進級論文
1998年度片寄研究演習T 進級論文
本町センター街への提言
【はじめに】
本町センター街に関わって約1年たった。「センター街は活気が無く寂れている」という話を各方面からよく耳にする。かつて片寄ゼミと本町の商店主がセンター街について語り合った「本町未来塾」でもいかにして活性化するか、という話がかなり大きなウェートを占めていたように感じる。私自身も本町センター街と関わり始めた頃には、「どうやって活性化すればいいか」といったことばかり頭に浮かんだものであるが、最近その根本的な部分にある「本町は商店街として活気が無く寂れている」という固定観念を突き崩して考えてみようと思う機会に何度か恵まれた。そこで、本町センター街について、ニュートラルな立場に立った上で現状を分析して、その上で提言を行ってみたいとおもう。
【第1章】本町センター街の現状について
本町センター街は果たして寂れているのか?この疑問を最初に持ったのは私がリサーチフェアの準備で三田本町界隈を走り回っていた頃である。その頃、本町の道路拡張をリサーチフェアのテーマにしていた私は、本町のコミュニティの成熟度や、学生の通行量の多さなどについて考えていた。そこで気がついた点は、本町センター街は意外と人通りが有るのではないだろうか、という事である。確かに、日中のある時間帯は人通りが完全に途切れる場合もあるにしろ、ほとんど一日、商店街全体に人通りが全くないという状態はほとんどないという事に気がついた。特に2時頃から夕方にかけては、小・中・高校生が下校でかなりの人数で通過する。そしてもう一点、センター街にはシャッターが降りたままになっている店が少ないということである。確かに、近年の住宅街化によって、商店街のそこかしこが住宅化してしまっているが、店舗数カ所を除いて全てシャッターを開けているのである。これは、よく寂れていると言われる商店街とは明らかに違っているのではないだろうか、というのが私の感想である。
さらに考えなければならないことは、本町センター街に対してどのような位置づけをするべきかである。本町センター街が人口10万人の都市の中心的商店街であると考えるならば、確かにセンター街は寂れているだろう。しかしながら、ニュータウンを除外して、旧市街地の人口3万人を対象とした、いわば人口3万人の町の中心商店街として考えたならば、センター街の現状は、決して寂れていないのではないだろうか。まず、我々も含めて、本町に関わる人間は固定観念に囚われずに、視点の転換をしてみるべきではないだろうか。寂れているかどうかについては、第3章でさらに詳しく触れてみたい。
次に現在本町界隈で行われているプロジェクトも確認しておかなければならない。現在本町の拡幅も含めた大規模な道路事業が計画されており、三田駅前からの道路に関しては既に開通目前の状態である。しかしながら、この道路が本町に面したところで途切れてしまい、さらに本町が北行き一方通行のため、現在のところ、この道路の開通によって直ちに大幅な交通量の増加とはならないと思われる。ところが、本町の通りを拡幅して対面2車線にすれば、市街地のバイパスとなることは確実であり、通過交通の激増が起こることは間違いない。このような道路の拡幅計画は、実行しても、三田周辺を走るドライバーには恩恵を与えても、本町にはあまり利益を与えない、否、本町にはコミュニティの破壊や町並みの画一化など、不利益を与えるものでしかないと言うことができる。
商店街のありようについて
商店街は大きくは2つに分けることが出来ると私は考えている。1つは日常生活圏の住民が来客のほとんどを占める近隣型であり、もう1つは生活圏外からの来客が多い広域型である。このうち広域型商店街は、専門性を持った商店の集合体としての商店街であるか、又は観光性を持った観光客の多い商店街のどちらかである。
ここでは、特に近隣型商店街を中心に、商店街のありようについて考えていきたい。商店街は本来的に生い立ちから育ち方、そして現状まで全く違う店舗が自然発生的に集まって形成されたものであり、成り立ちからして決して運命共同体ではないということははっきりしている。この部分は現在でも全く変わっておらず、商店街の各店舗は運命共同体ではなく、それぞれが独立した店舗として存在しているのである。この部分を見落として商店街について議論すると、商店街が寂れる事によって商店街の全商店が困るといった議論が飛び出してしまうが、本来的には、商店街が寂れたところで個別に努力をしている店舗にとってはあまり影響はないのである。
【第3章】本町は本当に寂れているのか?
