8/February/1997 Leeds放浪記

朝の受難
 午前6時、目覚ましが鳴る。土曜日なのになぜ、そうだ、今日はLeedsへ行くことにしていたのだ。この間5分。とにかく眠いので風呂に入る。「Leedsまで£20!」というGNER(Great North East Railway、British Railの列車運行会社一つ)の宣伝文句に負け、またせっかくだからと言って£32出してFirst Classの座席指定を取ってしまった私、Leedsなんて何も見るものはないということなどわかっていたのだが、ただ列車に乗り、あてもなくふらふらと放浪する「旅」が好きなので、勢いで決めてしまった。それにしても今日は眠い。土曜はやはりゆっくり寝ていたいものだ。
 7時にやっと家を出発。Paddingtonの駅へ向かう。最近は7時には薄明るくなってきた。春が少しづつ近づいている。駅にはいるとすぐにCircle Lineの列車が入ってきた。今日は幸先がいい。Circle Lineの線路には、いろいろな線の地下鉄が乗り入れているので、希望の電車がこないこともしばしば。だから今日はうれしい。電車に飛び乗り、目的のIC(InterCity)の出るKings Crossの駅へ向かう。ICの発車時刻は8時10分。7時20分には駅に着いてしまい、かなり余裕ができてしまった。まだ発番線も発表になっていない。とりあえず朝食を、ということで駅の中のカフェテリアへ向かう。
 前に一度使ったことがあるので、何があるかはわかっていたが、朝食となると少々メニューが違う。メインのコーナーには"English Breakfast"がでんと構えていた。デニッシュペストリーも気になったが、「しょっぱいもの」が食べたかったので"English Breakfast"にする。"Pea or Mushroom?”と聞かれ、豆は嫌いなのでマッシュルームだけもらうことにした。ドリンクコーナーで朝の定番"Caffe Latte"を注文、会計へ。「£6.04」。えっ、えーーっ。そんなにするか!。しかしそれは正しかった。"English Breakfast"は£3.99、Caffe Latteは£1.20、そしてMushroomが75p。「やられた」。思わず呟いた。朝食に1,200円なんて、新幹線の食堂車並みである。はんだやなら4回いける。そのうえこの"English Breakfast"、ただせさえ「しょうがない」と言って食べるのに、ここのは救いようがないほどまずかった。あっ、発番線が発表された。気を取り直し、とりあえず買ったものは全て食べ、2番線へ向かう

列車の中
 目的の列車はもうホームに入っていた。イギリスのICは、白、グレーオレンジで彩られている(一部路線を除く)。扉はまだ手動のものも走っているようだが、今日のは自動ドア。まだ一部ドアしか開いておらず、隣の車両から入り、指定された座席へと向かう。First Classは2-1の座席配置なので、非常にゆったりとしており、各座席に大きなテーブルが着いている。リクライニングはしないが、ヘッドレストが付いており、座り心地も上々。とにかく眠いので、"EAST 17"のCDを聴きながら眠ることにする。
 ふと目が覚めた。外では、霜が降りた寒々とした風景が流れている。いつのまにか発車していたようだ。ふとテーブルの上を見ると、手に持っていたはずの切符がある。「あれ、落としたのを誰か拾ってくれたのかな」なんて思って見てみると、車掌の検札印が押してある。寝ている私を起こさずに、車掌が気を使ってくれたのだろう。配慮に感謝。しかしそれにしても眠い。また寝ることにした。
 どれだけの時が過ぎたのだろう。外には単調な田園風景が広がっていた。イギリスはどこへ行ってもこんな感じだ。春先は菜の花が咲いてきれいだが、この時期はただ殺風景なだけである。周りを見ると、通路を挟んで向かいの席にいるフランス人とおぼしき(フランス語で話していた)夫婦が、コーヒーを飲んでいた。「そうだ、First Classはコーヒーがもらえるんだ!」気付いたときは遅かった。コーヒーは私の夢枕の横をかすめていたのであった。そうこうしていると、列車はGrantham駅に停車。その時、件のフランス人が荷物をまとめ始めた。「ずいぶん気が早いな。」、そう思っていたら、女性の方が席を立ち、出口へ向かった「もしかしてここで降りる気か?」そのとおりだった。もう列車は止まっているのに、男性の方はゆっくりと身支度し、残ったコーヒーを飲む余裕をもって出口へと向かった。列車が発車した時点で、私もトイレに行きたくなり、席を立った。
。  さすがFirst Class!トイレが広くてきれい。今まで乗ったSecond Classの惨状を思い出しながらトイレを出、席に戻ると、列車は快調に北への旅路を走っていた。するとさっきのフランス人が戻ってきた。「やっぱり降りられなかったか」。そうである。コーヒーなんか飲む余裕があるならもう少し早く準備しろ!。車掌が来て何やら話していた様で、結局次のNewarkで降りたようだ。
 さてさて、列車は快調に走り、大きな街が見えてきたなと思えば、Leedsの手前の"Wakefield Westgate(目覚め処西門?)"であった。大規模なショッピングセンターが目に止まる。その先、丘を越えると、右手に大きな街が見えてきた。Leedsである。列車は定刻通り(めずらしい)にLeedsに到着した。

