自然環境論レポート

自然環境論レポート

<課題2>
 ヒトの進化の歴史は、同時に生産手段の増加の歴史とも言い換えることが可能である。同時に、生産手段の増加はヒトが生態系にたいして与える影響量の増加の歴史でもある。ヒトが自然の生態系に与えた影響と、現在のヒトと生態系との関係について論じてみたい。
 人類は、農耕・牧畜等を開始するまでは食料供給を狩猟・採集に頼る生活を続けてきたと考えられている。この期間、一つの場所にとどまることは少なく、放浪性の生活を余儀なくされており、人類は自然の生態系に対して生産を行うことはほとんどなく、一方的な収奪のみで成立していたと考えられている。そして、これらの放浪性の狩猟・採集生活は、生態系のヒトに対する食料供給にあまり大きな変化を与えなかったであろうと思われる。何故なら、狩猟・採集の技術がいくら向上しようとも、生態系内での生産活動が増加しない限り、供給量が増加することもないからである。しかし、紀元前7000年頃に始まったとされる、「農業革命」と呼ばれる、放浪性の狩猟採集生活から定住性の食糧生産へのヒトの生活パターンの劇的な変化は、ヒトの自然の生態系における位置を大幅に変化させ、さらに、複雑化する契機ともなったように思われる。農耕・牧畜などが始まる以前の、ヒトの自然の生態系における位置づけは消費者としてでしかなかったが、以後は消費者としての立場に加えて、間接的に(栽培する、家畜を飼うなど)生産者としての立場も、ヒトは生態系の中で確立していくのである。その後、人類は確実に農業生産量を増加させ、並行して人口を増加させていく。しかしながら、それらの動きはそれほど急激なものではなく、どちらかといえば緩やかなものであった。その、緩やかな流れを断ち切り、再びヒトの生活パターンを劇的に変化させたのは、18世紀頃にイギリスで始まった「産業革命」である。数多くの機械の登場とともに、化石燃料の使用が激増していくこととなる。この、化石燃料の使用の増加は、同時に自然環境(或いは自然の生態系)に対しても多くの影響を与え、そして変化させていくこととなる。例えば、石炭の大量使用は、大量の煤煙を発生させ、都市や工場付近の空気にたくさんの影響を与えている。又、工場の排水は、川や海に対してそれ以前とまったく違う成分を流入させることとなる。当初は、石炭を中心に始まった化石燃料の使用は、20世紀半ば過ぎから石油へと使用の中心をシフトしていく。1970年代以降、大量の石油の燃焼による二酸化炭素の排出から、地球の温暖化現象を呼び起こしているし、その他にも、産業革命以降急速に発達してきた科学(特に工業分野)は、自然の生態系の中でのヒトの占める位置を大幅に変化・複雑化させている。
 現在の自然の生態系は、少なくともヒトの活動の影響を全く受けない分野など無いと言ってしまってよいほどである。現代社会において、自然の生態系の中でヒトが占める位置はあまりにも複雑になっている。その中で抱えている問題を大きく整理すると、まず、化石燃料の燃焼に始まる影響が地球温暖化へとつながり、そこから気候変動・森林破壊・砂漠化・生態系の破壊による野生生物の減少などとして具体化してくる。また、同じく化石燃料の燃焼から酸性雨が引き起こされ、そこからも森林破壊などにつながっていく。さらに、科学の進歩は多くの化学物質を利用可能としたが、その中には、有用であるが同時に有害である物質も数多く存在し、それらの有害化学物質が海洋汚染や大気汚染を引き起こしている。これらの化学物質の一種であるフロンガスはオゾン層の破壊をおこない、そのことが気候変動一般に影響を与えているのも事実である。このように、現在の自然は人間の活動が多大な影響を与えているが、そこで起こっている問題に対しては個々に対応できるものではなく、互いに関連している問題として、個々の問題の全体の中での位置づけを行い、トータルにものごとを考えていく必要に迫られている。


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