本町センター街は本当に寂れているのだろうか。この疑問が頭の中を巡るようになってきたのは、98年の12月の事である。リサーチフェアの準備で本町を走り回り、いくつかの商店街を歩いている内に、多くの商店街の活気のなさに失望を覚えると共に、三田本町の商店街と自然と比較してしまい、結構センター街は人通りが多いのではないかと思うようになってきたのである。人口2〜5万ぐらいで、周辺に大都市のない町のメインストリートと思われる商店街の中に、本町センター街よりも人通りの多い商店街などあまり見かけられなかった。そこで気がついた事は、「人口10万人の都市の中心部として考えたならば、本町センター街は確かに寂れているように思えるが、ニュータウンを除いた人口、つまりニュータウン開発以前の3万人という人口の町として見たならば、むしろ活気があるのではないだろうか」というものである。北摂三田ニュータウンは、その構造があまりにもクローズしており、外部、特に旧市街地へのアクセスに関しては他のニュータウンに比しても良いとは言い難い状態であり、三田市という1つの行政圏の中に、旧市街地とニュータウンという別々の街が存在していると考えた方が妥当である。このような状態の中で、ニュータウンから客を呼ぶことはかなり難しい事であるから、ニュータウンからは客は来ないものという前提のもとで、近隣型の商店街として本町センター街を考えたならば、センター街はそれなりに活気のある商店街ではないかと思われる。これは、あくまでも人口3万人の街と仮定した場合であって、10万人の街として考えると、やはり少し寂れている様に見えるのは確かだが・・・。それでも、10万人規模の都市の商店街といえども、駅前通り以外の商店街で本町以上の賑わいを見せているところは少数である。本町センター街は交通の便という点から見ても、一般的に考えればかなり不利な状況にあるはずである。それでも、遠来の客がたまにあり、地域の人達がそれなりに商店街を利用している現状は、それほど悲観するものではないと考えているのだが。
これとは別に、もう一つ考えなければならない問題に、大型店との関係がある。これは、私が以前明石で調査を行ったときの感想であるが、既に大型店と商店街との競争は一部を除いて商店街側の敗北という形で終了しており、今更大型店が1つ2つ増えても、大型店同士の競合が激化するだけで、大半の近隣型商店街には影響はないのではないかと考えている。つまり、現在は商店街にとって、奪われる客は全て奪われ尽くした後であり、今後は「これ以上客を奪われないようにする」といった消極的なことは考えずに、「いかにして大型店から客を奪い返すか」といったことや「いかにして今まで来なかった人達に来てもらうか」といったことを考えるべき時代にさしかかっているのではないかと思う。これ以上の負けはない、という状態まで追い込まれても、何とかなっているからには、反撃の方策はいくらでもあるのではないだろうか。
【第四章】本町センター街が目指す方向性について
本町センター街が目指す方向性にはどのようなものがあるのだろうか。センター街は活性化すべきなのか、それとも現状のままであるべきなのか、或いは住宅化の途を歩むのか、それはセンター街の人達が決めるべき事である。しかしながら、センター街にはどのような可能性があるかを提示することは、本町ラボの責務ではないかと考える。そこで、この章では、本町センター街にはどのような可能性があるのかについて、私なりの考えを提示してみたい。
1.「歩ける街・歩いてみたくなる街」
商店街の魅力の一つに、歩きながらショッピングをしていけるという事がある。その魅力を最大限に活かして、本町を歩きたくなる街にしてみれば、市街地住民だけでなくニュータウン住民もセンター街に呼び込むことが容易になるのではないだろうか。
そこで、どのようにすれば歩きたくなる街になるか考えてみたい。歩きたくなる街にする為には、歩ける街でなければならない。そこで、歩ける街とはどのようなものか、というところから考えていくと、歩ける街とは、要するに、歩行者が安心して歩ける状態、ということになる。これは何も、車両通行止めにして歩行者天国にしてしまう、ということではなく、車が通るとしても、歩行者が安心できる速度(つまり時速10〜15キロの徐行)で運転させれば良いのである。この点において、本町センター街は現状では問題はあまりないと言うことが出来ると思う。何故ならば、本町の通りが昼間は北行き一方通行であり、車の速度もそれほど速くないからである。本町をじっくりと眺めていると、お年寄りが道の真ん中をゆっくり歩いていていも問題が無いように思える。つまり、ある程度安心して歩ける道ができあがっているということである。この点から考えても、道路拡幅は逆効果であると言わざるを得ない。
