Division5c1 "Part1 Hibiya, TOKYO"

東京日比谷編

「三信ビル」
設計 横河工務所(主設計:松井貴太郎) 1929年



新幹線に乗って京都から東京方面に向かうとき、もうまもなく到着というころ有楽町のあたりで左手に目をやると、一瞬だが、日比谷にある三信ビルを目にすることができる。渋い茶色をしたスクラッチタイルの建物は、周りのどんなに高いビルよりも気品が感じられ、町中にあって独立した雰囲気を漂わせている。

東京駅で降り、皇居のお堀沿いに西に進んでいき、三信ビルをまじかに見上げる。電波塔らしきものを構え、頂には王冠のような飾りを備えた姿は、ウルトラマンに出てくるような秘密基地のような趣がある。そう、実際この建物は秘密基地のような存在といえなくもない。




中に入って驚かない人はまずいないと思う。ビルの中に入ったはずなのに、2階まで吹き抜けのアーケードが存在する。三信ビルは昭和のはじめに建てられた、いわゆるオフィスビルである。そのオフィスビルの中にこんなにも豊かな空間が存在するとはだれが予想できようか。タイル張りの床、数々の意匠に包まれた天蓋のなか、商店街のように、喫茶店や、旅行代理店が続く。通路を進むとビルのほぼ中央にエレベーターホールがある。円弧を描いて並ぶ5機のエレベーター。美しい、としかいいようがない。

ともすれば、機能優先、場所優先のオフィスにあって、この優雅でこころ落ち着かせる美しい空間を現出させた設計者はなにを思いながら、この建物を作ったのだろうか。美しさ、スマートさといった点では、再開発地区に現れた現代建築も捨てたものではない。しかし、一見してわかるこの違いはなんなのだろうか。おそらく家よりも滞在する時間が長いオフィスにおいて、すこしでも快適にすごすことができるように考えられた空間は、昭和初期という時代の空気だけでなくて、忘れ去られてしまった何かの作用によって、その美しさを際立たせているように思う。




郵便集荷BOX。各階と伝送管で結ばれ、オフィスにいながらにして手紙を出す
ことができる近代建築における最先端のインフラ。国会議事堂にも同様の設備
が存在する。消火栓が収められたBOXといえど、細部の仕上げは立派そのもの。
今現在も現役で活躍している点が、設計の確かさの証拠になっている。



2階に位置する洗面所?水のみ場? 一階と二階で装飾が異なる。
トイレとは別に、通路の途中で突然現れるなぞの設備。



アーケードのあちこちで、隠れるように存在するさまざまな意匠。階段の手すりひとつとって
も、手抜かりはない。


参考図書
雑誌「東京人」2000年4月号、2002年1月号。都市出版発行。





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