Leedsというところ
Leeds City Councilはイングランドの北東部、West Yorkshire County Councilの中心都市であり、人口は70万強。イギリス第2の都市Birminghamでも人口100万人を切るイギリスでは、かなり規模の大きい都市といえる。中心産業は工業。最近沈滞気味。これで何となくイメージが湧く。
 駅に着き、とりあえず駅の中にある「i(Information Centre)」に行く。イギリスではだいたいどこの町でも「i」があり、たいていの観光情報が集まる。「こんな町に観光情報があるのか」という予想通り、「i」は、バス・電車の時刻表コーナーが中心で、観光スポットとしてあったのは"Wherf"くらいである。これじゃなあということで、地図(£1.50)を買い、ひとまず外へ出る。結構人が出ている。駅の中の床屋は大繁盛。路上にも買い物客がいる。その間にいたのが「Big Issue!」と叫ぶ人。これは、ホームレス対策に発行された雑誌"Big Issue"(60p)を売る人である。ロンドンでも発売日の火曜日にはかなりの人が出ているが、土曜日だというのに結構頑張っている。ホコ天のある通りまで行くと、またいた「Big Issue」が。それも複数。「この町はそんなにホームレスの問題があるのか!。」そう思うほどの数である。ロンドンでもこんなにまとめて見ることはない。

どういう町だ

ここまでくるとこっちもびっくりする。そうこう歩いていくと、今度はホコ天に露天商が出ていた。いかにも「贋作、著作権無視」といった風のポスターが路上にずらり。これはロンドンでもよくある。しかしその向こうでは、テーブルの上にライターを置いて売っているオヤジ、それも安物としか言えない物を。その向かいでも、何かガラクタを売っている人がいる。何の変哲もないホコ天でである。
インチキくせー

私の大好きな光景である。実にインチキである。そのくせ周りの店はロンドンにあるものと同じで、建物の色が明るい分ロンドンよりきれいなのである。その時私の頭に浮かんできたのは、「川崎のチネチッタ周辺」、うーん、味がある。

Leedsのマーケット
 気を取り直し、先へ進む。この先の、Kirkgate Marketへ向かう。古めかしい建物の中へはいると、そこは人人人……。お店が雑多に建ち並んでいた。とりあえず一周ということで奥へ向かうと、すぐ右のかばん屋のおばさんに目がいった。ヘアースタイルが"塩沢とき"!である。初めてこんな髪型の人を見た。どうやって作るんじゃこんなの。先へ進むと電気屋。£50のミニコンポ、£10の目覚まし時計。どれも埃をかぶっている。名古屋の大須アメ横を彷彿させる。その先、鶏肉屋が軒を連ねる。どこまで行っても鶏肉とベーコンだけ。そして建物が変わり、日用品や青果、お菓子など異業種乱立のマーケットへ続いた。周りではフィッシュアンドチップスの酢の香りが漂う。それこそ上野のアメ横のLeeds版である。そこをぐるぐる歩いていると、外にもマーケットがあることを発見、出てみることにする。するとそこには、中にも負けず劣らずのマーケットがあった。£20の皮(バッタでしょう)コート、£10の靴、フロッピーにワープロ打ちのラベルが張って有るゲームソフト(バッタやなー)、写真のくすんだミュージックテープ。どれもかしこもインチキ臭い。そしてマーケットの中央には子供用の遊具が。メリーゴーランドのような仕掛けで、バス、車などの乗り物がついており、ぐるぐる回るものであり、子供が喜んで乗っている。「40pとは安いな」と思ってよく見ると、

