概論

 

 


 

 

1.70人訳聖書(セプタジンタ)

エジプトのアレキサンドリアで、紀元前3世紀から100年に渡って、ヘブル語原典からギリシャ語に逐語訳された聖書のことです。

72人(12部族×6人)の学者が翻訳に関ったという伝説から「70人訳聖書」と呼ばれています。

新約聖書が「律法と預言者」と言う場合、この聖書を指します。

現存する写本には、その後の(紀元4世紀まで続く)種々の改訂、変更、混入が見られ、元の形への復元は難しいとされています。

「死海写本」は、この70人訳聖書の研究に資すると見られ、これによって、本文に多様性があったことが分かっています。

 

 

2.マソラ本文

紀元5世紀から400年に渡って、研究に基づき、子音だけだった伝統的ヘブル語聖書に、母音、アクセント、句読点が挿入されたヘブル語聖書のことです。

マソラとは「伝統」を意味します。

パレスチナで成立したものとバビロニアで成立したもの、2種類があります。

現在は、パレスチナのものが採用されています。

70人訳聖書より成立は後ですが、ユダヤ教ではこちらの方が聖書としては正統だと受け取られています。

ヘブル語・アラム語が、原典としては必ず古いとは言えず、70人訳聖書とマソラ本文の本文批評は今も行われています。

「死海写本」は、マソラ本文成立以前の本文の多様性を指し示します。

 

 

3.ラテン語訳聖書

ラテン語訳聖書は、もともとアフリカで使われていたものが、イタリア、スペイン、フランスなどで用いられるようになった聖書のことです。

ギリシャ語からの正確な、しかも写本の地域が特定できる逐語訳が残されている3世紀から4世紀にかけてのラテン語訳聖書は、ギリシャ語訳聖書が改訂される前の形を残していることから、研究の対象にされてきました。

ヒエロニムスがギリシャ語、ヘブル語、アラム語、古ラテン語から訳したウルガタ訳聖書(ローマ・カトリック教会公認聖書)がもっとも精度が高いと言われています。

 

 

4.聖書の区分

  1. 伝統的には、聖書は「律法」「預言者」「諸書」の3つに分けられます。ユダヤ教は現在もこの区分を使います(キリスト教はこの3つをまとめて旧約聖書と呼んでいます)。


    福音書と使徒書もこれに従い、聖書のことを「律法と預言者」と呼んでいます。(マタイ11章13節、マタイ12章5節)


    「律法と預言者」を解釈した「言い伝え(ミシュナー、後のタルムード)」も、ユダヤ教の中では価値あるものとして伝わっていたことが報告されています。(マタイ15章3節)


  2. 何を聖典とするのか、「律法」についてはおおむね共通ですが、「預言者」「諸書」に何を含むかでは、ユダヤ人、サマリヤ人、キリスト教徒は同じではありません。


    ちなみに、ファリサイ派を中心とするユダヤ教は聖典の範囲を紀元70年〜90年のヤムニア会議で決め、聖書がこれ以上拡大されること止めました。サマリヤ人はサマリヤ派を排除するエズラ記・ネヘミヤ記等を認めず、紀元前2世紀に自分たちの聖書を決めました。キリスト教は諸書の延長線上に福音書・使徒書を含めることができる考え、新約聖書を聖書に含めています。


    さらに、「外典・偽典・言い伝え」をどう取り扱うかは、正教、ローマ・カトリック、プロテスタント、小教派、異端で異なります。


  3. 近代になってからは、学術的には「律法」「歴史」「預言」「歌」「文学」という区分が行われています。
  • 「律法」は、いわゆるモーセ5書のことで、「創世記・出エジプト記・レビ記・民数記・申命記」を指します。

    成立はバビロニア捕囚中の紀元前6世紀です。


  • 「歴史」は、狭義には「ヨシュア記・士師記・サムエル記・列王紀」を指し、「前の預言者」とも呼ばれます。

    広義には「モーセ5書」を第1部の歴史とし、「前の預言者」を第2部の歴史として、2つ併せて「歴史」と呼ぶ場合もあります。

    成立はモーセ5書と同じく、バビロニア捕囚中の紀元前6世紀です。


    一般には「モーセ5書と前の預言者」を「第1の歴史書」とし、「歴代志・エズラ記・ネヘミヤ記」を、それから派生した「第2の歴史書」と呼び、「前の預言者」と「歴代志・エズラ記・ネヘミヤ記」を併せて「歴史」と呼んでいます。

    「第2の歴史書」の成立はバビロニア帰還後の紀元前5世紀です。


  • 「預言」は、「イザヤ書・エレミヤ書・エゼキエル書・12小預言書」から成ります。「前の預言者」に対して「後の預言者」とも呼ばれています。

    聖書の順序は、年代順ではありません。もっとも古いアモス書は紀元前8世紀に書かれ、全体は紀元前2世紀に「預言」としてまとめられました。

    「預言」の中には、エゼキエル書、ダニエル書などのような「黙示」も含まれています。


  • 「歌」は「詩編・雅歌・哀歌・ルツ記・エステル記」で、生活の中や宗教的な場所で歌われ、残された作品から成ります。


  • 「文学」は「箴言・ヨブ記・コヘレトの言葉」で、「知恵文学」とも呼ばれています。

 

 

5.古代オリエント

 

オリエントは「肥沃な三角地帯」に当たり、東をバビロニア、北をアッシリアとメソポタミア、西をシリアとパレスティナに区分されます。

聖書に書かれている「約束の地」は、広義にはこの三角地帯を指し、狭義にはパレスティナを指します。

シリア・パレスティナは、その位置から、しばしばメソポタミアとエジプトに起こった帝国の侵略を繰り返し受けました。

シリア・パレスティナは地理的には一つの地域ですが、紀元前2000年頃に定着したイスラエル人によって、パレスティナはシリアと違う地域として発展しました。

ノアの子供セム、ハム、ヤペテは、イスラエルから見た古代オリエント世界の人々に当たります。

セムの子孫はイスラエルから見た東方(メソポタミアとアラブ)にいる人々のことであり、ハムの子孫は南方(エジプトとアフリカ)にいる人々のことであり、ヤペテは西方(ギリシャと小アジア)にいる人々のことです。

イスラエル人の先祖アブラハムは、セムから数えて10代目に当たり、イスラエル人は自分たちを古代オリエントの中心地からやって来たと考えています。

古代オリエント文化は紀元前4000年から2000年に活躍したシュメール人に始まり、その後メソポタミアに受け継がれ、隣接するギリシャ、エジプト(その他の文化)と相互に影響を与え合いました。

旧約聖書の背景にはこれらの文明の影響が見られ、これらの文明に残された資料から聖書の背景が理解されることがあります。

 

 


 

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