歴史
1.概論
「歴史」は、狭義には「ヨシュア記・士師記・サムエル記・列王紀」を指し、「前の預言者」とも呼ばれます。広義には「モーセ5書」を第1部の歴史とし、「前の預言者」を第2部の歴史として、2つ併せて「歴史」と呼びます。成立はバビロニア捕囚中の紀元前6世紀です。
一般には「モーセ5書」と「前の預言者」を「第1の歴史書」とし、「歴代志・エズラ記・ネヘミヤ記」を、それから派生した「第2の歴史書」と呼び、「前の預言者」と「歴代志・エズラ記・ネヘミヤ記」を併せて「歴史」と呼んでいます。「第2の歴史書」の成立はバビロニア帰還後の紀元前5世紀です。
2.「六書」と「申命記派歴史書」
モーセによって導かれたイスラエルの民の物語りは、ヨシュアによって引き継がれます。
この、創世記から始まりカナン定着で一連の歴史が完結したとして、創世記からヨシュア記までの「六書」を1まとまりと考える捉え方と、申命記から列王紀までが「申命記派歴史家」と呼ばれる人々によって編集されていると考える捉え方があります。
列王紀下22章〜23章に書かれている、ユダの王ヨシヤによる宗教改革の基本となった「律法の書」が申命記を指すことには異論がありません。
加えて、申命記から列王紀までの「申命記派歴史書」には、捕囚前と捕囚後の編集も見られ、何代にもわたる「申命記学派」と呼ばれる人々の手が加えられていると考えられています。
しかし、「六書」にしても「申命記派歴史書」にしても、それで「歴史(モーセ五書と前の預言者)」の全部を説明することはできません。
3.ヨシュア記
ヨシュア記には、モーセの時代にイスラエルの民の東ヨルダンでの定着が終わり、ヨシュアの時代にカナンに進入し、定着したことが語られています。
ヨシュアはモーセの働きを継承し、戦争から裁判まででを指導し、第2のモーセとして描かれつつ、次の士師時代を準備します。
征服が平和裡に行れたか、それとも戦闘的に行れたか、あるいは社会革命的に行れたのかには、どれにも異論があります。
ただ、考古学的に分かっていることは、諸部族の侵入は最初、人が住んでいない未住居地であり、部族間には統一した物品をともなう交流があり、連携は強かったと見られています。
4.士師記
士師記は、モーセ、ヨシュアの時代が終わり、統一的な指導者が現れず、部族間の協調が失われていく中、どのようにイスラエルの民は救われたのかを書くのがテーマです。
士師は裁判と軍事を指導しますが、特に軍事的指導者は大士師、裁判における指導者は小士師と呼ばれています。
士師は危機に際してのカリスマ的指導者であり、継承や血統とは無関係です。また、支配者になることもありません。
士師がイスラエル全体を指導することはなく、サムエル記には士師記には書かれていない士師も登場します。
士師は各部族の敵と戦う英雄であり、部族間の問題を調停する英雄です。
ここからは、イスラエルはたくさん(12部族以上)の、利害が異なる、単一ではない、様々な部族によって成り立っていたことが想像できます。
外敵や部族間の争いは、カナンでの定着が進むとともに激しく、混沌としたものになって行きます。
その背景には部族同士の主導権争いが考えられ、これはそのまま、南北対立を残したままの王政樹立へと進みます。
5.サムエル記
ギリシア語訳聖書では、サムエル記上下と列王紀上下は、「王国の書第一、第二、第三、第四」となっています。
サムエル記と列王紀は、共に王国の歴史書です。
サムエル記には、王政樹立前の外敵と部族間の緊張と、王政に伴う様々な試行錯誤があったことが書かれています。
同時に、サウルではなくダビデとソロモンが王として正当であることが描かれ、王国として各部族の争いが集約し分裂も明らかになり、王位継承の背景にそれらがあったことが伺われます。
6.列王紀
サムエル記が、すでにある、まったく異なる考えを持つ様々な資料が組み合わされて編集されたことと異なり、列王紀は最初から1つの歴史観のもとに資料が集められ、編集されたと考えられています。
その歴史家の主張は、申命記の主張と同じことから「申命記派歴史家」と呼ばれています。
列王紀は、ソロモンの即位から始まり、南北王国時代、王国の滅亡と捕囚を語ります。
申命記派歴史家の興味は、ヤハウェー礼拝の正統な場所としてのエルサレム神殿です。
それゆえ、ここに深く関ったソロモン、ヒゼキヤ、ヨシヤの3人の王だけを認め、他の王を非難します。
また、神殿の建築、修理、宝物を詳しく記録しています。
申命記派歴史家は、また、歴史における因果応報、それが預言者によって警告されていることを特徴とします。
7.エズラ記・ネヘミヤ記・歴代志
この3つの書は、バビロンから帰還した民がイスラエルの正統な継承者であることをテーマとして書かれています。
歴代志の資料の多くは、創世記、ヨシュア記、サムエル記、列王紀から取られ、独自の資料も見られます。
歴代志上3章には、バビロンに捕囚されたエホヤキンから8代目までの子孫の名があげられ、紀元前4世紀までダビデ家による王国復興が期待されていたことが読み取れます。
エズラ記6章と7章の間には57年間の断絶があり、エズラのエルサレム到着から13年後にネヘミヤが登場します。
エズラの活動はエズラ記10章で突然中断され、また突然ネヘミヤ記8章で現れ、律法の朗読、仮庵祭、契約更新が行われます。
エズラ記・ネヘミア記は、雑婚の禁止とサマリヤの分離を大きな出来事として取り上げています。