明石でその全てを提供することによって、一日滞在してもらおうという、時間消費という概念が出店戦略の根底にあることは間違いない。
さらには、シネマコンプレックスを整備したことによって、梅田や三宮のような超広域商業集積地区まで出かけなければ難しかった見たい映画を選んで見られるという状態を明石において創り出し、さらには、ショッピング・食事もマイカル明石で全て「選択して」行える。それによって、姫路・加古川方面からの人の流れをマイカル明石でせき止めることが初めて可能になったのではないだろうか。
(4)現状分析
マイカル明石は当初、初年度売上高245億円という目標と共に開店しているが、1年と少したった現在では、この目標は過小なものであったと言うことが出来る。実際には、初年度売上高が300億円(注、マイカルタウン全体で)を越えており、当初予想を25%程上回る結果となった。又、来店者数も年間で1500万人を越えており、複合型S・Cの魅力を存分に発揮したのではないかと考えられる。
しかしながら、問題点も数多く存在している。まず、土・日・祝日や夏休み・春休み・冬休みなどの学校の長期休暇中の来店者数と、平日の来店者数にかなりの開きがあるということである。確かに、平日の来店者数も普通の規模のS・Cであればかなりの数になるが、規模が大きすぎるため、やはり平日は閑散としているという印象を拭えない。逆に、土曜や日曜などの休日には、来店者が多すぎて、かなり混雑してしまっている。そのため、4000台収容という大規模な駐車場があるにも関わらず、駐車場に収容しきれなくなり、店舗周辺の道路に駐車場の空き待ちの車が列をつくるということも少なくない。大久保駅前派出所の警察官や駐車場の警備員の話を総合すると、開店当初は特に駐車場待ちの車の列が国道250号線にまで流れ込み、渋滞を引き起こしたことが何度もあったそうである。その後、車の列を駐車場周辺を囲む形で延ばす為の方法等、対策を講じた為、現在では月一度程度の割合で国道250号線まで渋滞の列がのびるにとどまっている様である。又、4000台という駐車場の台数も、1時間から2時間という標準的なショッピングセンターでの買い物時間であれば十分回転するはずが、マイカル明石への来客の場合、特に休日ほど滞在時間が長いため、なかなか駐車場が回転しないという事態も起こっている。この点に関しては、時間消費型というコンセプトを打ち出しておきながら、その考えを駐車場にまで活かしきれていなかったと考えられるのではないだろうか。
鉄道利用の来客も、当初の予想よりは明らかに増加している模様である。大久保駅の一日の利用客数について、大久保駅の駅員からは「土日祝日は倍以上になった」との証言があり、大久保駅北側の商店主からも、「大久保駅のお客さん、増えたよ」という声があがっている。鉄道利用者は神戸方面・姫路方面双方共に同じぐらいの数が利用しているとJRサイドでは分析していたが、マイカルサイドでは当初神戸方面からの鉄道利用に関してはあまり期待していなかった感じもあり、神戸方面からの鉄道利用客に関してはうれしい誤算という事ができるようだ。
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