手動式

であった。係員のオヤジが手で回し、勢いがなくなるとまた回しと、手動でやっていたのだ。
インチキくせー。公園ならタダだぜ。

実に安っぽい。
 疲れてきたので、隣にある「National Express Coach Station」へ行く。Coachとはイギリスでは長距離バスのことを指す。ロンドンのビクトリアコーチステーションを中心に、National Expressがバス網を張り巡らせており、ここはLeedsの発着所である。また、この町ではCoach Stationとバスターミナルが同じビルに入っており、非常に便利である。私は待合室へ入り、ベンチで休憩。ふと前を見るとドリンクの自動販売機が目に入る。何の変哲もないネスカフェの自販機だが、そのメニューの中に"Beef Soup""Cream Soup"の名前が。「40pか」。意味のない考察の後、私の手は勝手に財布から£1硬貨を出し、"Beef Soup"を買っていた。味は……この手のものにしてはまあまあ、結構いける。
 またマーケットへ戻る。すると£10で腕時計が売られていた。「そういえば時計を忘れて来たんだった。まあ、安いから予備用として買っとくか。」そう思ったが、財布の中には£3しかない!こんな所じゃカードも使えない。そうだ、銀行だ!ということで、一旦マーケットを出、近くにあったMidland Bankでお金をおろす。しきり直しで、またマーケットへ入り、屋内マーケットの回っていなかったところを歩く。青果や服類の充実が目立つ。途中の八百屋できれいなお姉さんに目がいく。どうも私は「グレーのだぶだぶのセーターが似合いそうな女性」には弱い。
 もとい、時計だ時計。屋内で時計を売っているところで、昔懐かしい「電卓付き時計」が売られていた。こんなもん買う奴がまだいるのだろうか。結局最初に時計を見た店まで行ってしまった。そこにはかなりインチキ臭い時計がずらり。けど「動けばいい」と言う程度の話なので、気にせず見ていると店のオヤジが来て、「12カ月保証だぞ。」と言う。別に壊れても電車賃の方が高いので、来ることもないだろうが、まあ、話の種にと、曜日、日が針表示で月齢の出る、結構インチキ臭い時計を買うことにする。「毎週土曜日にやってるから、何かあったらこの領収書を持って来て」と、オヤジは最後まで親切だった。
 時計も手に入り、またマーケット内を歩く。途中、この時計の日表示がおかしいのに気付き、直そうとするも、針が動かない。おやっ。そういえば、よく見ると月齢表示だと思っていたところは、ただの絵であることに気付く。
インチキだー。バッタもんや

しかし、「曜日表示あり」とか「月齢表示有り」などという表示はなかったし、よく見ればわかったこと。まあ、インチキ臭いものの好きな私は、これも思い出と、使うことにする。
 さあて、もう少し歩いてみますか。マーケットを出、City Centreの方へ向かってみると、GAMEの文字が。ただのゲームソフトショップだったが入ってみる。そうすると、反対側にも出口が…。そこはショッピングセンターの中だった。"Food Court"の文字があったので、昼飯にしよう。エスカレーターを上り、途中Lilly White(スポーツ用品店)を発見。そこで£50のUMBROのジャージがなんと£20.99で売られていた。「買いだ」。即決だった。なぜ旅先でこんなものを買うのか。わからないが買ってしまうのがオレ流である。お買い物後、件のFood Courtへ。こういうところにはたいがいChineseがあるのだが…あった。一応全部見てみるが、他はジャッケトポテト、ハンバーガー、フィッシュアンドチップスとありきたりのものばかり。やはり中華にしよう。ということで、メニューを見る。料理はライスか焼きそばが付いて£3.40(Main Course)、コーヒーとスープもつけると£3.85(Special)。「安い」。結局そこに並ぶ。Cantonese Style Porkが美味しそうなので、注文すると"How many portion?"と訊いてきた。「一人だから1や!}と思いながら"One portion please."と答えると、焼きそばで注文したのにごはんできた。まあいいかと思い、結局それを食べる。けどこれが怪我の功名。御飯は卵炒飯で、料理と味が良く合い美味しい。スープもまあまあ、これで£3.85なら上々である。
 食事後は、下の階のHMVに寄り(ロンドンで行けロンドンで!)、CDを物色。前々から欲しかった"Whitney Houston"の"STEP BY STEP"のシングルと、なぜか今頃とも言えるが、Madonnaの"the IMMACULATE COLLECTION(BEST)"を買う。ショッピングセンターを出ると、また先ほどの"インチキ臭いホコ天"である。ぐるぐる歩いているうち、大通りに出た。そうすると向こうに丸い建物が見える。"Market"のたれ幕も。行こう。決めたらすぐに行動である。その建物は"Corn Exhange"というもので、昔は市のトウモロコシ取引所であったようだ。なかは今風の店がずらり。若者が多い。カフェなどもあり雰囲気は上々。しかし私には向かないのですぐに出る。
 さあ、どうしようか。そういえば駅の裏手にGranary Wharf Marketというのがあったな。そこへ行ってみるか。ということで、一路駅方面へ。煉瓦づくりの駅のガード下を歩いていると、標識が。貨物の通路みたいな所だったが、人が歩いているので行ってみる。するとそこには……今まで見たこともないような光景があった。確かにマーケットなのだが、店が少ない。また、なぜかインド系の仏像や木彫りの置物を売る店が何軒かある。人の数も少ない。それよりもなによりも、ここは煉瓦づくりの線路下のトンネルなのである。
インチキくせー

