3. 血液型性格判断ってまじめに研究されているの?

 血液型性格判断にかんする研究、といえば、「A型とB型は相性が合うのか?」とか、「もっとも人づきあいの上手なのは何型か?」なんて研究を想像されるかもしれません。しかし、社会心理学では、むしろ、「どうして血液型性格判断は信じられるのだろう?」とか、「どうしたら、関係がないことを分からせることができるか?」というような研究が主流です。


 心理学からの血液型性格判断に対するアプローチは、おおまかに分けて以下のようになると私は考えています)。


1. 統計学的検討

 血液型と性格の関連を統計学的に検証するものとしては、以下の論文があげられます。

●松井豊 1991 血液型による性格の相違に関する統計的検討 立川短大紀要, 24, 51-54.

 この論文で松井は、統計学的な視点から、従来の「血液型性格学」擁護論・批判論をデータの代表性(用いられてきたデータは日本人母集団から偏りなくサンプリングされたものではない)と結果の交差妥当性(測定で得られたデータが、他の標本にも妥当するということ)から、ともに批判しています。
 そこで松井は、13歳以上59歳までの日本に在住する人から無作為抽出されたデータを解析し、また同一の測定指標を用いた複数の結果を比較し、結果の一貫性を調べました。対象データは、JNNデータバンクの調査結果、4年度分、のべ10,000名です。分析された「性格・人柄」にかんする24項目は、こちら をごらんください。 松井は、この研究の結果として、以下のように書いています。

 性格に関する24項目への肯定率は,各年度とも3〜4項目がABO式血液型別に有意な差を示していた。しかし,1項目を除いて,これらの項目の差は他の年度ではみられなかった。4年度で共通して差の見られた1項目も,最高の肯定率を示す回答者の血液型が年度によって異なるという,一貫性を欠いた結果になっていた。

 ただし、「4年度で共通して差の見られた1項目」について、A型とその他の型との間には一貫した差が有意で見られます。これは、「物事にこだわらない」という項目で、これはA型がもっとも少なく、その他の血液型とは有意な差がありました。しかし、この項目の関連はわずかであり、他の23項目には有意差が見られないことから考えても、ここから「血液型と性格には関係がある」とは言えないでしょう。注目すべきは、「わずかに1項目に差があった!」ことではなく、「ほかの23項目には差が見られず、また、わずかに差の見られた1項目も関連は低かった」ということです。「血液型と性格には関係がある」という信念を持っている人は、「心理学者のデータで有意差が見られたのだから、やはり血液型と性格には関係がある」と安易に結論しがちですが、自分の都合のいいところだけを抜き出して主張するのはよくないことです。さらに、(注4)として、

 本報告の論点からは離れるが,今回のデータ処理を行いながら,我々研究者が日常行っている検定について,反省を感じることが多かった。我々の研究結果の中にも,標本の代表性を無視したデータや,一貫性(再現性・交差妥当性)のない「有意差」を示す結果が,多く含まれているのではないだろうか(橘 敏明,1986)。
 方法上の手抜きから,我々自身が新たな「社会的神話」を作らないようにと,自戒したい。

 と書いているのは、興味深いところです。


2. ステレオタイプとしての血液型性格判断

 一定の文化様式のもとで形成された既成観念で、事象を知覚したり判断したりするときに行われる紋切り型の見方のことを「ステレオタイプ」(stereotype)といいます。たとえば、「日本人は清潔だ」「イタリア人は陽気だ」「公務員は堅苦しい」「女性は受け身だ」などというのもステレオタイプです。ステレオタイプの中には何らかの根拠に基づくものと、全く根拠のないものがあります。血液型により性格が異なるという俗説は、後者に入ると思われます。
 ステレオタイプとして血液型と性格を扱った論文には、以下のものがあります。

●詫摩武俊・松井豊 1985 血液型ステレオタイプについて 人文学報, 172, 15-30.

 被験者:東京都・神奈川県の公立・私立大学に所属する613名の学生(男 346名、女 215名)

回答者の血液型の分布(%)
  N A型 B型 AB型 O型
回答者 613 36.7 22.5 11.1 29.7
日本人の平均 38.1 21.8 9.4 30.7

 被験者の血液型は、日本人の平均(能見正比古『血液型エッセンス』による)と比べて、分布の適合度の検定結果は有意でない。

 この論文で目的とされたのは(1)〜(3)の3点。

(1)血液型と性格の関連を調べる
 「血液型別にみた血液型予想質問」は こちら をご覧ください。
血液型予想質問に対し、自分があてはまると回答した比率を調べた結果、2項目に差が見られたが、それらは『血液型エッセンス』にみられる能見正比古の記述とは全く異なる方向でした。また、EPPS(エドワード個人選好検査)と矢田部ギルフォード性格検査(成人版)より作成した性格尺度得点(掲載は省略)のうち、有意だったのは「追従要求」だけで(最高 O型、最低 A型)、その差も僅かでした。

