コンピューターサイエンス・レポート



「コンピューターによる犯罪的行為から自己をどう防衛するか」


 1990年代に入ってから、世界は急速に情報化社会への途をたどり始めた。さらに、90年代半ばになってからはインターネットの急激な普及という事態も発生し、人類社会は現在進行形でかつて経験したことのない“電子情報ネットワーク社会”へと変化を遂げていると考えられる。この現在の状況は、コンピューター等を使った犯罪的行為が一気に増加していくことと無関係ではないだろう。
 コンピューターを利用する限りは、コンピューターを使った犯罪的行為から無縁でいることは出来ないし、絶対にそのような犯罪的行為の被害に遭わないという保証はない。なぜなら、コンピューターを利用するときには必ずプログラムを必要とするが、もし悪意(あるいは犯罪の意図)を持ったプログラマーが作成したプログラム(ソフト)を使えば、使用した瞬間に、何らかの犯罪の被害に遭う可能性はどんな場合でもある。さらにいえば、自分で全てのプログラムを作成するのでもない限りは、はじめにコンピューターを起動させる段階から、犯罪的行為の被害を受ける可能性があると考えることが出来る。しかしながら、大手ソフトメーカーのOSを搭載している場合が多い一般のパソコンなどでは、そのOSを製作した(あるいは販売する)企業が最初から犯罪的行為を行うつもりでソフトを販売したのでもない限りは、このようなオペレーションシステムのレベルで犯罪的行為の被害に遭う可能性は極めて低い。何故なら、ほとんどのOSは幅広い人に使用されているため、初期のバージョン以外はプログラマーの個人的な犯罪的意図は発見されてしまう可能性が高いからである。但し、OS自体が犯罪行為を行う意図を持って作成されていたとしたら、その場合には、ほぼ対策のたてようがない。それに対して、一般の市販ソフトやフリーウェア・シェアーウェアなどの自分以外の人間が作成したソフトを使用したり、他人のフロッピーを使用する時、それに、コンピューターネットワーク(インターネットに限らない)を利用する時には、コンピューターウイルスの侵入などの犯罪的行為によって、何らかの被害に遭う可能性はかなり高いのではないだろうか。特にBIOS(Basic Input Output System) にウイルスが侵入した場合には個人レベルでの復旧はほとんど不可能と言うしかない。
このような、犯罪的行為から自己を防衛するためには、まず、出来るだけ出所のはっきりしているソフトを使用することである。特に、シェアーウェア・フリーウェアなどは、何らかの事故あるいは犯罪による被害を受けても、現在の日本では法的には泣き寝入りするしかないので、それらのソフトを使用するときには細心の注意を払い、少なくともマイクロソフトのWindowsシリーズを使っている場合には、アンチビールスでチェックをしてから、ソフトを使用するべきであろう。
 近年の急激なネットワークの普及と進歩は、これまでではあまり考えられなかったようなコンピューターを使用した反社会的行為の増加に直接繋がっている。例えば、ネットニュースや電子メールを使用した誹謗中傷やデマ・個人攻撃など、さらには嫌がらせのメールなども頻発している。このような個人攻撃のような反社会的行為は、ネットワーク上という基本的には相手の顔が見えない、あるいは知らない状況が人間の心理の暴走を招きやすくしているようである。このような反社会的行為に対しては現在のところ、ネットワークの使用者の良心(あるいは倫理)に頼らざるをえないのが現状であるが、自己防衛の方法としては、むやみに自分のアドレスを知らない人に教えない(あるいはネットワーク上に自分のアドレスを公表しない)といった方法がある。
 また、ネットワーク技術の進歩によって、ネットワーク上でクレジットカードを使った買い物が可能となってきているが、このクレジットカードのカード番号やパスワードの盗難も、ここ1年ほどの間に、急増している。このような、クレジットカードとネットワークに絡んだ犯罪的行為に対処するには、現在のところはネットワーク上でクレジットカードを使用しないのが一番よいとしか言いようがない。どのようなセキュリティを作成しても、人間が作ったプログラムは他の人間にとって破壊することの出来る可能性がゼロというものはないのだから。
 ネットワーク使用者のIDやパスワードの盗聴(窃盗)も、コンピューターによる犯罪的行為のなかに大きな位置を占めている。特に一時期富士通の“ニフティーサーブ”におけるID・パスワードの盗聴(ハッカーによるハッキング)が週刊誌等に大きくレポートされていたが、IDやパスワードが数字と文字(記号)の組み合わせである現行のシステムは、確率的には必ず正解のIDやパスワードにたどり着けるはずなのである。確かに、パスワードを頻繁に変更することによって、ハッキングの被害を受ける確率を減らすことは出来るだろう。しかしながら、あくまでも確率を減らすことが出来るのであって、絶対に被害を受けないで済む、というわけではないのである。
 今日の情報化社会において、コンピューターによる犯罪的行為からから自己を完全に防衛することは不可能といわざるをえない。しかしながら、幾つかのことを徹底的に気を付けておけば、それらの被害に遭う確立を格段に下げることができるのではないだろうか。不用意な(わかりやすい)パスワードを使用したり、長期間同じパスワードにしたりしなければ、パスワードの盗聴を受ける可能性が大幅に減るだろうし、正体不明のソフトやフロッピーを使用しないようにし、常にウイルスチェックをおこなっていれば、コンピューターウイルスに感染する可能性が格段に減少することは間違いない。現在のところ、コンピューターによる犯罪的行為から自己を防衛する最良の方法は、日常の細かなことに気を付けることである、ということができる。
 

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