呆れてしまった。何もないことがわかり、もう外に出ることにした。

Leedsの床屋
 うぅ、帰りの列車までまだ時間がある。どうしよう。そうだ、髪の毛が伸びてるから床屋へ行こう。ということで、朝駅で確認した床屋へ行く。しかし、なんと14時30分だというのに閉まっている。ガビーン。とりあえず駅の中に行くが、もう一軒床屋があるわけじゃない。と、そこでゲームコーナーが目に入った。イギリスのゲームセンターは2種類にわかれ、いわゆる日本のゲーセンのように、テレビゲームや体感ゲームがあるところと、複雑なルールのスロットマシーンが並ぶのとがあり、これは後者である。このタイプのゲーセンでは、お金を入れてスロットを回し、当たれば"現金"が出てくる。最高賞金は£10と抑えられているが、やはり賭博天国である。ここで私は£15もスってしまった。思い出したくもないので詳細は割愛させていただく。
 そうそう床屋床屋、ということで、またインチキホコ天を通り、マーケットへ。マーケットの床屋は、安いが混んでいた。1軒は外へ面していたが、1軒は地下の男子トイレの隣!。どうゆう配置だ。そこはあきらめ、外を歩く。すると、そこにはすいてそうな床屋があるではないか。料金表はないけど、これなら£10以下でやってくれるだろう。ええい、と入ると、そこには「グレーのだぶだぶのセーターを着て、かつよく似合っている」おネエさんがおり、席に誘導してくれた。何か素人風。アルバイトというより、隣で接客しているオッサンの娘という感じである。私は「No2. please」と告げ、思い切り短く切ってもらうことにする。するそのおネエさんはバリカンを両手で持ち、じゃかじゃかと私の髪を刈っていく。「おいおい、この人プロか?」と思いながらも、この状態で帰るわけにもいかない。身を任せ刈ってもらう。途中、バリカンが髪の毛に引っかかる。"Sorry"とおネエさんは謝り、マシン油のようなものをバリカンにつけていた。後ろ髪が終わると、今度は前髪。「この位か」とおネエさんは私の髪に手をあてて訊いてきたが、もう少し短くして欲しかったので"A little shorter.(もう少し短く)"というつもりが、"A little short.(チョットだけ切って下さい)"と行ってしまい、"It's too short!(これでもかなり短いですよ)"と切り返されてしまった。こういうとき、私は言葉より身振りが先に出た。髪の位置を手で示すと、納得してくれた。前髪が終わると、今度は顔剃り、と言っても顔は剃らない。首筋を剃刀で剃るのだが、ここでは石鹸をつけない。ロンドンでは水をつけるところもあったが、やはり石鹸は使わないようである。その後、ドライヤーで切った髪を吹き飛ばし、ブラシで服の上をはくと終わり。「そうだ、"Shampoo & Cut"って言い忘れた。」今さらいうのも何なので、そのまま出ることにする。£7也。15分で仕上がった。

Leedsの仕上げ
 さあ、もう見所はない。うろうろするだけである。途中Leeds Bridgeという標識を見つけたので行ってみたがただの橋。おもしろくもない。結局またマーケットやインチキホコ天を物色し、歩き回った。結構足が痛い。1時間前に駅に到着。コーヒーでも飲んで休もうかと思ったが、やはりゲーセンに目がいく。結局被害額が倍になった。くそー、あのMonopolyスロット!肝心なときに税金払えって出るのがインチキ臭い。まあ、熱くなってしょうがないので、本屋で雑誌を物色し、列車へ向かう。帰りも同じ号車座席なのでわかりやすい。今度こそはコーヒー飲むぞと心に決め、待っていると係員がやってきた。"Tea or Coffee?"そうか、紅茶もいいな。でもコーヒーも……。"Coffee Please."答えてしまった。列車が発車すると、コーヒーを持ってきてくれた。プラスティックの使い捨てカップが安っぽい。一口飲む。

インスタントだ!

そういえばSecond Classで車販がきたときもインスタントの奴を売っていたのを思い出した。やられた。後の祭りである。紅茶ならまだまともだったかも知れない。まあ、そんなことを思いながら私は結局眠っていた。London Kings Crossには7分延着。BRにしてはまあまあ。無事ロンドンに戻ってくることができた。

教訓
 途中の駅で降りるときは、駅名を確認しましょう。
 インチキ臭いマーケットでは、期待をしないこと
 ゲーセンのスロットでは"熱くならない"こと
 First Classのドリンクサービスは紅茶を選ぼう


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