では、歩いてみたくなる街とはどのような街であろうか。単純に言ってしまえば歩いていてい楽しい街であることは間違いない。では、歩いていて楽しい街とはどのようなものであろうか。ウィンドーショッピングを続けていけることも楽しい街かもしれないし、後でも述べる工房型商店街で工房を見学しながら通りを歩ければそれも楽しい街のように思える。或いは、歴史的建造物が建ち並んだ町並みも歩いていて楽しい、或いは歩いてみたくなる街であることは間違いない。商店街を歩いていたら、店先からお店の人が気軽に声をかけてくれる商店街も、感じ方にもよるが、歩いてみたくなる街に違いない。
2.「魅せる・見せる・感じる」商店街(工房型商店街)
本町センター街には住谷さんを初めとして、職人さんが多く居を構えておられる。これらの職人さんの技術というのは我々一般人にとっては非常に興味のあるものであり、何らかの機会があれば是非一度見てみたいと思っている人も数多くいると思われる。そこで、本町の職人さん達の技術を外部から見えるようにしてしまい(技術を公開するわけではなく、見えるようにする)、訪れた人達に技術を見て感じてもらえるようにするというアイデアが成り立つのではないかと思う。もちろん、既存の職人さんの店や工房だけでなく、新たな工房も誘致すれば、さらに効果は飛躍的に伸びるのではないかと思う。
もちろん、このタイプの商店街は、広域観光型がメインとなるが、同時に、三田市内の人々を対象とすることによって、地域型商店街としても成立するのではないかと考える。その場合には、体験型の商店街といった方向性も生まれてくるのではないかと思う。例えば、小学生が学校の下校時に遊び道具を作ってから帰れるような商店街などがあれば、地域へのさらなる溶け込みが可能になるのではないだろうか。
3.バリアフリー
本町センター街は基本的に平坦な土地に位置している。坂道はほとんどなく、店先の段差意外は、段差もほとんどない。つまり、高齢者にとっては歩くことが苦にならない街であると言える。確かに最近のショッピングセンターなどには、バリアフリー対策を高らかにうたって段差の無い店舗などを実現している店も多い。しかしそれらの店の多くは車がないと行くことが出来ない郊外のロードサイドにある。また、品揃えがお年寄りの好みと離れているケースも多い。
現在の本町センター街の商店には、お年寄りの好む商品を扱っている店は多い。例えば、インテリアのマスタニさんもそうであるし、越後谷さんも衣類関係はお年寄り向けの商品が結構多い。このようなお年寄り向けの商品を扱っている実績と商店街としてのバリアフリーへの取り組みを一体化させれば、大型店では太刀打ちできないような大きな効果をもたらすのではないだろうか。おばあちゃんの原宿ならぬ、おばあちゃんのアメリカ村を目指してみるのも面白いかも知れない。
確かに、バリアフリーを目指して、段差をなくす・車椅子を用意するなどの対策も必要であるとは思うが、同時に、お年寄りが気軽に休める場所や何かあったときにお年寄りを手助けできる態勢というのも必要ではないだろうか。そのような態勢は現在の大手ショッピングセンターには実は整備されておらず、逆に本町センター街には整備されている様に思える。気軽に休める場所も、ベンチを商店街の通りのあちこちに置けば良いのであり、それほどの費用はかからない。何なら、各店舗が自分の家にあるイスを3つずつ晴れている日は外に出して自由に使ってもらうだけで、大きな違いが生まれてくるのではないだろうか。また、商店街のコミュニティを上手く活用すれば、お年寄りの相談に乗りつつ、各店舗が共同して顧客であるお年寄りのフォローをすることも可能である。例えば、1人のおばあちゃんが買い物に来たときに、最初におばあちゃんが来た店の人が次の店まで付き添っていく、そして次の店の人はその次の店まで付き添う、といったことをすれば、それだけで、おばあちゃんの商店街に対する評価は全く違うものになる。或いは、おばあちゃんが、買い物に来たときに、最初の店で依頼をすれば、おばあちゃんが休んでいる間に、依頼された商品を全て取り寄せるといったことも可能である。これは、例えば創人村を起点に、創人村でおじいちゃん・おばあちゃんがコーヒーやお茶を飲んでいる間に、商店街の方で商品を取りそろえる、或いは商品を創人村に持ち込んでおじいちゃん・おばあちゃんにチェックしてもらうことも出来るという態勢であり、それによってお年寄りの負担を軽くする、という事である。
4.情報発信
