弟切草〜蘇生編〜/PS
 
 
2000.1.12
 
 現在のノベルタイプのゲームソフトのみならず、シナリオの見せ方や演出など、様々なジャンルに係わる
あらゆる基本を作ったSFCソフトの金字塔「弟切草」。
 そのリメイクです。
 リメイクにあたり、シナリオの加筆修正が行われたり、背景CGが一新されたり色々されていますが、
基本的にはSFC版そのまま。
 BGMやSE等の音響関係にかなり力が入ってはいますが、ウリは「奈美」編が追加されたことくらいで、
その他はまるで同じ。
 なので、シナリオはともかく、システム的にかなりダメダメ。
 まず今時メッセージスキップがない。
「街」もメッセージスキップはありませんが、あっちは時刻指定やしおりシステムなどで十分対処できて
いるのに比べ、こっちはそんな気の利いたシステムは皆無。
 セーブ方式もシステムファイルではなく、「やるドラ」のシステム。
 だから選択肢潰しをしていく事が出来ず、いちいち最初からやり直さなければならない。
 さらに、SFC版の最大の欠陥とも言えるシナリオの整合性の無さが全く直されていない。
 弟切草はシナリオが何種類もあって、それは非常に良いことなのですが、そのシナリオがポンポン飛ぶ。
 最初Aというシナリオを進めていたはずが、いきなりBのシナリオの描写になって、さらにCのシナリオに入ったりする。
 そしてラストがBのエンディング、という風に。
「おいおい、さっきと言ってる事が違うじゃないか!」って事が平気であります。
 これらの欠点は、SFC版でもそのままあった事です。
 しかし、SFC版はまだ許せます。
 1992年…今から8年も前のソフトですし、全く新しいジャンルに属するソフトでしたから、これくらいの粗は見過ごせる範囲内ですし、
シナリオもそうできるくらい惹きつけられるパワーがありました。
 しかし、今はもう違います。
 LVNSに代表されるように、ノベルタイプの傑作はいくらでもあるのです。
 また、ノベルタイプでこそないものの、KanonやONEなどシナリオが良いゲームに限ればさらに枠は広がります。
 弟切草のシナリオの良さは今も色褪せませんが、せっかく7年後にリメイクするのだから、せめてシステムを整える
くらいはやって欲しかった。
 
 
 あと、ぼくの個人的な感想。
 ぼくは「怪魚」シナリオが一番好きなんですが、このシナリオの手直しで一箇所もの凄く気に入らない場所があります。
 そこを以下に書きます(当然ネタバレ。怪魚シナリオを終えてから読んで下さい)
 
 ぼくはこのシナリオでも、特に好きなのが、主人公の「誰も悪くない。」の独白から始まる一ページなんですが。
 ここ、SFC版では
 
「誰も悪くない。
 事故を起こし、それを気に病んだ母。
 動けない身体で魚になりたいと願った弟。
 その弟を元に戻してやろうとした姉。
 誰も悪くはない…。
 誰も悪くはないのに、何かが狂ったのだ。」
 
だったのが、PS版では

「誰も悪くない。
 事故を起こし、それを気に病んだ母。
 動けない身体で魚になりたいと願った弟。
 その弟を元に戻してやろうとした姉。」
 
となっていて、この後すぐに奈美の
 
「私だけが何もしてない!」と次につながってます。
 
 なんで、最後の
 
「誰も悪くはないのに、何かが狂ったのだ。」
 
の一文を削ったんだぁぁぁぁ!!
 ぼくはこの一文がすごく好きだし、この一家の悲劇を象徴する素晴らしい一文じゃないですか!!
 そう思いませんか、ねぇ?
 
 
2000.1.14
 
 少し書き忘れた事があったので、書き足します。
 上で批判的な事ばかり言いましたが、それでもやっぱりシナリオは良いです。
 音楽のアレンジも上手い。
 月並みですが、SFC版を未プレイなんだったら是非プレイすることをお勧めします。
「サウンドノベルの原点」を知っておいて損はありませんから。
 でもSFC版をやり込んだのであれば、ぼくのよーに「弟切草」によほど思い入れでもない限り、買う必要はないですね。
 システムや大まかなシナリオが全く同じですから。
 
 まぁ、こんな事を言いながらも、ぼくはまだこのソフトで遊んでます。
「弟切草」というゲームの雰囲気や文体が大好きなんです。
 そもそもぼくの一人称が「僕」や「俺」ではなくて「ぼく」なのも、SFC版弟切草とかまいたちの夜の影響ですから。