文学
1.概論
ユダヤ教聖典では「諸書」の1部である「箴言・ヨブ記・コヘレトの言葉」を知恵文学と呼びます。
「知恵」は、農業・鉱業・航海・建築など多彩な技能・技術や、裁判・統治・管理・支配などの能力、政治的手腕、占いや商売などにおける賢さなどを指します。
また「知恵」は、ことわざ・教訓・譬え・寓話・義人のリスト・倫理や道徳・人生訓・博物学的な知識・科学的な知恵・文学的な技術・人生への懐疑・悩み・苦闘・思想・哲学など、あらゆる要素を含んでいます。
古代オリエントには、共通して「知恵文学」と呼ばれる形が、紀元前3000年のエジプト時代からペリシア・ギリシャ時代に至るまで存在し、互いに影響を与えあって来ました。
旧約聖書の知恵文学の中にも、エジプト・バビロンから資料として採用された言葉が数多く見られます。
また律法や預言者の言葉の中に、部族が伝承してきた知恵が認められ、祭司や高官の子弟を教育する知恵の学校や、預言者の背後に知恵のグループがあったことなどが想定されています。
多くの知恵の収集はソロモン王に帰され、王国時代を通じて民衆の間にも広まったと考えられますが、王国滅亡によって知恵は啓示に至る道すじ、指導原理、教師と考えられ、ギリシャ時代には律法と同等の価値を持つ、人を教え導くものと考えられるようになりました。
2.エジプトにおける「アマト」
旧約聖書に見られる「知恵」は、エジプトにおける「アマト」に似ていることが分かっています。
「アマト」は創造の時に確立された神的秩序であり、宇宙の秩序として自然の中に現れ、社会においては正義として現れ、個人の生活では真理として現れます。
これに自らを適応させ、人生をマスターすることが、個々の状況の中で具体的かつ適切な行動を取ることです。
「アマト」は高位神によって創造され、人格化され、女神になります。
このような「知恵」に生きることは、旧約聖書においても、神に応えて自らが能動的に生きることを意味します。
3.箴言
箴言は、資料としては捕囚前から収集され、編集は捕囚後にまで続きます。
1−9章は、勧めに従うことを呼びかけます。ここには知恵の人格化が見られ、神と共にいる巧みな者(子供)として描かれ、エジプトのアマト(アトウムの娘・女神)との関係が考えられています。
10−22章は、ソロモンの格言集です。
22章17節以下の賢人の教えは、エジプトの知恵文学、アメン・エム・オペトの教えの写しです。
25−29章は、ヒゼキヤ王のもとにいる人々によって集められたソロモンの第2格言集です。
30章以下は、異邦の知恵者と考えられたアグルとレムエルの言葉と数とアルファベットによる格言です。
4.ヨブ記
ヨブ記は捕囚前に作られ、捕囚後に編集されたと考えられています。
古代オリエントには、ヨブ記以前にも、悪や苦しむ義人を取り上げた物語り、病人が友人と神の義について論じる物語りがあります。
またエジプトには、生存に飽きた男が家族に追われ自殺を語る物語り、雄弁な農夫が正義の回復を訴え繁栄を回復される物語りがあります。
ヨブ記は、悪や苦難の意味に答えません。それを取り次いでくれる仲保者がいないことと、それを受け入れることは神の知恵に参与することを語ります。
5.コヘレトの言葉
コヘレトの言葉は、紀元前3世紀後半に書かれたと考えられています。
伝統的な知恵を非難する哲学者のような態度が見られ、1人称で書かれていることが特徴です。アラム語に親しんでいる著者がヘブル語で書いたと見られます。
ギリシャやエジプトの影響、バビロンのコーヘレトにある主人と僕の対話や死後の命への探求との類似性も考えられています。
「むなしい」は、空虚と言うより「被造物のはかなさ」を意味します。