<再生前の様子>
所有者である(株)ツー・ナイン・ジャパンは、先進の金属加工を施した打錠成型杵(錠剤製造基材)の開発などにより数多くの賞を受賞し、その技術は国内外から高い評価を得ている。
当初は研究開発施設を新たに整備する目的でこの土地を取得したが、そこには大正初期に建築された町家が解体されずに残されていた。委託を受けて調査を行ったところ、意匠や素材の使い方に建築された時代の特徴がよく表れ、改変も少なかったことから、文化的にも非常に価値の高い建物であることが判明した。京都市産業観光局、文化財保護課などから町家保存への強い要望もあり、今回の計画では伝統的空間を生かした研究開発施設「智慧夢工房
二九(ふたく)」として再生を行った。建物は主屋と土蔵からなり、奥には鉄骨造の工場が併設されている。建築と同時に庭園の修復整備もなされ、今後は賓客をもてなす空間としても活用される予定である。
敷地は京都市の主要な通りのひとつである九条通に面していて、周囲のほとんどが中高層の建物に建て替わる中、大正初期の町家の外観意匠を現代に継承する希少なものとなっている。改修後、平成29年には京都市景観重要建造物に指定され、文化庁の登録有形文化財となることも決定している。先端技術と伝統建築を組み合わせる試みは多方面から注目され、今では見学会等の問い合わせも多く寄せられている。解体から一転して保存再生を決断された社長の英断に、心より敬意を表したい。
<再生後の様子>