月は東に日は西に -Operation Sanctuary-/Playstation2
 
2005.03.21
 
 本作は、AugastがPCで2003年に出した同名エロゲのPS2移植版です。
 
 タイトルが全く同じということで、PSの頃はエロゲの同名移植なんて許されなかったの
 
に最近はソニーチェックも寛容になったのだなぁ、とか感慨に耽りたくなりますが、それ
 
はさておき。
 
 前作のPrincess Holidaysがそこそこ気に入ったこともあって、本作もPC版発売直後に
 
買っていたのですが、それで満足して自室のエロゲ収納棚へと一直線。
 
 いつかやろういつかやろうと思いつつも実際に顧みることはないまま月日は流れ2005年
 
3月。
 
 前月発売されたPS2版家族計画で久しぶりに脳内スイッチがエロゲモードに切り替わり、
 
さぁて家族計画終わったし久しぶりにエロゲやるかぁ、と積んでるゲームを見回し、前々
 
から頭の片隅にあった本作に白羽の矢が立ったというわけです。
 
 このように甚だ失礼な動機でプレイを始めたわけですが、実際やりこんでみるとこれが
 
なかなか面白い。
 
 PS2版では新キャラ・新エンディングが追加されたとの情報も得たため、PC版クリア直
 
後にPS2版購入、一気にコンプリートまで遊んでしまいました。
 
 さらに今現在も、頻繁に起動して好きなシナリオを再プレイしています。
 
 正直言ってこんなにはまるとは思ってませんでした。
 
 やるじゃねーかオーガスト。
 
 以下その話を書いていくわけですが、先述のとおりPS2版はPC版+αなので、まずはPC版
 
で全体の雑感を書き、その後、PS2版の追加点・改良点について書こうと思います。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 ではPC版についてですが。
 
 本作のシナリオ構成は、中核となる一つの真実があり、各ヒロインのシナリオでそれに
 
ついて別方面から描いていく、という形になっています。
 
 真実の内容や解決方法はどのシナリオでもほとんど同じですが、アプローチの仕方が違
 
うので、決して同じ展開にはなりません。
 
 むしろ、
 
「このキャラではこういう見せ方なのか。じゃあ別のキャラではどうなんだろう?」
 
と興味がわいてくる。
 
 全キャラクリアすることで全体像が見えるわけではなく、特にかかわりが深いキャラの
 
シナリオを見るだけで全体像が分かってしまうのはちと惜しいところですが、それでも十
 
分面白いと言えるレベル。
 
 また全キャラクリアすることで、おまけシナリオが5本見られるようになりますが、こ
 
れまた面白い。
 
 クリアー後のおまけとしてバッチリ楽しませてくれます。
 
 そういうわけで、シナリオ面では高得点。
 
 音楽も地味ながら場面に合う曲をきちんと選曲してあるし、平均以上。
 
 ただしシステムが不安定なのがいただけない。
 
 何の変哲も無いADV32フォーマットのくせに、メッセージスキップが驚くほど遅い。
 
 マウスクリック連打の倍速程度で、イマドキのPCエロゲ最低ランクすらクリアできてい
 
ない。
 
 いくらADVの本質はシナリオにあるとは言っても、整えておくべきラインってモンはあ
 
るでしょう、と苦言を呈したくなる。
 
 そのシナリオについても、真実についてきちんと描ききれていない部分が多々あり、ど
 
うにも腑に落ちない印象が残ります。
 
 たとえばマルバスについても、乙種が体液感染であるという一点しかわからないため、
 
感染力の弱いウィルスなんじゃねーの? こんなウィルスでなんで世界が滅ぶの? と思っ
 
てしまいます。
 
 というわけで、総合すれば中の上ってところ。
 
 実際の話、PC版だけなら、
 
「そこそこ面白かったな。見るべきところもあるけどダメなとこもあるし、まぁこんなも
 
んか」
 
で終わるゲームだったりします。
 
 PS2版を買う気になったのは、単に新エンディングと新キャラのシナリオのアプローチ
 
の仕方が見たかったから。
 
 人、それをはまっているという! とは思いつつも、
 
家族計画などのように世紀の大名作であるとは思っていなかったのですよ。
 
 あくまでもそれなりのモノだと思っておりました。
 
 しかし、PS2版をやってその感想が一変したわけなのです。
 
 
 
 
 
