My Merry Maybe/PlayStation2
 
2003.11.30
 
 本作は、『My Merry May』(以下前作と表記)の直接的な続編です。
 
 当然制作はKID。
 
 本作は前作の設定を更に発展させたものとなっており、前作のメインヒロイン・レゥが
 
今作でもメインヒロインとなっています。
 
 物語は、辺鄙な海辺の町『清天町』に教育実習生としてやってきた主人公が、身元不明
 
のレプリス・レゥと出会うところから始まるわけですが。
 
 前作は前作できちんと話がまとまっており、レゥのその後も描かれているので、続編を
 
作る余地は見つけにくい。
 
 
・なぜレゥがたった一人で清天町にやってきたのか?
・身元不明というが、前作の主人公・恭介はどうしたのか?
・そもそも、前作のどのエンディングの後の話なのか?
 
 
等々、前作をコンプリートしていれば、初期設定を聞いただけでこれらの疑問が浮かび、
 
すぐにでもプレイしたくなるのです。
 
 この自然の摂理に従い、ぼくは前作コンプリート直後に本作を始めました。
 
 総計30時間強で本作もコンプリートしたのですが、ものすんごく面白かった。
 
 食い入るようにプレイして、『まだ終わらせたくない、もっともっとこのゲームで遊ん
 
でいたい』と思わせられたのは久しぶり。
 
 よく出来ていた前作をあらゆる面で上回っており、”正しい続編の作り方”の見本のよ
 
うなデキ。
 
 2003年を代表する一本と言っても良いくらいに、激しく面白い。
 
 号泣するような『泣きゲー』ではないけれど、プレイ後に何かが確実に心に残る名作。
 
 以下、もう少し詳しく書いていきます。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 最初にシステムについて触れておきます。
 
 基本部分はお馴染みのKIDフォーマットですが、この部分にも改良が加えられており、
 
システムレスポンスが大幅に向上しています。
 
 平たく言えば、全体的に動作が軽くなったってこと。
 
 このおかげで、システムに煩わされることなく、シナリオに没入することができます。
 
 これだけでもしっかり作りこまれてると分かりますが、本作の凄さはまだまだこんなも
 
んじゃあない。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 ADVのキモであるシナリオ・演出。
 
 これが大変に良く出来ている。
 
 今回も、やはりヒロイン間で比重の違いはあるのですが、比重の軽いキャラでも決して
 
おざなりにはなっていないし、重いキャラに関しては言うに及ばず。
 
 また、前作の特徴の一つに『明暗をはっきり書き分ける』という事が挙げられましたが、
 
それに関しても強化されました。
 
 ハッピーエンドが希望に満ち溢れていて、バッドエンドには全く救いが無いのは無論の
 
こと、シナリオ途中の展開に於いても、明るいシーンは底抜けに明るく、悲惨なエピソー
 
ドはとことん悲惨に描いています。
 
 さらに演出についても、ボーカル曲を上手く使ったり、CVを効果的に活かす演出が盛
 
り込まれています。
 
 例えば、画面表記上では
 
 
レゥ「……………」
 
 
なのに、CVで囁くように何か言っている、等。
 
 他に、CGのクセが取れていたり、冗長になりがちだったテキストが洗練されたのも大
 
きい。
 
 そして最後に、シナリオの内容ですが。
 
 これはもう、何を書いてもネタバレになりそうなので、何も言いません。
 
 全編に張り巡らされた不可解な謎が、少しずつ解けてくる過程を存分に楽しんでいただ
 
きたい。
 
 一部の伏線を完全に消化しきれていない(裏設定があるのかもしれないけど、ちゃんと
 
描いてくれないとユーザーにはわからない)のは否定できませんが、『冷酷なハッピーエ
 
ンド』は衝撃的でした。
 
 この驚くべき真相を知ったとき、誰もが怒り、悲しみ、嘆き、やりきれない思いを抱く
 
に違いありません。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 以上。
 
 べた褒めしているだけに見えるかもしれませんが、実際それくらい出来が良いのです。
 
 全ての謎に対し明快な回答が提示されないという点において、『Ever17』最終シナリオ
 
のカタルシスには劣りますが、それ以外においてはEver17に匹敵します。
 
 細部まで練り込まれた大名作であるのですが、惜しむらくはプレイヤーが限定されるこ
 
と。
 
 再三書いてきたとおり、前作の内容を知っているプレイヤーでなければ、半分も楽しむ
 
ことができないのです。
 
 完全にユーザーを絞って作られているので、対象となるごく一部のプレイヤーなら寝食
 
を惜しむくらいハマれるのですが、それ以外の大多数にとっては無視されてしまいます。
 
 かく言うぼく自身、つい一ヶ月前までは手を出してませんでしたから。
 
 そのため、本作は洒落にならないくらい売れてないらしい………。
 
 今回も話はまとまってますが、続編を出す余地もありそうなので、絶対出して欲しいの
 
ですが………もっともっと売れてくれないと難しい………。
 
 そーゆーわけで、お願いです、前作とあわせて買って遊んでください。
 
 ウチのサイトに来るよーな人なら、絶対に楽しめるはずなので。
 
 
 
 
 
 
 なお追記として、本作でもエンディングフラグ制御があります。
 
 ヒロイン六人中、玉村穂乃香シナリオは、他五人のハッピーエンドを見ていなければ入
 
ることができず、穂乃香Aエンドを見ることで、最終シナリオに入ることができるように
 
なります。
 
 キャラ設定を見れば分かりますが、穂乃香はどっちかといえば脇役ヒロイン的扱いを受
 
けそうなヒロイン。
 
 レゥやリースがエンディング制御されるならともかく、なぜ穂乃香なのか。
 
 そして最終シナリオは誰のためのシナリオなのか。
 
 全てを見終えた時、パッケージにさえも伏線が隠されていたことに気付くでしょう。
 
 さぁ、気になりませんか?
 
 少しでも気になったなら、前作とあわせて即購入を。
 
 決して損はさせません。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 ネタバレ余談、未消化の伏線。
 
 パッと思いつくだけでも、
 
・廃船の事故の真相は?
・廃船の事故で炎に包まれていたレゥはどうやって助かった?
・『ライカ』のマスターだった笠置はどうしたのか?
・恭介の死因は?
・みさおとレゥ04は恭介の死後どうしたのか?
・レゥ01と03の間にいたはずのPmfh-00002は?
 
と、これくらいあります。
 
 この辺纏めるだけで続編を作れそうな気がする…。
 
 
 
 
 
 
 
 
 ネタバレ余談その弐。
 
 リースが実に良いキャラだった。
 
 前作のリースシナリオはほとんどバッドエンドに近かったけど、今回は見事にメインヒ

ロインの一人に昇格。
 
 なんたって、Cエンドまであるのはリースとライカだけですからねえ。
 
 リースシナリオ中盤、
 
リース「でも………」
リース「……………」(CVで「あなたはいつも………」)
 
でやられました。
 
 ここまでやられたらもうリースに転ぶしかない。
 
 終盤のバカップルっぷりはこっちが恥ずかしくなるくらいだし、Bエンドのやり切れな
 
い終わり方もいい。
 
 前作を『レゥのための物語』とするなら、本作は間違いなく『レゥとリースのための物
 
語』ですね。