本町センター街は、今現在外部に対してほとんど情報を発信していない。各個店での新聞チラシ等は多少あるにしても、商店街としての例えば「センター街通信」とか「本町お買い物BOOK」といったものを作成しているという話は全くといっていいほど聞かない。それに、インターネットにホームページを置いて、広くアピールしている、という話もない。本町関連のページとしては本町ラボのページと創人村のページ、それにゆりのき台自治会の中に紹介されている本町の特集、といったところである。それほど費用・労力を要さないホームページ作成など、ラボの学生にどんどん依頼するべきではないだろうか。例えば、ホームページの作成業者に頼めば多少まとまったページで10万円とかしても、ラボの学生に頼めばそれこそ費用込みで1万円とかで作成できるし、学生の中にも、依頼に対応できる能力を持つものは多数いる。「飲み食いさせるかわりに格安でホームページを創れ」ぐらいのことは言っても全く問題は無いはずである。要はそれをセンター街の人々が望むかどうかである。現在のところ、商店街の人達から、そのような声をほとんど聞かないが、ラボも商店街に馴染んできた今こそ、学生を上手く使っていくことも考えるべきではないだろうか。本町からの情報発信にこそ、本町ラボと学生を利用すべきではないだろうか。商店街の人達にとって、我々の最大の利用価値はそこにあるように思えるのだが。
5.住み心地(コミュニティ)
住み心地という点では、現在の本町は非常に良いと言うことが出来るのではないだろうか。コミュニティはある種完成されているようにも思えるし、住宅街として考えたならば、申し分のない場所と言うことが出来ると思う。しかしながら、商店街としてのコミュニティは、過去のストックに頼っている部分と、道路拡張問題で見せたように、何もしないで外部の力に期待する様な部分があり、これらの部分をもっと積極的なものに、変えていく方法を考えなければならないような気がする。
6.問屋型商店街
本町は、かつて江戸時代から昭和40年代あたりまで、三田以北全体の問屋的機能も併せ持った商店街であったように思える。また、現在も文具の大東さんをはじめ、問屋機能を持った店も若干残っている。そこで、この問屋機能を再び強化することによって、センター街を問屋型の商店街にすることも出来るのではないだろうか。
具体的には、卸を兼ねた商店は数店でよく、そのイメージを利用した、普通の商店街とは少し違う商品構成をすれば、全体が問屋の様に見えるのではないかと考えている。ただし、このスタイルを実現するには、倉庫の完備など、多くの難問が存在していることも事実であり、容易に実現出来るものでは無いことも間違いない。
7.アクセス
本町センター街は交通の地の利という点で、ある意味恵まれており、ある意味非常に不利な位置にあると言うことが出来る。確かに、JR三田駅から歩いて10分ほどかかり、道路は一方通行で外部の人が止められる駐車場はあまりないという点から、アクセスが良くない、という言い方は出来る。特にニュータウンから客を呼ぼうとしたとき、普通の商店街としては致命的とさえ言える環境である。しかしながら、同時に、駅から徒歩10分というのは、篠山の商店街などのように歩いて行くことが不可能な距離ではなく、十分に歩いて行ける距離であると私は思う。さらに、幹線道路や国道からもそうは遠くないので、駅前に車を停めて、本町へ歩いて来ることは十分可能であると考えられる。つまり、本町に魅力があれば、行こうと思える程度のアクセスは、本町は十分有していると言うことが出来る。
それでも、本町のアクセスには改善の余地は十分ある。大型のバス(現在の神姫バスなど)を現在の本町の通りに通す事は、安全上非常に問題があると思われるが。しかしながら、武蔵野市で始まり、現在全国に急速に広まっているコミュニティバスを導入して、市街地を循環させるバス路線を新設すれば、ある程度の乗客は見込めるのではないだろうか。この場合、確かにバス会社を新設することは難しいので、神姫バスに運行を依頼し、行政にサポートさせるという方法が最善なのではないかと思う。道路拡幅にかける金額を考えれば、わずかと言える金額で、本町へのアクセスの向上が図れるのではないかと考える。この場合、本町センター街を通っている間は、バスはfree stopとし、手を挙げれば何処でも乗り降り出来る様にすれば、三田駅方面からの乗客を誘致することは可能である。ただし、これは本町に魅力がある店がなければ成立しないものであり、そういう意味では、補助的なものである。商店に、或いは商店街に大きな魅力があれば、人はアクセスなど気にせずにそこを訪れるハズなのだから。
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