 
 さてPS2版ですが、言うまでも無くエロシーンは全てカット。
 
 エロシーン前提のテキストが何箇所かあるので、その部分でやや違和感が残るも、PS2版
 
家族計画ほどの違和感はありません。
 
 家族計画はエロシーンがシナリオの根幹に係わっているのに対し、本作はあくまでも途
 
中経過のワンシーンに過ぎないからですね。
 
 既存キャラのシナリオはほぼそのまま移植され、新キャラ二人追加&メインヒロイン天
 
ヶ崎美琴のアナザーエンディングが追加。
 
 この三シナリオの見せ方が気になって、PS2版を買った様なものなのですが。
 
 想像以上に良い出来でした。
 
 というか、この三シナリオを見たからこそ、本作に惚れたも同然。
 
 まず新キャラのうち、文緒ルートは、真実の本当の真相が全て明らかになるシナリオ。
 
 それまで曖昧だった部分を描き直し、さらに密かに張ってあった伏線を集結・解消して
 
います。
 
 さらにヒロイン・文緒も、PC版でいかにもヒロイン風に登場しながらヒロインではなかっ
 
たキャラであり、かなーり萌える。
 
 一方の柚香シナリオは、真実と全くノータッチのシナリオ。
 
 その代わりに全ヒロインが展開に係わり、最終的に皆に祝福されてのハッピーエンド。
 
 皆仲良く笑って大団円を絵に描いたような微笑ましい展開。
 
 そして最後、美琴のアナザーエンドは、今まで何となく誤魔化していた部分に正面から
 
挑み、見事に描ききった力作。
 
 スタッフがこのゲームを通じて何を言いたかったのか、はっきり分かるメッセージが込
 
められています。
 
 美琴アナザールートは全キャラのハッピーエンドを見なければ開きませんが、それも納
 
得のいく内容。
 
 そしてPC版にあったおまけシナリオも、エロシナリオが一本削られた代わり新たに六本
 
追加。
 
 これだけでも破格のボリュームアップなのに、さらにシステムが大幅に洗練されました。
 
 PC版のSEが酔っ払って作ったようなヘタレプログラムから一転、高品質ハイクオリティ
 
で使いやすいシステムへと大変貌。
 
 もうね、半分別のゲームになってると思っていいくらいの超強化。
 
 ストレスの無いシステムで気持ちよくプレイ出来、読後感爽やかにゲームを終えること
 
ができます。
 
 やればできるじゃないかAugust………というより、
 
少なくとも文緒シナリオ・美琴アナザーシナリオはPC版にも盛り込んでなきゃだめだろ、
 
ここまで見ないとこの物語は完結しないだろう!!
 
というわけで、むしろパーフェクトはにはにとでも呼ぶべき存在がPS2版。
 
 足なんか飾りです偉い人にはそれがわからんのです理論が通用しない80%の完成度のはに
 
はにがPC版ですね。
 
 
 
 
 
 
 以上、PC版・PS2版通して遊んでこの世界観に惚れこんだ1ファンとしての感想でした。
 
 前述のとおり、PC版よりPS2版の方が圧倒的に良い出来なので、
 
エロシーンが見たい! 見たい! 見たくて見たくてたまらない!!
 
なんて人以外はPS2版買うのがよろしいでしょう。
 
 買って遊ぶだけの価値はあるゲームです。
 
 Augustの新作が楽しみになって参りました。
 
 
 
 
 
  
 余談位地。
 
 本作はライターが三人いるようですが、ライター毎の力量の差が激しい。
 
 大したことない場面は大したことないテキストなのですが、見せ場のテキストはすごく
 
イイ。
 
 個人的には茉理シナリオのテキストが一番好き。
 
 文章毎に韻を踏んだり、似通った意味の文章を表現を変えて繰り返したり、と、僕が好
 
きなテキストの書き方です。
 
 シナリオ自体も、元気だった茉理が少しずつ弱っていく様子、渋沢家から茉理がいなく
 
なった喪失感、茉理を気遣い絶望を食い止めようとする直樹、そんな二人を温かく見守る
 
両親、と、とにかく泣かせ要素満開。
 
 久しぶりにマジ泣きしましたよ。
 
 ラストでどうして元気になったのかがいまいち不透明ですが(フォステリアナは遅効性
 
のはず)、意味もなくSAD ENDにされるよりはずっといいね。
 
 マルバスや100年後の世界への関与は最も低いけど、ひたすらに健気な茉理と、どこま
 
でも優しい直樹の心温まる物語でした。
 
 
 
 
 
 
 余談尼。
 
 美琴アナザーエンドはリルルヒロインルートと呼んでもいいと思う。
 
 
 
 
 
 
 余談賛。
 
 PC版はにはに発売直後の某エロゲ雑誌ではにはにドラマCDというのがついていたのがあり
 
まして、なんとなくぼくはそれを買っておいたのです。
 
 んでずーっと棚に並んでたんですが、はにはにコンプリート記念で一年越しのCDを聞い
 
てみました。
 
 感想は、所詮おまけCDなんてこんなもんか、というレベルでした。
 
 
 
 
 
 
 余談氏。
 
 本作は誤字・脱字に気をつけているらしく、かなり少なめ。
 
 しょっちゅう見かける『職権乱用』が、ちゃんと『職権濫用』になっていたのは大変よ
 
ろしい。
 
 でも、『一生懸命』が一箇所だけ『一所懸命』になっていたのがよろしくなかった。
 
 これ、語源は『一所懸命』の方で、中世の武士が命を懸けて守るべき所領を『一所懸命
 
の地』と呼んだのが始まりで、それが『いっしょけんめい』→『いっしょうけんめい』に
 
変化したものです。
 
 しかし『一生懸命』も現代日本語として定着しているので、どちらを使っても誤りでは
 
ないのですが、だからといって二つの表現をごちゃ混ぜに使うのは激しくエレガントさに
 
欠ける。
 
 どちらか一つの表現に絞るべきでしょう。
 
 しかし我ながらこーゆーどうでもいい国語知識にばかり突っ込んでいるナァ。