総合コース「アメリカ」

総合コース「アメリカ」ミッドタームレポート

「アメリカ大統領選挙の争点と結果」

 1996年のアメリカ大統領選挙は、実質的に民主党のクリントン候補と共和党のドール候補の2人で争われたといってよい。クリントン陣営が「アメリカは現在、正しい方向に動いている。さらに前進し、この道を続けなければならない。」と4年間の実績を強調する選挙綱領に掲げて選挙を戦ったのに対して、ドール陣営は「アメリカン・ドリームの復活」をうたって選挙を戦っていた。これらの選挙綱領に掲げられたテーマは外側はともかく、内容的には税率などの一部の問題を除けば似たようなテーマとなっていたように感じられる。
 両候補の政策目標のなかで、最も違いが明確であったものの一つに減税の問題がある。ドール陣営が一律15%の減税などを打ち出していたのに対して、クリントン陣営ではむしろ財政均衡問題に焦点を当てており、あまり積極的には減税を打ち出してはいなかった。逆に両候補ともほとんど同じ政策目標をたてていたのが“大きな政府の時代の終結”すなわち一種の行政改革であった。
 今回の大統領選挙において特徴的であったのが、クリントン陣営の選挙戦術であった。クリントン側は、ここ数回の大統領選挙で争点となっていた“経済の建て直し”といった大きなテーマではなく、むしろ細かな問題について数多くの公約を打ち出していた。例えば、犯罪対策では、犯罪抑止法や迫撃戦の禁止を指示したり、青少年の犯罪防止に関連して、学校での征服導入を支持する方向を明記するなどしていたが、結果的にはこの細かな問題の公約が、クリントンの再選に大きく影響を与えたことは間違いない。何故なら、現在のアメリカ人の多くが、アメリカの将来に対する不安よりも、現在の生活に関する身近な悩みの方が問題であったからである。アメリカ人の多くが、実は自分たちの経済面の将来に対して驚くほど楽観的であるからだ。それに対して、ドール側は15%減税以外はクリントンとの大きな政策の違いがあまり打ち出せなかっただけでなく、経済や外交政策を中心にすえて、選挙をたたかっていた。また、今回の選挙ではネガティブキャンペーンが実質的に不発に終わっていたのも特徴的であった。但し、これらのキャンペーンが少なかったわけではなく、有権者がこのようなキャンペーンに新鮮味を感じず嫌気すら感じていたのは、投票率の低さからも伺える。
 それぞれの候補の個別の政策目標や選挙綱領(公約)には相違点もかなりあった。まず、銃規制に関して、クリントン陣営がブレイディ法(銃規制法)の継続を打ち出したのに対して、ドール陣営はブレイディ法を廃止する方向を提示していた。また、安全保障問題では、4年間の実績を強調するクリントン側に対して、ドール側はアメリカ兵の海外派兵は国連の利益ではなくアメリカの国益に沿っておこなうべきだと慎重論を展開していた。クリントン陣営は経済政策に関しては“財政均衡”を大きなテーマとしており個々の政策目標は全てこのテーマに沿って創られていた。その為、財源確保が出来ない減税はおこなわないとしてドール陣営を批判しながら、勤労世帯に対象を絞った減税を掲げていた。また、クリントン陣営はそれまでの「高福祉、高負担」政策からの転換姿勢を鮮明にする一方で、社会福祉・犯罪対策などでは弱者保護に取り組む方針を強調していた。ドール陣営は、妊娠中絶禁止や反差別法制定の推進などを提案しており、外交政策においてはアメリカの利益を他国や国連よりも優先すべきだと主張していた。
 今回の大統領選挙の結果はクリントン候補がドール候補に10ポイント近くの差をつけて勝利したが、クリントン候補の勝因としては、決して完全に支持されているわけではないにしろ4年間の実績が支持されたことと、経済などよりも有権者の身近な問題について多くの公約や提案をおこなったからではないだろうか。また、ドール候補が打ち出した15%の減税を、有権者があまり本気にしなかったのではないかという気がする。但し、クリントンは有権者から完全に支持されたわけではない。なぜなら、大統領選挙と同時におこなわれた議会選挙では、クリントンの属する民主党が敗れ、ドールが属する共和党が勝利しているのだから。


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