(2)血液型ステレオタイプの内容と機能を調べる
 血液型と性格に関係があると考えている人の血液型別性格イメージは、「A型性格」以外は、はっきりとしたものは出ませんでした。「血液型別の性格があるという信念のみが先行している」と結論されています。つまり、「何型のひとはこういう性格」というはっきりとしたイメージは、みられなかったということです。ただし、この研究は今から10年以上前になされたものであることに注意する必要があります。今なら、もっと明確なABO式血液型別ステレオタイプが形成されていると考えられます。とくにB型とAB型に対するマイナスイメージは、現在、はっきりと現れています(データはそのうち掲載します)。
被験者の内、血液型によって性格が「非常に異なる」「かなり異なる」と答えた人(=ステレオタイプ群)は48%であり、有意に女性が多くなっています。
さらに、被験者を、ステレオタイプを持つ人と持たない人とに分けて分析すると、血液型ステレオタイプを持つ人(=血液型によって性格が異なると信じている人)は、気分のムラが大きく、人づきあいが好きで、人と一緒にいたがり、また権威者に従いやすい、という結果が出ました。
 このような結果から、血液型ステレオタイプは、人づきあいの話題として、あるいは、何か確実なもの(権威)に寄り添って複雑な思考判断を避けるための道具として用いられていると言うことができます。

(3)血液型ステレオタイプと他の現象への信念の関連を調べる
 神秘的な現象への信じやすさと、血液型ステレオタイプの信じやすさには、どのような関係があるのでしょうか? この研究では、血液型ステレオタイプは、占い類と近い位置にあることが分かりました。つまり、血液型ステレオタイプを持っている人は、占いにも興味を示す傾向があります。神秘現象として他には、迷信、神、仏、たたり、心霊、ネッシー、超能力、UFOなどが分析対象となりましたが、血液型は、星占いや手相と近い存在のようです。

●上瀬・松井 1996 血液型ステレオタイプ変容の形 ――ステレオタイプ変容モデルの検証―― 社会心理学研究, 11, 3, 170-179.

 この研究では血液型ステレオタイプの内容を否定する内容の講義を受けた女子学生(第1時点から第3時点全てに回答した104名を対象とした)に対して講義前、講義後、講義3ヶ月後の3時点の質問紙調査を行っています。結果を簡単に紹介すると、講義によって有意に態度変容を生じたのは「信念強度」「自己理解」「感情」の3因子で、行動側面では有意な変容がみられませんでした。「娯楽・関係促進」は講義後の尺度得点が講義前よりも高くなった者が半数近く(49%)に達していました。講義で血液型ステレオタイプの問題点を指摘されても、「娯楽・関係促進」機能の価値を高めることでステレオタイプを維持しようとする傾向が示唆されます。
 また、講義の血液型ステレオタイプ否定情報を限定されたものであるとしてステレオタイプを維持する「サブタイプ」因子が抽出され(「講義で否定されたのは血液型性格判断の一部である」などの項目を含む)、講義前の「行動調整」尺度得点の高かったものはサブタイプを形成しやすいことが明らかになり、「信念強度」と「自己理解」はサブタイプが形成された場合、態度変容しにくいこと、特に「信念強度」は講義後に低減した得点が講義3ヶ月後に再び増加していたことなどが分かり、サブタイプのステレオタイプ維持機能が明らかになりました。
 この研究は、講義によって血液型ステレオタイプを比較的長期にわたって(3ヶ月)低減させることができることを示したという点で非常に重要なものであると思います。行動側面では態度変容が生じなかったこと、サブタイプを形成する人には比較的講義の効果が低かったことなどが、今後の課題となるでしょう。


3. 心理学史からみた血液型性格判断

戦前の教育学者古川竹二から始まって、作家能見正比古による古川学説の世俗的復活、多くの心理学者の反論と、俗説的流行(占い)など……

(準備中……しばらくお待ちください)


 その他、生物学からのアプローチもあります。たとえば、脳は血液型物質を認識できないこと、ABO式は「血液型」分類の1つの形にすぎない(ほかにたくさんの分類の仕方があるのに、どうして「ABO式」と性格とを結びつけるのか、論拠が不明瞭)こと、などの問題が提出されています。


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