2000.10.22
ねこねこソフトというソフトメーカーが出したビジュアルノベル。
このメーカーははっきり言ってドマイナーで、ぼくもこの「銀色」を遊ぶまで、その存在すら知りませんでした。
それくらい小さなソフトです。
しかし!
知名度こそ海抜零メートル地帯ですが、完成度は静止衛星の地球周回軌道にも達するかと思われるほどの高さ。
このゲームは全四章に分かれており、一章から順に話を進めていくのですが、とにかくシナリオが非常に良い。
ぼくはまだ三章までしか遊んでいないのですが、一章・二章・三章とも胸を打つシナリオでした。
一章は、峠で野盗をして生きる男と、色街から逃亡した女のストーリー。
二章ではドジでおっちょこちょいだけど前向きに頑張る巫女の話。
そして三章は二人きりで洋食店を営んでいる姉妹の物語。
各章とも、設定を聞くだけでだいたいのシナリオの流れは予想できると思います。
ええ、概ねその通りのシナリオです。
基本的にどんでん返しもありません。
しかし、この王道のシナリオの描き方・構成が非常にうまく、たとえ先が読めるシナリオであっても、それでもグイグイ引き込まれていきます。
願いを何でも叶えるという銀の糸の伝承を中心に、悲劇という言葉を絵に描いたような物語が続きます。
三章までは悲しいだけの物語でしたが、これが四章にどう繋がるのか…プレイが今から楽しみです。
このゲーム、システム的には大したことありません。
一応シナリオの所々で選択肢はあるもののどちらを選んでも展開はほとんど変わりませんし、「次の選択肢まで進む」機能も、Leafやkeyの高性能なそれとは比べものにならない遅さ。
だから、一本道のシナリオを見ていくだけのゲームと言い切ってしまうこともできるのですが、とにかくこのシナリオが非常に素晴らしい。
BGMも質が高く、実に効果的に使われており、シナリオへの感情移入を助けてくれる。
CGも若干のクセこそあるものの幻想的で儚い雰囲気を持った美しい物ばかりで、シナリオによく似合っています。
なんだかべた褒めしていますが、とにかくそれくらいに出来がよい。
ぼくの個人的感想としては、AIRに匹敵する大名作です。
ところで。
ぼくはついさっき三章を遊び終えたばかりなのですが、とにかく三章は痛かった。
重い話ばかりの銀色の中でも三章は特に辛いと聞いてはいたのですが、まさかここまで辛いとは思わなかった。
それに関して熱く熱く語りたくてたまらないので、ここに書きます。
当然ネタバレ。
三章、何が痛いって、夕奈さんが痛すぎた。
中盤以降の夕奈さんを見ているのが非常に辛かった。
夕奈さんは本当はとても優しい人なのに、信じていた人に裏切られ続けて、とうとう誰も信じられなくなってしまった。
夕奈さんが朝奈を責めるシーンが続きますが、これらのシーンで誰よりも辛かったのは夕奈さんでしょう。
朝奈をせめることでしか自分を維持できない、それをやめたら夕奈さんはもう自分を繋ぎ止めておくことができないところまできてしまっている。
夕奈さんは必死に助けを求めているのに、それに朝奈も主人公も気づかない。
シナリオ的にも夕奈さんは悪役に描かれていますが、本当は違う。
両親を失って以来何年も苦労して努力して、たった一人の妹も大事に守って育ててきて、そうしてやっとそれが報われると思ったのに、今まで信じていた妹に裏切られて奪われてしまう。
そして最後に主人公の軍刀に刺され、
「私が生きていると、二人が不幸になるけど…私が死ねば、不幸になるのは私だけですむから…」
と息絶える。
あまりにも不幸で幸薄い人生です。
三章の登場人物で、誰よりも幸せになる権利があったのは、朝奈でも主人公でもなく、夕奈さんだったのに。
夕奈さんが気の毒すぎる。
この人はただ、少しだけ頼れて甘えられて、心から信じられる人が欲しかっただけなのに。
…これから四章をプレイしますが、朝奈はともかく、夕奈さんに関しては多分救済されることはないでしょう。
ああっ、納得できない。
…SSでも書いてやろーか。
2000.10.24
四章遊んでオールクリアしました。
………。
「もはや語るまい」。
ガトーの名ゼリフの一つですが、これ以外にこの作品に対して言える言葉をぼくは知りません。
何を言おうと無粋な水差しにしかならない。
このゲームを遊んで、自分で見て聞いて感じて、そしてこの最高の感動を味わって欲しい。
このゲーム、確かにプレイヤーを選ぶ部分はあります。
二章・三章あたりはプレイしていて本気で辛くなります。
しかし、それでも最後まで遊べば、
「ああ、このゲームをプレイして良かった」
「よかったねよかったね」
と思えます。
この系統の、いわゆる「泣きゲー」が好きであるならば、ぜっっっっっっっっっっっっっっったいに楽しめます。
古今東西ありとあらゆる褒め言葉がこの「銀色」には似合います。
2000年に発売されたパソゲーの中で、「AIR」に太刀打ちできるソフトがあるとするならば、それはこの「銀色」をのぞいて他にありません。
さらに言うなら、「痕」や「アトラク=ナクア」をもある意味で越えていますし、総合的に見ても甲乙つけがたい。
大袈裟だとか贔屓目だとか言う前に、とにかく遊んで下さい。
「銀色」の良さは、ぼくのエロゲーマーとしてのプライドにかけて保証します。
そんなもん信じられるか、という方は、ゲーム系サーチエンジンで「銀色」を探してみて下さい。
プレイした人はみんな異口同音に絶賛していますから。
さて。
他に類を見ないほど素晴らしいこの「銀色」ですが、はっきり言って知名度は低いです。
発売からもう二ヶ月近く経つけれど、エロゲ雑誌で特集を組まれたこともなければネットでもほとんど話題にならない。
一部に超コアなファンがいるだけで(ぼくもその一人)、売れ行きもトントンか多少の黒字程度。
どうしてこんなにも知られていないのか少し考えてみたんですが、わかってみたら単純なことでした。
銀色の発売日は、2000年8月31日。
AIRの発売日が2000年9月8日。
そしてDC版Kanonの発売日が2000年9月15日。
もともと話題性も何もない銀色が、2000年のエロゲー最大の話題作の一週間前に発売されてしまったわけです。
あまりにも発売時期が悪すぎる。
せめて一ヶ月ずらせばまだ良かったのに…ってゆーか、もし最初からこの日に銀色を出すつもりだったのなら、悪いのはAIRを発売延期したkeyの方なんですが。
とにかく銀色はAIRの一週間前に、大多数のユーザーが一週間後に思いを馳せている中でひっそりと発売され、ごく一部のユーザー以外には目もくれられずに埋もれていったわけです。
ぼくもその見過ごしていた一人です。
もし星野さんがプレイして日記に書いてくれなかったら、多分遊ぶことは無かった。
そう思うとゾッとします。
ぼくはこのゲームを遊んで良かったと心から思っているのですが、もし銀色に気づいていなかったなら、
「銀色を遊ばないことがどれほど不幸なことなのか」
という事さえ気づかぬまま生きていったでしょうから。
…なんだか信者じみた褒め称え方ですが、本当にそれくらい、いやぼくの拙い文章から想像できる物の数万倍良いです。
絶対的に数の少ない銀色のファンの一人として、「銀色」を買って「銀色」に惚れたファンが一人でも増えることを願ってます。
……言っときますが、ぼくはねこねこソフトの回し者でもなければ電波系入ってる偏執的狭愛者でもありませんからね。 |