朝霧

朝霧

北村薫・著

東京創元社


「空飛ぶ馬」「夜の蝉」「秋の花」「六の宮の姫君」と続いてきた、北村薫の”私”シリーズ(正式なシリーズタイトルがないので、よくこの呼び方が使われている)の最新作。主人公の”私”と周囲の人々の関係が非常に清々しく、うらやましく感じられる作品。推理小説としては、日常の謎を解き明かすタイプの作品としてここ数年では最もヒットしたシリーズだけに、この本でもその期待に違わない味わいを見せてくれる。悪い意味での人の血の匂いが一切無い作品というのは、近年のミステリの世界ではあまり見られなかっただけに、このシリーズを初めて読んだときには、読後の何とも言えない気持ちよさがあったし、今でのあの時の感じは思い出すことが出来るほどのインパクトがあったと思う。それに、この作品を通じて、落語や古典作品についてのちょっとした詳しい話が頭の中を通りすぎるようになった気がする。

もう一つ、”朝霧”を読んでいて、最も感動したセリフ。「本屋ってのはな、『金儲ける』ってことはねえんだよ」。このセリフ、売れ線しかねらわない最近の出版社や書店に聞かせてやりたいなぁ・・・。出版社のあるべき姿についても再考させられた気がする。
(1999年1月30日作成)

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