ティータイム14
ZOOM UP WOMAN

色褪せない情熱を
押し花に閉じこめて。

リポーター:東京ガスエネルギー 多羅尚代さん


 4年前、ブライダル雑誌を読んでいて、ふと目にとまった押し花ブーケの掲載記事。その色彩の鮮やかさ、美しさに魅せられて、結婚直後から押し花をはじめたという鈴木さん。現在ではインストラクターの資格を取得し、9月に自宅で押し花教室をオープンしたばかりです。新米インストラクター・鈴木さんの押し花への思いや本音に迫ってみました。

好きなように創るだけ、あとはお花が助けてくれる。

 押し花はどこにあるのかしら……。鈴木さんのお宅にお伺いして、四方を見渡しました。いくつかの美しく写実的な『花の絵』がリビングに飾ってありましたが、まさかそれが押し花でできているなんて想像できなかったのです。
平面であるにもかかわらず、そこには色彩豊かで奥行きのある世界が広がっていました。
 「押し花にリアリティがあるのは、咲いている時と同じ色が表現できているからでしょう。着色はしていません。天然の色合いをそのまま維持しています」
 鈴木さんが押し花を学んだ『ふしぎな花倶楽部』という団体では、花びらに着色することなく、ナチュラルな色を活かすのが流派です。しかし、これだけの鮮やかな色を維持するためには、かなりの技法が必要なのではないでしょうか。
 「手間はかかりますね。素材はお花だけでなく、野菜や果物も材料として使うのですが、素材によって押し方が違うんです。
たとえば『横向きのバラ』を押すとしたら、厚みでそのまま押すことはできないので、バラを縦割りにして押しています。蘭は水分の抜けが悪いので、花びらの裏側に細かい傷をつけてから押します。そのほかにも熱湯でさっと茹でたり、アイロンを使ったりと、素材によって押すための処理が必要なんです。でも、こうした基本の処理さえ覚えてしまえば、難しいことはありませんよ。誰にでも楽しめるのが押し花の良さですから」
 私にもできるかな。鈴木さんのお話に勇気づけられて、そんなことを考えました。
でも、鈴木さんの作品を前に冷静に考えてみると、構図を考えることもデザイン力にも自信がありません。
 「作品の構想は、常にぼんやりと頭の中にありますが、明確に浮かぶのは素材を目の前にした時ですね。素材を手にとった時の直感を信じ、思いのまま創るのが私のやり方です。生徒さんの中には『美術の勉強をしていないから不安』という方や、『センスがないから』と、戸惑っている方もいましたが、まず自分の好きなように、思うままにお花を置いてみることです。すると、お花の美しさが自然と助けてくれますよ」
 そういって、にっこりと微笑む鈴木さん。どうやら私の心をお見通しだったようです。お花が作品づくりを助けてくれる……。女性らしく素直で、なんてやさしい言葉だろうと、しみじみ感じました。

散歩をしたり、野山を歩き回ったり、“小さな旅”も押し花づくりの一興。

 押し花には作品づくりのほかにも楽しみがあり、それは素材調達のための“小さな旅”だと鈴木さんはいいます。
 「素材はお花屋さんで買うのが主ですが、散歩に出かけ、空き地で見つけたお花を摘んだり、よそのお宅のお花を見そめて、お願いしていただいてくることもあります。それから、ハイキングを兼ねて野山に出かけ、草花を採集することも多いんですよ。すると自然に触れ合う機会が多くなって、ほんの小さなキッカケで季節の訪れを感じられる。それがまたうれしいですね」
 毎月、コンスタントに作品を手がけている鈴木さんですが、作品販売はほとんどしていないそうです。ちょっと残念に思い、理由をうかがってみたところ、少し表情を引き締め、話し出しました。
 「誰もが好いてくれるような作品を創ろうと思っているうちに、いつの間にか自分らしさを失っていたんです。好きなものを好きなように創りたい、そしてこの楽しさをたくさんの人に知ってほしいというのが私の本意ですので、販売を考えた作品づくりはやめることにしました。代わりに教室で押し花の良さと技術を伝えていこうと思ったんです」
 そんな鈴木さんの趣味は果実酒づくり。梅酒はもちろん、イチゴ、リンゴ、洋梨、ビワ、キンモクセイから卵のお酒まで約20種類にも及ぶといいます。
 「作ったお酒がズラッと並んでいるだけでうれしくて。でも果物やお花をみると、お酒にするより、つい押してみたくなっちゃうの。すっかりクセになっちゃってるみたい(笑)」
 今後は押し花の背景に草木染めやパステル調の色を敷くなど、さらにオリジナリティを深めていきたいと語る鈴木さん。その思いは、押し花のように色褪せることなく、いつまでも美しく咲き続けていくことでしょう。


鈴木雅子さんのホームページ
『マーコの押し花ルーム』
http://www.remus.dti.ne.jp/~maako/



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